「根が暗くて、うっとうしい」と「気は効くけど、温かみがない」。どちらの女性が書いた物語を読みたい?【NHK大河『光る君へ』#31】

2024.08.19 LIFE

まひろの「根の暗さ」は作家としての強みに。「個性」や「人間観」が反映された

本放送には、まひろ(吉高由里子)が後の『源氏物語』を生み出すにあたってさまざまな声を集め、自身を見つめていた様子が描かれていました。

 

まひろは先に世に出た『枕草子』の感想を周囲に聞き、読み手が何を求めているのか把握しようと試みます。『枕草子』を「面白くない」と一蹴したあかね(泉里香)にもまひろはこの物語の感想を再度聞きます。

まひろ(光る君へ) あかね(泉里香) 大河ドラマ「光る君へ」 31話(8月18日放送)より(C)NHK

あかねは「『枕草子』は気が利いてはいるけれど 人肌のぬくもりがないでしょ」と、面白く思わなかった理由を具体的にまひろに伝えます。

 

また、まひろは創作の前に自身を客観的に見つめ直すこともします。弟の惟規(高杉真宙)には人と話すことで気付くことがあるといった理由から、「じゃあ私らしさって何?」と自分について尋ねていました。

まひろ(吉高由里子) 惟規(高杉真宙) 大河ドラマ「光る君へ」 31話(8月18日放送)より(C)NHK

惟規は「そういうことをグダグダ考えるところが姉上らしいよ」「そういう ややこしいところ」「根が暗くて うっとうしいところ」と、弟として思うことをストレートに伝えます。すると、まひろは「根が暗くて うっとうしい…」と弟の言葉を繰り返し、何かをひらめいたように立ち去りました。

 

紫式部は内向的で、性格が暗いと言われることが多いですし、『源氏物語』には人間のダークな部分が色濃く描かれていますが、惟規の発言はまひろの創作において大きな影響を与えたと思われます。また、紫式部にはグダグダ考えるところがあったようですが、こうした特性もまひろは受け継いでいるようです。

 

本作では、まひろが綴る物語の特色として人間が抱える暗澹とした部分が重んじられていると考えられます。こうした見方は、道長(柄本佑)がまひろの物語の感想を「飽きずに楽しく読めた」と伝えると、「楽しいだけでございますよね」と不満そうにする姿にもいえるでしょう。彼女は人生が楽しいことだけではないように、物語にも楽しさだけではなく、何か別の要素を織り込もうとします。

まひろ(吉高由里子) 道長(柄本佑) 大河ドラマ「光る君へ」 31話(8月18日放送)より(C)NHK

物語についてあれこれ悩む中で、一条天皇(塩野瑛久)の人柄や若き日のことなどについて話してほしいと道長に頼みます。彼から話を聞き終わったまひろは「帝も また 人でおわすということですね」「帝のご乱心も人でおわすからでございましょう」と結論付けます。そして、道長も「それを表に出されないのも 人ゆえか」とつぶやいています。

 

『源氏物語』には美しい光源氏が抱える闇、心の格闘が描かれています。また、本書において人間の本質の描写も特長です。愛する人を追い続けるのも、他人に嫉妬するのも、ねたみから心ない行動に走るのも、権力を渇望するのも特定の時代における人間の特性というよりも、人間全体の特性だと思います。

まひろ(吉高由里子) 大河ドラマ「光る君へ」 31話(8月18日放送)より(C)NHK

“人間とは何か…”という問いの答えを探り出すかのように、まひろは言葉をつないでいきます。

 

 

【史実解説】『源氏物語』は日本の政治に大きな影響を与えていた!

本作においても『源氏物語』が一条天皇の心を大きく動かし、道長の出世にも影響しそうな予感がします。

道長(柄本佑) 大河ドラマ「光る君へ」 31話(8月18日放送)より(C)NHK

本作ではカササギ語りの評判を聞きつけた道長がまひろのもとを訪ねていましたが、史実においては道長が紫式部に声をかけたのは『源氏物語』の一部が評判になった後と一般的に考えられています。道長は彰子のまわりを帝に興味をもってもらえる空間に整えようと企て、『源氏物語』で名を知られていた紫式部を彰子の女房として招き入れたのです。

 

『源氏物語』は彰子や道長の政治にも大きな影響を与えました。本著の豪華版は彰子と一条天皇をつなぐ架け橋になったという説もあります。

一条天皇(塩野瑛久) 大河ドラマ「光る君へ」 31話(8月18日放送)より(C)NHK

印刷技術がなかった当時、本の複製は人間の手作業ですべて行われました。清書係が原稿を書き写し、戻ってきた原稿を手作業で綴じます。道長は上質な薄様紙(うすようがみ)や墨、筆などを用意し、紫式部と彰子は冊子作りに携わったと伝わっています。

 

彰子は『源氏物語』を手に内裏に帰ると、翌年の11月に敦良親王を出産しました。また、彼女はさまざまな経験をする中で、中宮としての風格をそなえていったといわれています。彼女は道長に意見できるほど強く、たくましい女性だったとか。

 

道長と彰子が『源氏物語』の豪華版を一条天皇に贈らなければ、一条天皇と彰子の関係や一条天皇の道長に対する評価はいくらか変わっていたかもしれませんね。

 

続きの【後編】を読む▶ 「光る君へ」をもっと深く知るために、平安時代における「紙」について解説していきます。当時は「紙」は高級品!貴族たちも紙を当たり前に使いまわしていた?

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参考資料
昭文社 出版 編集部 (編集)、竹内正彦 (監修)『図解でスッと頭に入る紫式部と源氏物語』‎ 昭文社 2023年

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