「大丈夫だからね」能登地震のストレスで、子どもたちに心の不調が! 街の風景は変わってしまっても「私たちらしさ」は変わらない
冷静でいられたのは、「好き」と「得意」があったから
大きな環境変化のもと、夫や子どもたちの声に全力で耳を傾けながら震災後の日々を過ごしてきた千絵さんでしたが、自身の心は疲れることなくいられたのだとか。その秘訣は、震災前から大切にしていた『自分を取り戻す時間』を変わらず確保することにあったようです。
「私はもともと手帳に色々なことを書くのが習慣でした。日々の出来事や子どものことを文字や絵で綴っていると、徐々に心が静まるんです。
家族が起きてくる前のわずかな時間、一人静かに感謝と小さな祈りを込めつつ、手帳を開きながら、お香の香りに包まれたり、夫が作った小さなクッキーとコーヒーを飲みながら過ごしたりするひとときが好きなんです。
そんな 『もともと好きだった時間・空間』 を続けていることが、震災を経ても変わらず、私の心を整えてくれていたように思います。」
震災を通して見つけた、私ならではの貢献の方法
自らの心を落ち着けながら、震災を通して家族をはじめとした人の話を聞く機会が増えた千絵さん。今、新たな目標として、ある民間資格を意識し始めているといいます。
「主人はケーキを作って、誰かに喜んでもらっている。では私は何で人を喜ばせられるかと考えたら、“聴くこと・傾聴力”が私ならではの方法なのかもしれないと感じています。だから、悩める人の心に寄り添い話を聞く方法を、もう少し深く学びたいと考え始めました。
もともと聞き役に回りがちで、家族や友人から相談や悩みを持ちかけられることも多かったのですが、そういえば相手に共感しても、私自身の気持ちが落ち込むようなことが少なかったことに気がつきました。気持ちがぐらついたり、一緒に悩んだりすることはあっても、それはほんの一瞬で、私自身の芯が長く揺らぐことがないな、って。
それは、震災後の非常事態でも同じでした。聞き役を引き受けても心身が疲れることなく、それよりも相手が元気を取り戻したり、前向きな行動を取れるようになったりすることがとてもうれしいんです」と、自らの喜びを語ります。
「資格を取得するか、仕事にするか、それは現時点ではまだわかりません。
でも、震災後の我が子がそうであったように、家が無事だとか見た目は元気だということとは関係なく、実は心は傷ついているという方は多いと思うんです。私が何かアドバイスするのではなく、そういった方々が話したいことに心から向き合い丁寧に耳を傾ける――そういう貢献の仕方もあるのかもしれないと、今は思い始めています。
災害等がないに越したことはないけれど、それでもこの経験を活かすのだとすれば、これが私なりの一つの形なのかもしれません」。
何気ない日常を愛おしく感じる毎日。大切にしてきたことは、変わらず丁寧に続けていく
震災から10か月を迎える今、改めて千絵さんが感じる「家族のカタチ」とは、一体どのようなものなのでしょうか。
「周りの風景や状況はだいぶ変わりましたし、様々なことを考えざるを得ない大きな出来事でした。それでも……というより、だからこそ、変わらず私たちらしくあることがとても大切だ、とも思わされました。
おかげさまで夫の店は5月から営業を再開できたのですが、その直後から今に至るまで、大変な目に遭われた常連さまたちも、変わらず足を運んでくださっていて、主人共々、心から感謝の気持ちで一杯です。
被災の状況は本当に様々なのでとても難しいのですが……それぞれの状況に向き合いながら、あるいはお客さまとの会話を通じて改めて思うのは、自分たちがこれまで大切にしてきたことを、改めて一つずつ大切に実行していくことが大事なのではということです。店では、心を込めてケーキを作り、お茶をお出しする。家では、家族と挨拶を交わし、皆で食卓を囲めることに日々感謝する。
何気ない日常の一つ一つの積み重ねを、より愛おしく思えるようになりましたし、そうやって“変わらないこと”こそが、私たちの家族のカタチなのかもしれません」。
≪取材協力・画像提供≫ 「なかの洋菓子店」中野千絵さん
「なかの洋菓子店」石川県鳳珠郡能登町恋路 3字7番地(Tel:0768-72-1001)
生ケーキ、焼き菓子等のテイクアウト販売のほか、目の前に能登の名所・恋路海岸が広がる併設のカフェスペースも。焼き菓子は希望に応じた詰め合わせ、配送が可能(ネット販売はしていないため、電話でお問合せを)。
【営業時間】土日祝.10:00~15:00 ※ケーキがなくなり次第、終了
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