「発達障害者らしく生きたらいいんだ」そう思えるまでに10年。特性に合った仕事を見つけて今は幸せ
岡田俊先生のここがポイント!
ADHDに伴う日常生活の困難が、子どものときと大人になってからと、どちらが大きいかという質問をすると、その答えは百人百様でしょう。
子どもの時には、様々な学習や受験、仲間関係、家庭生活などの課題を乗り越えていく必要がありますし、いじめなどの厳しい境遇を経験するかもしれません。そのような中で頼りになる大人や仲間に助けられた人もいれば、そうでない人もいるでしょう。
大人になると、自分に合った仕事が見つけられた場合には良いですが、仕事で求められるスキルは多様ですし、部署が変わったり昇進することによって適応状況も変わってきます。
家庭生活でも、子どもの有無や成長によって、夫婦に求められるスキルも変化していきます。
自分で何に困っているに気付いたり、必要な支援を求めたりするスキルは、大人のほうが優れています。
ただ、ADHDがある場合、こういったことを自分だけでやっていくのは酷であり、一定の周囲の理解や支援が必要なことが多々あります。このような配慮は、その人の力を最大限発揮するためには不可欠な、ちょっとした工夫です。
大人になってから、うまく適切な配慮を求めたり、支援を活用したりできるかは、子どもの時にどのように支えられてきたかという経験によります。
もし、ことごとく大人に見放されたり傷つけられてきたら、そもそも誰かを信頼したり、助けを求めたりすることはありません。子どもの時に、誰かに助けてもらったり、自分なりの工夫をしたりしてきた当事者は、支援を活用するのも得意ですし、苦しい状況に置かれたとしても、それを乗り切るノウハウを持っている・知っているということになるのです。これはその人にとっての強みだと言えます。
石橋さんの場合は、いろいろな苦労があり、また発達障害に対する周囲の認知が十分でなかったとしても、自分自身で様々な工夫をしてきました。
ご自身で気付いている場合も気付いていない場合もあると思いますが、何らかの配慮はされてきたのではないかと思います。社会に出てからは転職を繰り返すことを余儀なくされていますが、そのようななかで自分の特性と向き合い、同時に強みも見出すことができています。そして、自分なりの工夫もできています。また、当事者同士の仲間を見出せたことも、石橋さんならではの力だと言えます。
合理的配慮の必要性が言われていますが、これはその人の特性に合った環境の調整を行い、その人の力が発揮しやすい環境を作ることです。
発達障害のある人のために、周囲が我慢しなければならないとか、当事者を免責しなければならないという意味ではないのです。
確かに、その仕事を続ける限り、誰かが不足をカバーしなければならないこともあるかもしれません。しかし、業務内容を見直すことで、不足をカバーする必要がなくなったり、もっとその人の力を活かしたりすることのできる業務をお願いすることができるかもしれません。
そのためには、障害特性を当事者と周囲の人が共に知り、調整し合える環境づくりがまず大切だと言えます。
▶つづきの【後編】を読む▶診断されたのを機に障害を受容した石橋さん。特性に合った仕事に就くことができ、結婚して子どももできました。どのような結婚生活・育児をしているのでしょうか? __▶▶▶▶▶
【岡田俊先生プロフィール】
奈良県立医科大学精神医学講座教授
1997年京都大学医学部卒業。同附属病院精神科神経科に入局。関連病院での勤務を経て、同大学院博士課程(精神医学)に入学。京都大学医学部附属病院精神科神経科(児童外来担当)、デイケア診療部、京都大学大学院医学研究科精神医学講座講師を経て、2011年より名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科講師、2013年より准教授、2020年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長、2023年より奈良県立医科大学精神医学講座教授。
【編集部より】
■小学生~高校生の「思春期こども」がいる方。第二次成長期にまつわる困りごと等について、お話を聞かせてくれませんか? >>> こちらから
スポンサーリンク