「パパはアホ宣言」をして、夫としても親としてもプライドは捨てた。障害を受容して生きる「覚悟」ができた

2024.10.16 LIFE

【岡田俊先生のここがポイント!】

石橋さんのいう「アホ」は、関西独特の表現であり、そこが他の地方にお住まいの方にどこまで伝わるものかは定かでありません。
関西でいうところの「アホ」は、どこか愛らしい、生来の間が抜けたところのことをいうのであり、「なぜ。お前はなぜそうなのか」と詰問することも、それを克服することを求めることもありません。

また「アホ宣言」をしたというのも、ご本人はプライドを捨てて…という表現になっていますけれども、自己卑下しているわけでもありません。
石橋さんの随所に見られるのは、自分なりに自分らしく生きていく、それ以上のことをしようとしてもできないし、それが自分を活かすためにも一番だということなのでしょう。
でも、この言葉は発達障害の有無に関わらず、誰にも言えることなのかもしれません。

 

 ご家族が「だまされた」「開き直っているのがうっとうしい」と言うのは言い得て妙です。だまそうとしたわけではありません。また、克服しようとする努力が欠如しているわけでもありません。
お付き合いをしている段階では困難は見えにくく、優しさや素直さなど、ポジティブな面が表に見えたのでしょう。しかし、実際に暮らしてみると、それ以上のことが要求され、難しさも見えてくる。そこを受け止めている当事者家族の大変さも理解する必要があります。
石橋さんも、その感謝を忘れないところがどこか見えるからこそ、夫婦円満に進んでいると思います。

石橋さんはギリ層だと言いますが、それはご家族にとっても「ギリ」であり、ときには限界を超えるときもあるでしょう。すべての当事者がこういくわけではなく、家族の困難はもっと深刻だという現実もあることは直視する必要があります。

 

 定型発達と発達障害をどう考えるかというときに、血液型のように考えるというのは、ニューロダイバーシティーの考え方に近いといえましょう。
互いにフラットな関係であり、少数派と多数派という違いに過ぎないわけです。
血液型でその人の行動パターンがわかるなどという医学的に根拠のない言説は巷ではよくありますけれども、その真偽を突き詰めなくても良いのは、人の行動パターンは様々であり、そうして社会は成り立っているからです。
しかし輸血のように、血液と血液を混ぜ合わせたとしたら、そういう悠長なことはいってられない重大な事態に発展します。

結局、私たちが互いの違いに対して寛容になれるかが、人と人との交わり方をほどよく保てるのか、という社会の在り方に関係していることともいえます。
ネット社会が広がり、さらに、コロナ禍を経て、私たちのつながり方も変化してきました。そのつながりの多様性を大切にすることも重要なことかも知れません。

 

 

【岡田俊先生プロフィール】

岡田 俊 先生

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長/奈良県立医科大学精神医学講座教授

1997年京都大学医学部卒業。同附属病院精神科神経科に入局。関連病院での勤務を経て、同大学院博士課程(精神医学)に入学。京都大学医学部附属病院精神科神経科(児童外来担当)、デイケア診療部、京都大学大学院医学研究科精神医学講座講師を経て、2011年より名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科講師、2013年より准教授、2020年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長、2023年より奈良県立医科大学精神医学講座教授。

 

 

【編集部より】

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