もしも子どもが「学校に行きたくない」と口にしたら。婦人科専門医が解説する「ホルモン由来のメンタル不安定」の対処

いつお目にかかっても、優しくてポジティブなお話に元気を分けていただける産婦人科医の小川真里子先生。「お会いするだけで更年期の沈んだ気持ちが前を向く」とファンも多数です。現在は福島県立医科大学での診察のほか、週に一度東京・JR五反田駅のアヴァンセレディースクリニックで更年期外来をお持ちです。

 

更年期のトラブルに精通する小川先生は、「思春期外来」をご担当だったことも。今回は、ちょうど思春期を迎えた子ども世代が直面する、ホルモンのゆらぎのトラブルについてお伺いします。

 

「反抗」「不登校」「メンタル不安定」…思春期特有のトラブルは初潮や精通と関連がある?

――軽いものを含めて、子どもの不登校を経験したママ同士が集まって会話していると(我が家もです)、どうも初潮などホルモンの変化とトラブルが関係しているのではという話になります。

はい、関係があると思います。メンタルの不安定は思春期、第二次性徴のころから増えていくのですが、大人になると女性のほうがうつ病有病者が2倍多いけれど、初潮までは男女差がありません。第二次性徴から女子のほうがうつ病が多くなるので、女の子は女性ホルモンの分泌が始まり、ゆらぐことが大きく関係していると考えられます。

 

最近は生理にまつわるトラブル、たとえばPMSで学校に行けなくなったというお子さんががたくさんいらっしゃいます。小児科で起立性調節障害と診断がおりたお子さんも多いのではないでしょうか。

 

東京歯科大学市川総合病院では思春期外来も担当しました。当初は「学校帰りに来院できたほうが」と夕方に開設したのですが、いらっしゃるお子さんの多くが学校に行っていないので、あまり夕方の意味がなかったということがありました。この外来では、学校に完全に行けない、学校が大嫌いという従来の不登校だけでなく、学校はそれほど嫌いではないのだけれど行き渋る日がある、今日は行かないという日が続く、そんな準不登校のようなお子さんも多かった印象です。

 

――文科省によれば23年度の不登校者は34万6482人、前年度より約4万7000人多く15%の増加、11年連続増で過去最多となりました。なぜ不登校が増えていくのでしょうか。

準不登校のお子さんも含めて、不登校的な行動をとる子どもが最近になって急激に増えているというわけでもないのだと思います。かつては学校は何としてでも行かねばならない場所だったのが、10年ほど前から行かなくていいよというムードに変わり始めました。それでもコロナ禍までは頑張って行きなさいと言っていたのが、コロナ禍で急速にオンライン化が進みいろいろな選択肢ができたため、結果的に行かないことを受け入れたご家庭が増えたのでしょうね。

 

通信教育を利用しているお子さんが多いなと感じるのですが、通信で毎日勉強できるならそれでいいのだと私は思います。毎日行く・行かないで親子バトルを繰り広げては親のメンタルも持ちませんから、本人に合った選択肢を選べるようになったことを歓迎すべきなのだと思います。何より大事なのはこの時期に勉強をすることです。本人がいちばん安心して勉強できる何かしらの方法を選択して、学校に行かなくても学習を継続できるということがよいのだと思います。

 

集団生活が好きではない子どもは実のところ結構いて、私もあんまり好きではありませんでした。でも、大学生になったら、あるいは社会に出たら、もう常時みんなでグループ行動しないとならないわけでもありません。集団生活が好きではない子もうまくやってけるかもしれません。ですから、学習だけは途切れず継続させるのがよいと思うのです。

 

月経痛が原因で不登校が始まったとしても、月経痛が収まれば元通り登校というわけではない

――学校に全く行かなくていいよ、とはなかなか言う度胸が出ません。口先では行かなくてもと言っても、本心では「やっぱり行ってほしい」です。

そうですよね。ここにいくつかの問題が隠れているかもしれません。まず、PMSや月経痛で学校に行けなくなったお子さんに親御さんがついて来院されますが、親は「月経痛がなくなればまた元のように学校に行ける」と固く信じているのです。もちろん行ける子もいますが、そうではない子もいるのです。月経痛だけが原因ならば、月経ではないときには学校に行けているはずですから。ただ、どうして行けないのかという問題を突き詰めたほうがいいのかは何とも言えず、難しい問題です。

 

また、これが婦人科の領域なのか、児童精神科の領域なのかも難しいところです。そもそも児童精神科自体がとても少なく、また、発達障害も診察するクリニックとなるとさらに少ないのが現状です。本来は児童精神科、小児科の先生がたと産婦人科が一緒に何かできるといいなと思うのですが、皆さん日頃の診療でせいいっぱい、お互い協働したくてもなかなか難しいのです。ですので、メンタルの問題はメンタル専門の先生に診ていただき、学校に行けない原因の一つにホルモン由来のトラブルがあるようならばそこは産婦人科が個別に対応できればと思っています。

 

*ここまでのお話ではホルモン由来のトラブルに見舞われた子どもをどう見守ればよいのかについて伺いました。続く記事では医療でどのようなアプローチができるのかを伺います。

 

つづき>>>初潮を迎えた女児が「ふらふら」「イライラ」系の不調を訴えるとき「まず疑ってみるべき原因」とは?婦人科専門医が解説

 

お話/小川真里子先生

福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 医学部産科婦人科学講座 特任教授

1995年福島県立医科大学医学部卒業。慶應義塾大学病院での研修を経て、医学博士取得。2007年より東京歯科大学市川総合病院産婦人科勤務、2015年より同准教授。2022年より福島県立医科大学 特任教授。日本女性医学学会ヘルスケア専門医、指導医、幹事。日本女性心身医学会 認定医師・幹事長・評議員。日本心身医学会 心身医療専門医・代議員。2024年4月から福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授。東京・JR五反田駅のアヴァンセレディースクリニックで、毎週金曜午前に完全予約制の更年期・PMS外来もお持ちです。

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