ギャンブル依存症の夫に振り回され、長男は不登校に…。普通の家族じゃなくてもいいから楽しく暮らしたいのに(後編)
【岡田俊先生のここがポイント!】
発達障害は、遺伝と環境の両方が関与しているといいます。しかし、このシンプルなひと言を正確に理解することは容易ではありません。遺伝という言葉を聞いたとき私たちが思い浮かべるのは、生物の授業で習ったスイートピーの花の色や形、種の色やしわの有無といった形質の遺伝ではないでしょうか。これはメンデル遺伝といいます。
遺伝子は対(二つで一組)をなしており、誰もがその対を持っています。そして、子は親が持っている遺伝子のどちらか一方を、それぞれの親から受け取って対を作ります。それぞれの遺伝子については、どちらの方が表現されるか(顕性)、されないか(潜性)が決まっています。そのため、親からもらった組み合わせによって表現型が100%決まるというものです。
発達障害はどうでしょう。発達障害には「遺伝子」(あえてDNAといったほうが分かりやすいかもしれません)が関与していることが分かっていますが、発達障害の関与が報告されている遺伝子は数え切れないほどで、また、その関与の強さの程度もさまざまです。
ご存じのように発達障害はスイートピーの花のように、その表現型があるかないかではなく、その特性の強さやパターンもさまざまです。さらに、一卵性双生児(遺伝子が同じ双子)での診断一致率(双子の両方が同じ診断を受ける率)は100%ではありません(例えば自閉症の場合、70-90%です)。このことから遺伝子だけでは決まるわけではないということが分かります。
また、二卵性双生児(遺伝子が異なる双子)では、5-10%とされています。この数字は一般に診断される確率の3-5倍高い数字にとどまります。さきほど、自閉症に関与する遺伝子が多数報告されているといいましたが、両親のどちらかに子どもの発達障害の原因遺伝子があるかどうかを調べた研究では、両親にその遺伝子がある確率は決して高くありません。
つまり、子どもの遺伝子が決定する段階で変異が生じているというケースが非常に多いのです。ですから、親が発達障害だから子どもが間違いなくそうだとか、子どもが発達障害だと、親にも必ず同じような特性があるという説明を受けたとしたら、それは不正確な説明ということになります。
併せて、環境という言葉も育て方と誤解されやすいものです。そうではなく、鉛など重金属への暴露、低酸素、超低出生体重、妊娠期間中の特定の薬剤(バルプロ酸など)への持続的暴露などが、もともと持ち合わせている遺伝的リスクをより高める方向に働くのです。
実際には、親子とも、ご兄弟ともに発達障害があるということは少なくありません。しかし、そのように強調されがちなときもあります。それは、発達障害の子どもの養育や家族との付き合いに疲弊して、その人の生きにくさがより際立ってしまうことも意識しておく必要があります。
グレーゾーンについては、以前のコメントの中で触れさせていただきましたが、まだ診断がつかない(今後つくかもしれない)ということでもありませんし、グレーゾーンにとどまるから配慮が不要であるとか、本人の努力で乗り越えるべきということを意味しているわけではありません。
発達障害特性ははっきりとあるけれども、診断基準を超えているかどうかということになると、その近傍にあるということです。ですから、発達障害のある子どもに対する支援はグレーゾーンの子どもにも有効です。また、発達障害特性が軽度であるからといって、その子の困りが小さいとは限りません。
周囲からはその子の困りが見えにくく、その子に合わせた環境が提供されにくく、また本人も気づきにくいのです。そのため付き合い方についていろいろ工夫を凝らさないといけないという点では、発達障害である場合もグレーゾーンにとどまる場合も同様と考えるといいでしょう。
「普通の暮らしは無理だから不幸かというと全くそんなことはなくて、自分が思っていた形ではないものができてきた気がします。今は、その形ができあがる過程にいるのです」
とのこと。発達障害であることは、誰も望んだことではありませんし、想定していたことではありません。しかし、現実というのはいつも望むと望まざるに関わらず、直面しなければならないものです。この境地に達するまでには、幾多の悩みがあったことと思います。その新しい家族の形ができたとき、それが本当の与えられた幸せなのでしょう。
<<この記事の前編:自助会にもなじめない、ギャンブル依存症の夫。発達障害が原因と言われたけど…
【岡田俊先生プロフィール】
奈良県立医科大学精神医学講座教授
1997年京都大学医学部卒業。同附属病院精神科神経科に入局。関連病院での勤務を経て、同大学院博士課程(精神医学)に入学。京都大学医学部附属病院精神科神経科(児童外来担当)、デイケア診療部、京都大学大学院医学研究科精神医学講座講師を経て、2011年より名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科講師、2013年より准教授、2020年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長、2023年より奈良県立医科大学精神医学講座教授。
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