
吉原の遊女への折檻「燻し責め(いぶしぜめ)」って? 身請けしてもらえず逃げた遊女を待っているものとは
*TOP画像/鳥山検校(市原隼人) 瀬川(小芝風花) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」9話(3月2日放送)より(C)NHK
「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」ファンのみなさんが本作をより深く理解し、楽しめるように、40代50代働く女性の目線で毎話、作品の背景を深掘り解説していきます。今回は江戸時代における「遊女の身請け」について見ていきましょう。
遊女が吉原から年季明け前に出られる正当な方法
吉原は男にとっては“地上の楽園”ですが、遊女にとっては“苦界”でした。彼女たちは家族の借金のために売られた女性であるため、自ら望んでこの場所にいるわけではありません。
遊女として吉原に入ったら年季が明けるまで働き続けなければなりません。しかし、遊女には年季が明ける前に吉原から出られる正当な方法が1つだけありました。その方法とは、身請け。身請けとは馴染みの客が年季証文を買い取り、遊女の身柄をもらい受けることです。
とはいっても、身請けしてもらえる遊女は極僅かにすぎませんでした。というのも、遊女を身請けできるほどのお金がある男は少なかったから。花魁を身請けするには現代の価格では1億円ほど必要だったといわれています。ちなみに、安価な身請けでも現代の価格でいうところ1000万円近く必要だったようです。
身請けが決まった遊女にはその男性から結納品として、着物を仕立てるための反物が贈られました。遊女を身請けする男性は大名や成功した商売人といった“超”富裕層であったため、身請けされた遊女は悠々自適に暮らせる可能性もありました。また、身請けされた遊女の中には相手に遺言を書かせ、その男が亡くなった後で商売を営んだしたたかな女性もいます。
ちなみに、遊郭の主人にとって遊女の身請けは大儲けできる機会でした。『べらぼう』では松葉屋の主人・半左衛門(正名僕蔵)といね(水野美紀)が瀬川(小芝風花)の身請けに必死でしたが、なにせ約1億円がかかっていますからねぇ~。
瀬川を1億4000万円支払って、身請けした鳥山検校
本放送には鳥山検校(市原隼人)が瀬川(小芝風花)を身請けする話が出てきましたが、史実においても鳥山検校は5代目瀬川を身請けしています。1775年、鳥山検校は5代目瀬川を1400両(現代の価格:1億4000万円)で身請けしました。
なぜ、鳥山検校がこれほどの富を所有しているのか気になる人もいるはずです。鳥山検校は当道座(男性視覚障害者の自治互助組織)の最高位の官位に就いていました。上位の官位ほど身分保障は手厚く、そのトップとなればかなりのものでした。さらに、この男は悪質なほど高い利子で貸付を行い、自身の懐を肥やしていたのです。ちなみに、鳥山検校は瀬川を身請けしてから3年後に悪質な高利貸しの罪で処罰されています。
吉原を不正な方法で逃げ出す遊女も…
吉原はお歯黒溝と黒板塀で囲まれていました。客にとってはワクワクする立地や設計であり、舟で吉原に行くのは粋だったよう。しかし、こうした設計は客の気分を上げるためではなく、遊女を逃がさないためでした。
吉原の正式な入口は大門といわれる門のみ。駕籠(かご)に入ったまま大門をくぐることは医者を除いて許されていませんでした。また、門の前では見張りが目を光らせていました。吉原は当時における観光地であったため女性客の出入りもありましたが、女性が門を出るには茶屋で許可書(切手)を発行してもらわなければなりませんでした。いずれも遊女の脱走防止のための策です。
許可書(切手) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」9話(3月2日放送)より(C)NHK
とはいっても、遊女が脱走を試みたケースは少なからずありました。脱走した者の中には捕まった者も逃げ切った者もいます。また、遊女が客と両想いになり、駆け落ち、もしくは心中することもありました。
遊女にとって吉原脱走は成功率が低かったものの、火事の混乱の中であれば通常よりも脱走にやや成功しやすかったといわれています。火事が起きれば警備は手薄になりますし、人びとが混乱するためです。遊女の中には自ら火を放った者もいました。当時、放火犯は火あぶりの刑を一般的に科されましたが、遊女は厳しい境遇が考慮され(情状酌量)、島流しの刑が科せられることも多々ありました。
脱走に失敗した遊女には恐ろしい罰が待っている
遊女は吉原脱出に失敗すると遊郭の主人から酷い仕打ちを受けました。主人は商品である遊女の身体に傷がつかないようにお仕置きをしていました。
燻し責め(いぶしぜめ)は遊女に与えられた罰の1つです。燻し責めとは炎ではなく、煙で人を痛めつける方法。縄で縛り、顔に煙をかけます。しかも、煙を出すために燃やされる植物はニラや唐辛子など刺激が強いもの。燻し責めを受けた遊女は目鼻の粘膜に痛みを感じ、呼吸困難になったといわれています。
とはいえ、遊女は身体に傷がつく体罰を受けなかったわけではありません。脱走を何度も繰り返したり、主人への反抗が目に余ったりすれば、体罰を受けることもありました。
本編では、江戸時代の遊女の身請けと、逃げた場合の罰についてお届けしました。
続いての▶▶脱走に失敗した女郎に、女将が掛けた言葉とは。宿命を受け入れる瀬川の強さに涙が…【NHK大河『べらぼう』#9】
では、大河の内容について深堀りします。
参考資料
安藤優一郎(監修)『江戸のメディア王と商人文化の黄金期が2時間でわかる! 蔦屋重三郎見るだけノート』宝島社 2025年
永井義男『蔦屋重三郎の生涯と吉原遊廓』宝島社 2024年
日本史ミステリー『日本で本当に行われていた 恐るべき拷問と処刑の歴史』 彩図社 2015年
吉田浩『決定版 蔦屋重三郎のことがマンガで3時間でマスターできる本』明日香出版社 2024年
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