「ゆとりある老後」か「老後破産」か。40代から考える年金不足の乗り切り術 【おこなしさまという生き方Vol.14 】
「私たちが老後を迎える頃には、もらえる年金は減っているだろうな」……。少子高齢化に伴い、このままでは年金制度が崩壊するのではないかと不安視されている昨今。将来、年金制度がなくなるとは考えにくいものの、楽観視できない社会問題です。昔のようにすべて国任せにするのではなく、年金も自衛策を講じる時代になってきました。そこで、“おこなしさま”の年金問題について考えていきます。
まず、年金についての基礎知識から
年金は、「公的年金」と「私的年金」があります。公的年金は、20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金」と、会社員・公務員が加入する「厚生(共済)年金」。私的年金は、政府以外の組織が運営する年金のことで任意選択で加入するものを指します。私的年金は、老後プランに合わせて公的年金を補うものと考えるといいでしょう。
年金のことを検討する際には、老後の生活費がいくらくらいになりそうか把握しておくと計画が立てやすくなります。総務省「家計調査」(平成27年)によると、単身世帯で60歳以上の平均消費支出は月額約15万円。厚生労働省「簡易生命表」(平成27年)を見ると、65歳定年制とした場合、女性の平均余命は約24年なので、単純計算で月の平均支出約15万円×24年=4,320万円が老後費用として必要ということになります。
「ゆとりある老後」には月額いくら必要?
この必要とされる老後費用から受給できる公的年金を差し引き、不足分を自分で用意しなければいけないわけです。ですが、これはあくまでも平均値を用いた概算です。人によって、老後の生活費は異なってきます。生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」(平成25年度)によれば、夫婦二人の老後生活で必要と考えられる最低日常生活費の平均額は月額22万円ですが、ゆとりある老後生活費になると月額平均35.4万円となっています。
“おこなしさま”は子どもがいる世帯に比べて、自由に使えるお金が多い分、消費意欲が高い傾向にあります。美味しい食事や生活の質にこだわってきた人達は、老後になったからといって価値観はガラリと変わりません。ましてや子どもや孫がいないからこそ、老後時間を充実させるために趣味や旅行など色んなことを楽しみたい。だからこそ、カツカツの生活ではなく多少の「ゆとり」は欲しいところです。
「支給される公的年金だけ」だと2765万円足りない?
老後の生活費を考えるとき、軸となるのが受給できる年金額です。年金支給額は、現役時代の給与と加入期間によって決まります。厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(平成26年)のデータによると、厚生年金保険・老齢年金の平均月額は、約14万7千円。ですが、給与月額が基準になるため男女差が大きく、65歳以上で比較すると、平均月額は男性が約18万円、女性が10万8千円となっています。受給が国民年金のみとなる自営業者などの老齢年金は、平均月額5万4千円です。
先に示した参考例では、老後24年で4,320万円が必要な老後費用でした。それを各々の平均月額を元に計算してみると、厚生年金の受給総額(女性)は3,110万円で1,210万円の不足。国民年金だと総額1,555万円で2,765万円の不足となります。これはあくまで平均額を用いたものなので、個々の年金受給額は加入年数や給与によって異なります。ご自身の年金については、日本年金機構から年1回、誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」で老齢年金の見込額を確認してみてください。
足りない分をどうカバーすればいいのか
いずれにしても公的年金だけでは、満足のいく老後生活を送ることは難しいのが実情です。不足分は退職金や預貯金などで穴埋め。さらに、ゆとりのある老後生活を望むのであれば、プラスアルファーの費用を準備しておくべきです。
そこで近年は、足りない部分を補う「私的年金」への関心が高まってきています。公的年金はすべての人が加入しますが、私的年金は生命保険会社や金融機関などが取り扱う「個人年金保険」や「個人型確定拠出年金」などに、自らの意志で加入するものです。老後のために年金の上乗せができ、所得税が軽減される「個人年金保険料控除」を活用できるのがメリットです。
個人年金保険や年金のタイプを知ろう
個人年金保険は、主に将来受け取れる年金額が決まっている「定額年金保険」と、運用次第で受け取れる年金額が変動する「変額個人年金保険」があります。「定額年金保険」は年月をかけて積み立てていくタイプが多く、「変額個人年金保険」は保険料を一時払いするタイプが主流です。
年金は契約時にあらかじめ定めた年齢から受け取れ、給付額や給付期間を設定することができます。受け取り方は、決められた期間で生死にかかわらず年金が受け取れる「確定年金」、決められた期間で生存を条件に年金を受け取れる「有期年金」、生きている限り一生涯年金を受け取れる「終身年金」の3タイプあります。保険料は「有期年金」が安め、「終身年金」は高め、「確定年金」は普通で設定されているのが一般的です。
公的年金が支給されるまでのつなぎや、生活費の足しとして考えるのであれば「確定年金」または「有期年金」。90歳以上長生きするとしたら「終身年金」の方がお得になるケースが多いです。保険料を含め、自分に合う年金保険はどのタイプなのか、ライフスタイルにあわせて検討するとよいでしょう。
対象者が広がった個人年金に注目
国民年金だけの自営業者は、会社員の方に比べると老齢年金の受給額は少なめです。そのため、なんらかの自助努力を組み合わせることが年金不足への策です。自営業やフリーランスの方が月額400円で加入できる「付加年金」や公的な個人年金「国民年金基金」は、老齢基礎年金に上乗せすることができます。また、金融機関などで取り扱っている運用型の「個人型確定拠出年金」は、2017年1月に加入対象が拡張。これまで加入者は自営業者や企業年金制度のない会社員などに限られていましたが、公務員、企業年金加入者、専業主婦など、ほぼすべての現役世代が加入できるようになったことから注目度が高まっています。
今から月5万円貯金すれば老後破産は免れる?
公的年金の不足分は、預貯金や投資信託などでも準備しておくことはできます。現在45歳と仮定し、先ほどの厚生年金の受給総額を差し引いた不足分1,210万円を65歳までの20年で貯めるには、月々5万円を積み立て預金すればいいのです。ただ、基本的には銀行預金より個人年金の方が利率は高い傾向にあります。個人で計画性をもって貯金するのが難しい方や、別枠で年金を準備しておきたいのであれば、私的年金を検討してみるのもいいでしょう。
今後、年金保険料は少しずつ値上げされ、年金の支給額が目減りしていくことが大いに考えられます。「老後のゆとりある暮らし」を実現するには、今から計画的に老後資金を増やす努力をしなければなりません。何の対策もせずに過ごしていると「老後破産」への道に進んでしまうかもしれません。
子どものいない“おこなしさま”は、自分で自分の身を守る術を早めに講じるのが原則。老後の生活に直結する年金問題も例外ではありません。老後を笑って過ごすためにも、年金対策は先送りできない重要案件といえるでしょう。
【次回から毎週水曜18時更新に変更します。9月14日(水)18:00予定】
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