「早く体から取り出したい!」乳がんと告知された看護師が感じた、医療従事者だからこその寂しさとは?【体験談】

専門医・寺田満雄先生の解説

■多くの人が悩む病院選びには正解はあるのか
めぐみさんのように病院勤務の人は、病院選びに関しては他とは違う特有の悩みがあると思いますが、誰にとっても乳がんの治療を行うにあたって、病院選びは大きな選択の一つになります。そこで、今回は一般論として、乳がん治療の病院選びに正解はあるのか?についてお話しようと思います。

私の回答は「正解は半分あって、半分ない」です。まず、病院を選ぶ際には、日本乳癌学会が一定水準を満たしていることを認定した”日本乳癌学会認定施設”から選ぶことが大切です。一覧は、ホームページで公開されていますので、ぜひ参考にしてください(https://www.jbcs.gr.jp/modules/elearning/index.php?content_id=5)。

 

一昔前までは、乳がんの治療は、そこまで複雑ではなく、一般外科で治療されることが多くありましたが、今は診療の複雑化に伴い、より専門的な知識、診療体制が必要になってきています。もちろん一般外科として活躍している医師の中でも、熱心に乳がん診療をキャッチアップしている先生はたくさんいます。しかし、選ぶ側からすると先生の熱心さなどは外からだとなかなか判断しにくいものです。

 

次は、通院のしやすさ。乳がんの治療は長期にわたりますし、通院回数は決して少なくありません。治療中、何か困ったことが起こることもあるでしょう。どうしても最初は手術などの初期治療に目が行きがちなので、遠くの病院でも…と思うこともあるかもしれませんが、それがすべてではありません。乳がんの治療はかなり標準化されていて、どこかでしか受けることができない治療というのは、特に早期乳がん治療においてはそこまでありません(乳房再建や治験ぐらいでしょう)。そのため、無理して遠くの病院を選択することが、必ずしも良い選択肢でないことは頭の片隅に置いておいてもいいかもしれません。

 

ここまではある程度、「正解」と呼べる選択ができるお話でした。あとは、残り半分の選び方に正解がない、というよりも事前に選びようがないので「正解がない」お話です。
良い病院と感じる条件として、診療体制や設備などの客観的な部分もあるでしょうが、相性のいいスタッフがいることがその人にとっての良い病院、という側面も強いのではないかと思っています(最低限の治療の質はあるという前提のもと)。

 

その逆も然り。同じ施設内ですら、相性の合うスタッフとそうでないスタッフがいる場合もあるはずです。診療は人と人のやりとりなので、どれだけ綺麗事を言おうと相性の問題があるのは事実です。そして、診療は信頼関係で成り立っています。医療従事者側は信頼してもらえるように、努力をするべきだと私は考えていますが、あくまでそれはこちらの話。信頼関係ができるまで、時間がかかる場合も、そうでない場合もあります。信頼関係が築くことができればそれでよいですが、実際問題としては、期待した関係性が最終的に得られないということも、残念ながらあるかもしれません。

 

これは私個人の意見ですが、基本的に乳がんの治療は長い通院期間になるため、そのような場合は、担当医の変更や転院を申し出ることも選択肢だと思っています(勝手に転院すると情報の引き継ぎができず、色々困ることになるので、それはおすすめしません)。言い出しにくいのはもちろんでしょうが、そのまま悩むよりも、自分にとってプラスに働くこともあるかと思うわけです。

 

多くの人が迷う病院選びですが、こうやって選べば絶対大丈夫、という決定的な病院選びの方法はありません。ですが、まず「通院しやすい乳癌学会認定施設」の中で検討することは、万人にお勧めできる方法と言えると思います。

 

▶関連記事 >>>こちらから

『9人に1人が「乳がん」になる日本人女性。まだ聞きなれない「ブレスト・アウェアネス」って知っている?【医師監修】』

 

 

【寺田満雄先生プロフィール】

名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学講座 研究員/UPMC Hillman Cancer Center, Department of medicine, Postdoctoral Associate
2013
年名古屋市立大学医学部卒業。関連病院および愛知県がんセンター乳腺科部勤務を経て、2019年 名古屋市立大学乳腺外科への帰局とともに同大学博士課程に入学。同年より名古屋大学分子細胞免疫学にて腫瘍免疫研究に従事。博士号取得後、2023年より、米国UPMC Hillman Cancer Centerに研究留学し、現在に至る。外科専門医、乳腺専門医。一般社団法人BC TUBE理事、乳癌診療ガイドライン委員。一般社団法人BCTUBEの活動として、乳がんという病気を多くの人に知ってもらうため、治療に関わる情報格差を減らすために、YouTubeチャンネル「乳がん大事典」の運営や様々な啓発活動に従事。

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