べらぼうの緊迫シーンにワインが彩りを添えている!?「意外な飲み手」の姿と、蔦重は「ワインを飲んだことがない」といえる根拠とは

2025.06.02 LIFE

【ワインの歴史】蔦重の時代、日本人はワインを飲んでいたの?

ワインは紀元前から存在していましたが、日本人がワインを口にするようになったのは、その長い歴史を鑑みると比較的最近のことといえるのかもしれません。

 

人類がワインを初めて口にしたのは紀元前

ワインに関する最古の記録は紀元前2000年頃の古代メソポタミアの文学作品「ギルガメシュ叙事詩」といわれています。

 

ワインが西洋文化の象徴とされているのは、キリスト教と深く結びついているためです。中世ヨーロッパでは、教会や修道院がキリスト教とともにワインを普及させました。赤ワインはイエス・キリストの血の象徴とされ、儀式において欠かせないものでした。一部の修道会では、ぶどう園を所有し、ワインの生産に取り組んでいました。

 

15世紀の大航海時代を経て、ワインはヨーロッパ各国の植民地となった国にも持ち込まれ、ヨーロッパ以外の地域にも広がりました。

 

日本にワインが伝わった時期は、いくつかの諸説がありますが、戦国時代とする説が有力です。1549年、ポルトガルの宣教師・フランシスコ・ザビエルが日本に赤ワインを持ち込んだのが最初だそう*1。ちなみに、織田信長はワインを「珍陀酒(ちんたしゅ)」と呼んで好み、豊臣秀吉はスパークリングワイン(カバ)を飲んだことがあるといわれています。

 

蔦重の時代には、オランダとの貿易が長崎の出島を窓口に限定的に行われており、ワイン*2 やガラス製品などを輸入していました。ワインが一般人の手にわたることはなかったものの、国の上層部の人間であればコネなどを使って手にすることも不可能ではなかったと考えられます。このあと、詳しく説明しますが、国内でワインが製造された記録もこの時代にはすでに存在します。

 

*1 森覚『日本一のワインソムリエが書いたワイン1年生の本』参照。

*2 江戸時代、ワインはキリスト教の禁止政策との関係で禁制品。しかし、オランダ人自身が消費するためにワインが出島に持ち込まれてた他、江戸では特権階級がワインを味わうこともあった。

 

日本においてワインが初めて製造されたのは江戸時代初期!?

蔦重より約100年前に生きた小倉藩主・細川忠利がワインを製造させた記録があります。忠利の命令で製造されたワインが初の国産ワインとされています。日本には中国からぶどう栽培とワインの製法が伝わりました。室町時代後期から江戸時代における国産ワインは焼酎などにぶどう果汁を混ぜたもの、中国の製法を真似たものだったそう。

 

日本では長引く鎖国に加え、米から酒を造る文化が根付いていることも関係し、ワインの製造はなかなか広まりませんでした。ワインが国内で広く普及したのは明治時代以降です。

 

蔦重の時代にも国内にワインは存在しましたが、ワインを飲めたのは一部の特権階級に限られていました。蔦重がワインを飲んだことがあるとは到底考えられません。ただし、酒は庶民にも手が届くものであり、居酒屋も江戸の町にすでに存在し、多くの客でにぎわっていました。

 

本編では、江戸時代におけるワイン文化とドラマ内での象徴的な使われ方を深掘りしました。

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参考資料

エイ出版社編集部『 Wine Complete』エイ出版社 2017年

金内誠 (監修)『理由がわかればもっとおいしい! 発酵食品を楽しむ教科書』ナツメ社 2023年

森覚『日本一のワインソムリエが書いたワイン1年生の本』宝島社 2023年

 

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