どこからが「不倫」ですか?夫はいるけれどまだ恋をしたい【♯婚外恋愛1】
認めたくなかった「欲望」
A子は誰でも名を知るIT企業に勤めている。役職も高く、部下を抱えながら仕事に精を出す彼女は毎日をアクティブに過ごしていて、約束のできる日は何週間か先になることもある。だが、決してドタキャンしない、遅刻しないところが友人の間でも信頼の置ける存在として通っていた。
結婚15年、同じくIT関係の会社で働く夫は、ひとり娘を可愛がることも忘れない。A子の家庭は、外から見れば理想的な一家だった。年収は800万を超えるし、休みは暦通りで年に一度は海外旅行に行ける暮らし。夫は物静かな人で彼女の仕事に口は出さない。
「まさに『勝ち組』って感じだよね」とささやかれることも多かったが、いつもA子は「努力したんだもの、当然よ」と答えていた。
だが、A子に異変が起こったのは、そんな「努力」を続けている最中だった。
「家庭が物足りないわけじゃないんだけど……」
そう前置きして、以前A子は「彼」とのことを打ち明けてくれた。
彼とは、会社の取引先で出会い、仕事を通じて仲良くなった。お互いに既婚者であることがかえって安心を呼び、A子は業務の話以外にも家庭のことなど気さくに打ち明け、彼の家族の話もまじえて盛り上がることが多くなった。
A子に不倫を求める気持ちは欠片もなかっただろう。それは会社の中でA子の立場を危うくするものであり、まして取引先の人間など、危険でしかない。それを十分に理解していて、彼との付き合いも一線を引いて常識的なものに留まっていた。
「不倫なんて、相手に対して失礼でしょ」と繰り返しA子は語った。それは彼にも伝わっていただろうが、ある日
「何もしないって約束で食事に行くのはどう?」
と彼に切り込まれてしまう。
(うわ、いかにもって感じ……)
A子はがっかりした。一生懸命、夫や子どもが大事だと伝えていたのに、この男は何を聞いていたのだろうか。
「わざわざ『何もしない』とか口にする男に、ロクなやつがいないじゃない」
私は今の生活に満足している。仕事は楽しいし、家庭も落ち着いている。物足りないわけじゃないけど、壊す気はさらさらない。
だが、A子の口から出たのは
「いいですよ。今晩?」
という、気持ちと正反対の言葉だったのだ。
物足りないわけじゃない。だけど、求めようと思えば、求めることができるもの。
夫以外の男性とふたりで食事に行くなど、本来の彼女ならしない。それでも誘いに乗ったのは、彼が既婚者だからこそ、「一線を超えない言い訳」が通用するからだ。
「何もしないって約束」を盾に。