母と息子、ようやく通じた「おっかさん」……蔦重とつよが交わした、40年越しのぬくもり【NHK大河『べらぼう』第41回】
実母としての息子への思い
蔦重の髪を初めて結いながら、「まぁ…おとっつあんと おんなじ頭の形だよ」と述べたつよの姿は、蔦重の母として、また父の妻として、どちらの面も強く感じさせられました。

蔦重(横浜流星) つよ(高岡早紀) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」41話(10月26日放送)より(C)NHK
つよと蔦重が幾十年も離れ離れになった理由が、つよの口から明かされました。それは息子を思う親心ゆえでした。蔦重の父は博打で悪辣な借金を作り、江戸からの逃亡を余儀なくされました。逃げ先での暮らしが不透明だったため、蔦重は吉原で育ててもらう方がよいという判断にいたったのです。つよは駿河屋の主人・市右衛門(高橋克実)に、蔦重を預かってほしいと頼み込んだといいます。さらに、借金取りが蔦重のもとに訪れるのを恐れ、蔦重が実の親について語らぬよう、父母は色に狂い子を捨てたという設定をでっち上げました。つよは厳しい状況下でも息子を守り抜くために用意周到に手を尽くしていたのです。
つよは蔦重の強さを“自分が捨てたせい”と受け止め、泣く暇すら許されず、人を笑わせることで生き抜いてきた境遇を察していました。だからこそ、成功を称えながらも、胸の奥に申し訳なさを滲ませているようでした。他人の目には蔦重はひょうきんで明るく、行動力とアイデアに溢れた男に映るでしょう。されども、母であるつよだけが本人すら気づかぬ深い傷を見抜き、静かに息子を案じます。

蔦重(横浜流星) つよ(高岡早紀) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」41話(10月26日放送)より(C)NHK
つよから幼名「柯理(からまる)」と呼ばれた蔦重は、幼い日の母との光景が鮮やかに蘇ったかのように表情を変えていました。一方、息子から「おっかさん」と初めて呼ばれたつよは、ほっと息をつき、肩の重荷が音を立てて落ちたように見えました。
今回、二人が初めて心が通い合ったようにも見えますが、再会したときからお互いを思い遣っていたのは確かでしょう。蔦重はつよにぶっきらぼうに接していましたが、それは母に対する照れ隠し。つよも蔦重のノリに合わせていましたが、息子への遠慮や気恥ずかしさがあったのだと思います。大切な相手の一番知りたい思いが分からずもどかしかったことから解放され、親子の絆を改めて胸に刻んだシーンに胸が熱くなりました。
前回の解説はこちら▶▶「尽きることのない、人の欲」きよを失った歌麿が描く、痛みの先にある“生”のエネルギー【NHK大河『べらぼう』第40回】
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