「彼を見捨てられない」その思い込みが命取りに。生活費を止められても離れられなかった妻が、“自分の人生”を取り戻すまで

2026.01.24 LIFE

夫に逆らえば生活費を止められる。通帳もキャッシュカードも持ち去られ、クレジットカードやスマホ決済までも使えなくなったFさんの生活は、一気に追い詰められていきました。それでも彼女は、「彼は孤独な人だから」「私が見放したら、この人は壊れてしまう」と、自分の苦しさよりも夫の気持ちを優先し続けていました。

理不尽な仕打ちを受けているのに、なぜか罪悪感を抱いてしまう……。それこそが、支配の中で作られた“思い込み”だったのです。

<<前編:「俺に逆らうなら金は渡さない!」赴任中の夫に通帳とカードを奪われて、もう現金が底をつきそう。こんな夫なのに、なぜ妻は“離れられない”と思ってしまったのか

本編では、Fさんが「彼の機嫌」に人生を預けるのをやめ、自分と子どもの生活を守るために動き出した経緯と、経済的DVから抜け出すための現実的な選択についてお伝えします。

 

いつの間にか陥っていた「共依存」の罠

それでもFさんは、友人も少なく孤立しがちな夫を「私が見放してはいけない」という思いを、なかなか手放せませんでした。自分が深刻な被害を受けているにもかかわらず、相手を見捨てることに罪悪感を覚えてしまう。自分を守ることより、相手の孤独を心配して決断をためらう。この正常な判断ができなくなった状態こそが、長年の支配の結果でした。

 

夫の行為が許されない経済的DVだと分かっていても、「このままでは壊れてしまう」と感じていても、後ろめたさから離婚には踏み出せずにいたのです。

 

実は、モラハラに悩む女性の多くが、自分の気持ちよりも相手の機嫌を優先するようになります。支えているつもりが、気づけばその優しさを利用され、自分が削られていく。こうした関係は「共依存」と呼ばれ、思いやりが皮肉にも逃げられない鎖になってしまうのです。

 

婚姻費用を請求することができると知ってから自信が戻ってきた

いつか夫のほうから折れて、生活費を渡してくれるのではないか。Fさんは、そんな期待をどこかで抱いていました。しかし、夫からその言葉が出ることは一度もありませんでした。

 

夫が孤独になるかどうかは夫自身の問題だと自分に言い聞かせ、子どもと自分たちの生活を最優先に考えるようになったことで、Fさんはようやく「自分たちは経済的DVの被害者なのだ」と自覚できるようになり、一歩踏み出す勇気を持つことができました。

 

夫と一対一で話し合っても解決しないことは明らかでした。そこでFさんは、家庭裁判所に「婚姻費用分担請求」の申し立てを行いました。離婚前であっても、婚姻関係が継続している限り、夫婦には生活費を分担する義務があります。それは、夫の「機嫌」で決まるものではなく、法律で定められた正当な権利です。

 

「彼の機嫌をうかがって、お金を恵んでもらう必要なんてない」

そう気づいたとき、Fさんの中に少しずつ自信が戻ってきました。夫がどれほど「俺は被害者だ」と叫び、通帳を隠し、生活費を盾に従わせようとしても、法的な手続きを踏めば、正当な生活費を確保する道はあると知ったからです。

 

夫婦には、離婚前であっても収入の多い側が家族の生活費を支払う法律上の義務があります。どれほど身勝手な理由を並べ立てても、裁判所が決めた支払額から逃れることはできません。

「彼にお願いしてお金を出してもらうのではない。法律で定められた義務を履行させるだけ」

そう視点を切り替えたことで、Fさんの心は軽くなりました。夫の顔色をうかがうのではなく、事務的に、淡々と手続きを進める。それこそが、夫の支配から抜け出すための、もっとも現実的な方法だったのです。

 

とはいえ、婚姻費用の申し立てをしてから、実際に振り込まれるまでには2〜4か月ほどかかります。その間の生活費を確保するため、Fさんは夫に知らせていなかった独身時代のわずかな貯金を引き出しました。夫の許可を得る必要のない現金は、自立への大切な資金となりました。

 

さらに、スマートフォンで仕事を探せる「スキマバイト」のアプリを使い始めました。履歴書も面接も不要で、働いたその日のうちに報酬が振り込まれる仕事です。これまで夫の許可を得ることに神経をすり減らしてきましたが、外の世界には、働けばきちんと対価を得られる場所があると知ったのです。

自分の労働で得た数千円は、夫から渡されるお金よりも、はるかに大きな自信をFさんにもたらしました。

 

婚姻費用は、申し立てた月にさかのぼって請求できます。「今は苦しくても、必ず取り戻せる」という事実も、Fさんの心を支えました。

 

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