元TBSアナがMEGUMIプロデュースの話題作『FUJIKO』を鑑賞。「占い師に驚かれるほど数奇な私の半生も、もしかしたら少し違って見えるかも」と思えた理由
「モテない女のヒステリー」

『FUJIKO』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
1970年代から80年代。当時、女性が権利を主張することは、今以上に冷笑の対象でした。「モテない女のヒステリー」などと揶揄される、とMEGUMIさんのセリフにもあるほど。それでも女性たちは声を上げつづけます。「女にも自由を」「抑圧するな」と。
同じシュプレヒコールを叫んでいても、その背景にある人生は一人ひとり違うわけです。家に閉じ込められて苦しんでいる人、自分でお金をかせぎたい人、自分の力で子育てしたい人、どこか遠くに行きたい人……。叫びの裏に、それぞれの人生があるのです。
その時、富士子の中に浮かんだ言葉は、「子どもを返せ」でした。自分が本当に叫びたいことは何なのか。彼女はそこで初めて気づきます。そして義実家へ走り、玄関扉を叩き、「子どもを返して」と泣き叫びます。フジコの迫力に気押された義理の母たちはすんなり子供を返したのでした。
女たちがお互いに殴り掛からんばかりの迫力で罵り合う場面が大変印象的な本作品。これは女たちのアウトレイジなんだよな。ただ、この映画がすごいのは、そこを“感動のゴール”にしないところ。子どもを取り返したあとも、もちろん現実は続いていくわけで。

『FUJIKO』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
保育園は足りない。役所は冷たい。働きたくても子どもの預け先がない。今でこそ待機児童問題は広く知られていますが、当時はもっと深刻。赤ん坊を抱えながら保育園を回り続けるフジコの姿は、子育て世代の女性ならずとも、「こんな現実おかしい!」と胸に迫る物があるはず。でもはっきりいってこの現実、令和の今でもかわっていなかったりするわけで。
女である、だけで忍耐を強いられる。
さらに、ようやく見つけた仕事も一筋縄ではいきません。賭博場で料理を作る仕事(!)に就き、必死に働き、お金を貯める。しかし、空き巣に入られ、すべてを失う。
それでも彼女は生きなければならない。子どもを生かすために。「女の人生はとにかく必死」なんですよ。もちろん、シングルマザーだけの話ではありません。結婚、出産、介護、仕事、地方での生きづらさ。女性であるというだけで、過酷な選択を迫られる場面、理不尽な忍耐を強いられる場面は、今なお日本社会に多く残っています。
産むのは女性。身体に負担がかかるのも女性。そして、仕事に復帰しようとしても、子育てとの両立は簡単ではない。「男女平等」という言葉だけでは片付けられない現実が、まだまだ確かに存在しています。
人生を切り拓け!それはロックだ!
でも、この映画はただ「つらい現実」を描くだけではありません。それでも人生を切り拓いていくのが女なんですよ。その姿そのものが、ロックンロールなの。
劇中では、ロックというモチーフが何度も登場します。フジコの父親役としてうじきつよしさんが出演しており、ギターを奏でる場面も。フジコ自身も、本当はロックをやりたかった、でも、自分には無理だと思って諦めていたわけです。しかし後になって気づくのです。生き様そのものが、ロックだったのだと。
苦労して、転んで、裏切られて、それでも前に進む。たぶんこのロケンロールは、私たちの母も、祖母も、曾祖母も、みんな経験してきたはず。そして終盤、フジコは人生の大きな選択を迫られます。この選択をぜひ、みなさんにも見届けてほしいのです。
フジコの選択。

『FUJIKO』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
保険会社で出会った同僚からプロポーズを受けるフジコ。その男性は娘にも優しく、誠実。ここで再婚すれば安定したおだやかな幸せが少なくとも少しは約束されるのです。フジコの生き方にずっと眉をひそめてきた母や兄らはもろ手を挙げてこの話をよろびます。「これで安心だ」と周囲が勝手に胸を撫でおろすわけですが……。フジコは、そこで立ち止まるのです。
本当に私は、この道を選びたいのだろうか。
“女一人では生きるのが大変だから”という理由で結婚を選んでいいのか。
彼女が最後にどんな選択をするのか。それはぜひ劇場で確かめてほしいと思います。どんな女性の人生にも、必ず“ロックだった瞬間”がある。自分では平凡だと思っていても、大なり小なり、眠れなくなるくらいの修羅場があったはず。苦労がある。必死で何かを守った瞬間がある。
何度も言いますが、それはあなたの母親かもしれないし、祖母かもしれない。
貴方の母も、祖母も、ロックだったはず。
私の祖母も、樺太から引き揚げて北海道へ渡り、家族を作り、ここまで命を繋いでくれました。きっとその人生にも、ロックだった瞬間が山ほどあったはず。もちろん生きるか死ぬかの体験もしているわけで、ロックでは済まされない経験もしているわけで。でも戦後結婚し、子供を産んで、いろいろ悩んだ瞬間が絶対あったはず。
私自身も、東京でアナウンサーをやっていた時代もあるし、今は20年の東京生活を後ろにおいて、故郷北海道で新しい人生を送っています。占い師さんに半生を話すと驚かれることもあるような数奇な人生だったかも。でも、それを「苦労」と思うのではなく、「ロックンロールだった」と思えたら、人生は少し違って見えるのかも。
もちろん、本当に追い詰められる瞬間もあります。それでも、「これもロックだ!」と感じられたら、人は少しだけ前に進めるのかもしれない。人生を前向きに捉えることができるのかもしれない。『FUJIKO』は、すべての女の生きかたの肯定であり、エールであり、そして全女性が富士子そのものだということを教えてくれるのです。
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『FUJIKO』

『FUJIKO』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
監督自身の母の人生を題材に、木村太一監督とMEGUMIが企画・プロデューサーとしてタッグを組んで生まれた渾身作。主演は映画『茜色に焼かれる』で報知映画賞最優秀新人賞を受賞した片山友希。
舞台は1977年の静岡。嵐で停電した病院で娘・麻理を産んだシングルマザー・富士子は、姑と義姉に娘を奪われるという理不尽な仕打ちを受けながらも、実母の力を借りて取り返し、周囲の反対を押し切って二人で生きることを選ぶ。既成の価値観に抗いながら、自由と自分らしい生き方を模索する富士子の波乱万丈の人生を描く。
出演:片山友希、YOU、リリー・フランキー、MEGUMI、うじきつよし、竹下景子、イッセー尾形、岸本加世子ほか
原案・監督:木村太一 脚本:我人祥太、國吉咲貴 企画・プロデュース:MEGUMI
配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中
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