更年期対策も、仕事能力アップも可能?スマートウォッチ購入を迷う人、ぜひ着目してほしい「HRV(心拍変動)」を専門家に聞きました

働き盛りの40代、50代に多いとされる男性更年期。順天堂大学医学部泌尿器科の専門外来、「メンズヘルス外来」では年間100名以上の診察を行いますが、限られた診察時間の中での介入・評価には限界があり、課題感を抱えているといいます。

 

「特に男性更年期は、日常生活のストレスや環境要因の影響を強く受けます。そのため、病院の外での普段の状態をモニタリングし、それを本人にフィードバックして行動変容につなげていくことが重要ではないか、というのが発端の一つです」

 

こう語るのは、順天堂大学大学院医学研究科創造長寿医学講座 客員准教授 駒澤真人先生。ウェアラブル技術による生体情報センシングの研究を15年以上に渡り続けてきた先生のチームが特に注目しているのは「心拍変動(HRV)」という、自律神経の状態を表すバイオマーカーです。男性更年期対策ツールとして「WellAge」というアプリを開発、運用中の駒澤先生ですが、このHRVを核とした評価は男性だけでなく、女性にも有効とのこと。

 

更年期対策として、また自分のコンディション把握と改善につながるスマートウォッチデータ活用について、詳しくお話を伺いました。

 

新しく私たちが獲得した指標「HRV」。いったい何をあらわしているのか?

Gamin社スマートウォッチの例。右下がHRV(クリックで拡大)

これまで私たちは、体重、体温、体脂肪率などを日常的に測ることができる生体データとして活用してきました。そして新たに、スマートウォッチの普及とともに獲得したとても重要な指標が「HRV」。心拍変動(HRV:Heart Rate Variability)とも呼ばれます。ほとんどのウェアラブルデバイスで計測可能です。

 

HRVとは心臓の「ドクンドクン」という鼓動の間隔のゆらぎを測定したものです。簡単に言えば、調子が悪いときにはこの間隔がほぼ一定になってしまいます。極端な例では、脳死した患者さんはこの間隔がほぼ完全に一定になってしまうのだそう。

 

「調子が良いときはこの間隔に『ゆらぎ』があり、一拍一拍で変動が生まれます。極端にいえば『ドック、ドックン、ドクー』のような変化が常にあるのです。ゆらぎがあったほうが外部からのストレスにもうまく対応できるのですが、逆に常に張り詰めた状態でリズムがきっちり同じになり、ゆらぎがなくなると、ちょっとしたことで崩れやすくなってしまいます。心臓の鼓動の情報にはもともと揺らぎがあるものですが、病気になるとその揺らぎが小さくなってしまうのです」

 

ゆらぎが大きい方が、HRVが増加し、自律神経の状態としてよいとされる「副交感神経」優位の、リラックスした快適な状態。つまり、血流が良い状態を示しています。逆にゆらぎが小さくなると、HRVが低下し、「交感神経」優位となり、血流も悪くなり、さまざまな疾患との関連もみられると指摘されています。

 

女性の更年期症状の強弱とHRV数値は関連性が指摘されるが、男性の研究はこれから

Garmin社ウォッチでのHRV4週間測定例。波をうっている。

これまでの研究では、HRVの低下は、うつ病、慢性疼痛、がん、感染症、糖尿病、ストレスなどの疾患や不調と関連するという報告が多数あります。一方、HRVの増加は、健康であり、陽気さと穏やかさ、ポジティブな感情特性、社会参加への動機付け、回復力と幸福に関連するとの報告があります。さらに、 安静時のHRVの高さは、社会に適応的な行動を取るための感情制御のうまさにも関連しているという研究も複数あります。

 

では、更年期についてはどうなのでしょうか。

 

「女性の更年期とHRVの関連については海外でいくつか研究が行われています。たとえば、更年期症状が強い女性はHRVが低い傾向にある、ホルモン補充療法を行っている女性は行っていない女性に比べてHRVが高い、といった報告があります」

 

一方、男性については、そもそも「男性更年期」という概念自体が世界的にもまだ浸透していないため、研究自体がほとんど存在しません。テストステロン値が高い人ほど揺らぎが大きい、といったヒントになりそうな研究がいくつかある程度なのだそう。

 

「そこで私たちが着目しているのが『ジェンダー・アンド・ヘルスサイエンス』という考え方です。性差によって対処法が異なるはずだ、という視点です。特に更年期の領域では、女性に比べて男性は『ジェンダー・マイノリティ』的な位置づけにあり、世の中にあまり知られていません。生殖医療の分野でも、男性側の視点はかなり手薄になっている、というのがそもそもの出発点です」

 

そうした中で、男性更年期が自律神経と関連しているのではないかという仮説を立て、病院の外での日常的なモニタリングを通じて、男性更年期の予防や予測につなげていく。その結果として、女性の更年期との関係性も明らかになり、最終的には性差を考慮した予防・治療の戦略につなげていきたいと駒澤先生は考えています。

 

「私はもともと地震工学の研究者です。地球が発する情報である地震波から、どの地域でどれくらいの被害が出るかを予測する、いわば『地球の健康を予測する』研究をしていました。やがて人間が発する情報にもこうした分析技術が適用できるのではないかと考えるようになり、対象も地球の被害予測から人間の健康被害予測に応用しました。つまるところ人間も物事も何かしら情報を発信していて、突き詰めればそれらは『波』の情報なのであり、そこから予兆を分析することが可能となります」

 

ここまで駒澤先生がアプリを通じて獲得したビッグデータによると、たとえば働く皆さんは「木曜日」に最も疲れる傾向があるといいます。

 

「年齢が上がるとHRVは下がっていく傾向がありますが、曜日でも変動があり、木曜日にお疲れ気味でHRVがガクッと下がったあと、土曜日に活力つまりHRVが上がる人が多いことがわかっています。BMIが高く肥満気味な人ほどHRVが低い傾向にあるほか、また都会に住む人はHRVが低い傾向にあります。このようなデータを意識するだけで、QoL改善にもつながります」

 

つづき>>>プロ野球チーム一軍と二軍の生体データ計測でわかった「残酷なほど明確な」能力の違い。あなたはタイプAそれともB?

 

 

■駒澤先生のプロジェクトサイト https://well-age.jp/

お話/順天堂大学創造長寿医学講座 客員准教授 駒澤真人(こまざわまこと)先生

順天堂大学大学院医学研究科 創造長寿医学講座 客員准教授。博士(工学)。一般社団法人 Japan Longevity Consortium 理事。一般社団法人 更年期健康経営協会 監事。芝浦工業大学大学院 理工学研究科 客員教授。特定非営利活動法人ウェアラブル環境情報ネット推進機構 主任研究員。2008年、東京工業大学総合理工学研究科卒。2016年、神戸大学大学院システム情報学研究科博士課程修了博士(工学)。人間の生体情報をウェアラブル技術でセンシングする研究に従事。心拍変動(HRV)による自律神経のバイオマーカーに着目し、個人のストレスマネジメントやパフォーマンスを高める研究のほか、工学技術の医療領域への応用に注力している。

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