「女として終わりたくない」レスの果ての不倫、貪欲な二人の夜
後ろ指をさされる関係とわかっていても、やめられない不毛なつながり。
不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内をご紹介します。
【不倫の精算#22前編】
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半年前は輝いていたのに。彼女はやつれた姿で現れた
その日、待ち合わせのカフェに登場したIさんは、焦燥がひとめでわかるほど疲れた顔をしていた。
「大丈夫?」
注文を済ませて真っ先に尋ねると、ふらりと目線を揺らしながらこちらを見る。
「うん、ごめんね、心配かけて。
心臓の動悸がずっと止まらなくてね、
夜も眠れないの……」
ぼそぼそと話すIさんはろくにメイクもしていない。半年前に会ったときはきれいにカールされたまつ毛に乗るボルドーが印象的だったのに。
Iさんは38歳、結婚10年目の夫と子どもがふたりいる。
夫は公務員、Iさん自身もパート勤めをしており、小学生の子どもたちは元気で特に家庭に問題がないことは、以前聞いていた。
Iさんには現在不倫中の彼がいて、その人との関係が始まったのは半年前。
「もうこの人しか見えなくなった」
と電話で報告をもらったとき、その切羽詰まった声色に彼女のなかでくすぶり続けている葛藤が見えた。
不倫相手はIさんが勤める会社の上司。3歳年下の35歳だが、熱心に仕事の説明をしてくれて、パート勤めの彼女にも優しい言葉をかけてくれるという。
そんな人と関係を持ちたがっていた彼女はずっとアプローチを続け、それが叶って幸せなはずだった。でも、今はその選択に苦しんでいた。
私にはレスは耐えられない。「女でなくなる」のが怖すぎて
最初、Iさんから聞いていたのは夫とのレスについてだった。
「子どもたちが自分の部屋で寝るようになってから、夫と同じ寝室に戻したの。
もう子どもを作る気はないとしても、そういうことがまたあるかなって思っていたら、全然なくて」
童顔でまだ30代前半といっても通用する若々しさを持つIさんは、普段からウォーキングや家での筋トレに励み、体型の維持に努めているのは知っていた。
それは夫にひとりの女性として見てもらいたいから、また子どもたちに若いお母さんと思われたいからというのも聞いていて、それは前向きなことだ、私も見習いたいと答えたのを覚えている。
だが、夫は一向に手を出してこない。そして、決定的だったのは
「私のほうから誘ったことがあるんだけど、
『まだそんなこと考えるのか』
って、渋い顔をされたのよ。
それが本当にショックで」
自分を拒絶する夫を見て以来、Iさんは「夫のために頑張る自分」をやめた。
「夫にとって、私はもう女じゃないんだなって、そう思うと胸が押しつぶされそうになるの。
家事も育児もやってる、みんなに毎朝お弁当を作って、笑顔でおかえりって言うように頑張っていたけど、もう嫌になっちゃった」
スマートフォン越しに聞こえてくる彼女の声は、以前背中の贅肉を落とす筋トレのメニューについて話していたときと正反対の、力を失った倦怠感のような暗い響きがあった。
だが、レスを受け入れるには彼女は自分の努力を諦めたくない部分が大きかった。自分への目をそらす夫への不満や嫌悪感ばかりが募るようになり、それから「外の世界」へと目を向けるようになった。
あの人は、夫が与えてくれないものを全部私にくれる
そんなIさんが職場の上司である彼に好意を持ったのは、自然とは決して言えなくても、そういう流れだったのかもな、と思う。
「去年の忘年会でね、酔ったあの人が私に向かって
『こんなきれいな人が奥さんなんて、旦那さんが羨ましいですよ』
って言ってくれたのよ。
それが忘れられなくて」
独身で彼女も数年いないとみずから話す彼が向けてくれる笑顔は、Iさんが求めていたものだった。
当時、たまにはご飯でもと約束したときに会ったIさんは、以前にも増して女性らしい色気があった。光の宿る瞳に上気した頬は「女として異性に見てもらえる自分」への自信を取り戻しているように見えた。
「よかったね」
と返したが、それが配偶者から与えられた輝きではなく、家庭の外の男性によってのものだということに漠然とした不安があった。
Iさんは彼とLINEのIDを交換した。個人的な話をするようになってからは夫への不満を送り、それに対して彼が
「そんな旦那さん、ありえないですね」
「Iさんは素敵な女性です。
僕は一緒に仕事ができてうれしいですよ」
と返してくれるのを読むたび、
「この人は私を認めてくれるんだって、頑張ろうって思えるの」
と、スマートフォンの画面を高揚した表情で見せてくれた。
その彼と、送別会の二次会を抜け出してホテルに行ったのは、彼女にとって「なるべくしてなった」ことだったのかもしれない。
そして、彼との不倫関係がはじまった。
>>> 後編 不倫を楽しみ始めたI さんだったが…陥った「意外な結末」とは
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