
「入れる施設はありません」介護のプロもお手上げ。認知症の母、仕事に子育て……それでも私が、心折れずに向き合えた理由とは?
この「家族のカタチ」は、「私たちの周りにある一番小さな社会=家族」を見つめ直すインタビューシリーズ。いまや多様な価値観で描かれつつある、それぞれの「家族像」を見つめることは、あなたの生き方や幸せのあり方の再発見にもつながるでしょう。
前回からお話をうかがっているのは、ホームページ制作会社で正社員として働くyuraさん(仮名・40代前半)。発症率が認知症全体の1~10%と言われる「前頭側頭型認知症」に見舞われた母の介護とともに、自身の仕事、さらにはこの夏6歳になる娘の子育てと、いわゆる「ダブルケアラー(※)」として慌ただしく奔走しています。
前回では、発症前後の母親の状況や、それを見守る家族の葛藤をお聞きしました。後半の今回は、認知症が進行した母の介護の中心となった今、直面する葛藤や、自分の生活との両立についてうかがいます。
なお、本記事中では、カメラが趣味だったというyuraさんのお母様が撮影したお写真を併せてご紹介させていただきます。
(※)ダブルケアラー:「親の介護」と「子育て」という2つのケアを同時に行なう状態にある人。日本国内では、推計約25万人以上にのぼるともいわれている(2016年内閣府男女共同参画局による調査)。
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【家族のカタチ #9 母が入所編】
時の経過とともに確実に進行する症状。現実に抗っていた父も「もう限界」
相変わらずカメラの撮影を楽しんでいた母の内側で、症状は着々と進行していた(2022年6月 母撮影)
初めて診断が下った日から1年以上が経過し、yuraさんや孫娘の名前を忘れて以降も、母親は滞りなく日常を過ごしていました。
「毎月処方される薬を服用しているだけで、見知らぬ人からしたらいわゆる『普通の人』でした。洗顔、入浴、化粧もしていたし、炊事も母の担当。趣味のカメラも相変わらず楽しんで、愛好家が集まるSNSへの投稿も続けていました。
だからこそ父は、通院こそ同意したものの、診断後も相変わらず現実を受け入れませんでしたね。だって、『認知症』といわれた翌月に、『母に車をプレゼントする』って言うんですよ。子どもとしては、もう運転なんてとんでもない!の一択。でも父は、診断が下る前年にちょうど定年退職したところで、『これから母と2人で楽しもう』と思っていたんですよね、きっと」。
「病院を出たらすぐ、役所に泣きつきなさい」――医師に突き付けられた深刻な状況
医師からの指示で、「母の症状が想像以上に進行していることを思い知らされた」とyuraさん(2022年7月 母撮影)
一見穏やかな日々。その裏側で、母の症状と家族の状況に、次々と変化が起こり始めていました。
「2022年の6月。まずは父に癌が見つかり、闘病のため定期的に入院することになりました。昼間は弟も仕事で不在でしたから、翌月の母の通院日には私が駆けつけました。
ところが、実家に着くと、母がいない。GPSで確認したら、通院を忘れて近所のスーパーに出かけていたんです。無事がわかってホッとしたものの、診療時間に間に合わなくてどうしたものか……と病院に連絡すると、『娘さんだけでも来てください』って。その時初めて、私は主治医と話すことになりました」。
すると明らかになったのは、母親の実情が全く医師に理解されていなかったという事実。
「通院に1年以上同行していた父は、『こんなこと困ってますねん』って、自分の困りごとばかり笑い話にして伝えていたようなんです。私から母の最近のエピソードを伝えたら、先生は『初めて聞く話です』って。
そしてその場で、『私(主治医)の名前を出しても構わないから、ここを出たらすぐに役所に泣きつきなさい。ケアマネ―ジャーをつけて、明日から訪問介護を手配して』と指示されました。家族が考えていた以上に、症状は進行していたんですよね」。
戸惑いつつもその指示通り、病院帰りの足で様々なサポートを手配したyuraさん。訪問介護などのサポートは増えましたが、母の症状はどんどん進行していきます。
夫婦で出かけた車の助手席で母が見ていた景色(2022年10月 母撮影)
「最初は、父が治療の合間に退院してくれば、母はそれが夫だと認識できていました。ところが、徐々に混乱し始めたんですよね。父が治療期間を迎え入院すると、母が駆けつけて、家に無理やり連れて帰ろうとする。さらにはその後、父が再度退院して隣にいるのに、『病院に探しに行こう』と父本人を誘うんです。父はそれを受け入れ、一緒に病院に行く。院内を探し回る母が父に電話をかければ、当然父の手元で携帯が鳴る。着信画面を母に見せて『探してるのは、ここにいる自分やで』って伝えるけれど、わからない。――さすがに父も辛くなり始めたようです」。
さらに、yuraさんの心を追い詰めるこんな出来事も――。
「介護手続きのために、3歳の娘を連れて帰省したときのことです。父は入院中のタイミングでしたから、私は実家に泊まるつもりでした。
ところが、最初こそ愛想よく孫の相手をしていた母が、夕方になっても帰らない私たちに苛立ち始めたんですよね。母にしてみたら見知らぬ親子が居座っている状態ですから、無理もないのですけれど……。のらりくらりと対応していたら、『もう帰れ』と言わんばかりに荷物を玄関から放り投げられてしまったんです。『このままでは、娘のことも守れない』と、泣く泣く自宅に戻りました」。

記憶や行動の混乱が増してきた2022~2023年。カメラ愛好家のSNSに投稿された母の写真は、2022年12月に撮影されたこの作品の直後、更新が止まった。
当時の心境を、yuraさんはこう振り返ります。
「昨日は警察に保護されて、今日は近所の家のインターホンを鳴らしてしまって……『どうなっているんですか』と、毎日のように電話が鳴る。退院中の父がしんどい体に鞭打って、出かけたがる母に付き添った結果、出先で倒れてしまい、救急搬送され呼び出されたこともありました。もちろん、先方はあくまでも『連絡』のつもりなのでしょうけれど、私は常に責められている気がして……それが一番つらかった。『今日はどこから電話が来るだろう』と考える日々で、過呼吸になったこともありました。
弟が会社を休んで、母の対応に奔走することも増え、母の認知症を受け入れなかった父も、いよいよ『もう限界だ』と言い出したんです」。
こうして、初診から2年9ヶ月後。2023年の11月には、施設への入所準備に取り掛かりました。
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