初潮が早いと生活習慣病のリスクが高まる…?どうすれば下げられますか?DOHaD説から考える「痩せすぎの日本人が背負うあまりにも大きなリスク」
「DOHaD説」研究の第一人者、千葉大学予防医学センターの福岡秀興先生に、女性のライフコースから見た健康について解説していただきました。
前編記事『「小さく産んで大きく育てる」はリスクだった?「子どもを2500グラム以下で産んだ人」、DOHaD説から考える成人病リスクとは?』に続く後編です。
初潮が早いとうつのリスクまで高まる…? どうすればリスクを下げられますか?
初潮年齢の早期化は、将来の肥満、生活習慣病のリスクを高める可能性があるのだそう。初潮の早くきた方の中に稀に抑うつスコアが高い例も報告されていますが、これは早期に卵巣ホルモンが作用することで前頭葉や側頭葉の発育に影響するためと考えられています。
「いっぽうで、生後2歳ごろまでの間の急激な体重増加をコントロールできれば、その後の小児・成人肥満が抑制できることがわかってきました。乳児期の急激な体重増加は成人での肥満に移行するリスクが高いのですが、早期に見つけて生活習慣の指導などで改善できれば、成人肥満は十分に防止できます。こうしたことを注意して育児すれば、将来の生活習慣病リスクは大きく低下すると言えます」
エピゲノムというのは遺伝子の働きを調節するスイッチのような仕組みで、加齢や生活習慣、環境で変化していきます。しかし子宮内の低栄養等で生じた胎児のエピゲノム変化の一部は、生まれたあとも変化しません。これが生活習慣病の引き起こされる大本となるのです。生後の早期、特に生後2年までにこれら生活習慣病リスクのあるエピゲノム変化を修正できれば、成人病のリスクは大きく抑制されるというわけです。
現実に現在、乳幼児期の急激な体重増加をなるべく早く見つけて介入指導を行う研究が進んでおり、成果が出てきています。これは疾病リスクのあるエピゲノム変化をいかに修正するかという一つの研究成果です。
他にも3~6カ月の母乳保育は子どもの肥満リスクを減らす効果が期待されます。また、母親から受け取る腸内細菌叢の研究も進んでいます。経腟分娩の場合は母体の腸内細菌叢が子どもに移行して疾病リスクを減らす可能性があります。これは産道を通る際に母親の腸内細菌叢を受け取るからだと言われますが、帝王切開で出産した場合は腸内細菌叢を受け取れません。このことから術後に経口的に望ましい腸内細菌の投与も行われ始めており、生活習慣病リスクを下げると期待されているのです。
もっと早く教えてほしかった…「小さく生まれて初潮が早い子どもは閉経にも影響が出る」
さらに驚くようなお話が続きます。じつは出生体重と初経年齢は、その子どもの閉経時期にも影響するのだそう。
「日本とオーストラリアの共同研究によると、初経年齢が11歳未満で出産経験がない女性は、40歳以下で閉経が起きてしまうリスクが高くなります。また40〜45歳という早期の閉経リスクもやはり高まると報告されています」
40歳以下での早発閉経は骨粗鬆症や認知症、生活習慣病のリスクを高めるため、福岡先生は閉経早期からのホルモン補充療法(HRT)の重要性を指摘します。一般に閉経から60歳前後までのHRTは認知症リスクを下げる効果があるとも言われています。適応のある方は、十分にリスク要因を調べたうえで、可能な場合はHRTを検討してほしいと福岡先生。
「1歳時に肥満があって17歳でも肥満だった子どもと、1歳時に肥満があっても17歳で肥満でなかった子どもを対象にして、7歳のときに採血保存しておいた末梢血DNAメチル化(一部のエピゲノム変化)を調べた大がかりな研究があります。前者ではある部位のDNAメチル化が生じていましたが、後者ではそれは認められませんでした。つまり、1歳で肥満であっても、早期に肥満を解消できた場合はこのメチル化が解消されて、17歳の肥満が生じない結果となっていました。もちろん、1歳、17歳で肥満でなかった子どもでは、当然ですがこのメチル化は生じていませんでした。この結果より、たとえ乳幼児期に急激な体重増加があっても早期に介入してそれが改善できればエピゲノム変化は修正され、その後の肥満リスクは解消可能であることを示しています」
早期に急激な体重増加を見出すためには、母子健康手帳等の身体発育チャートに発育をプロットしていくのが良い方法であり、2チャート曲線を超える体重増加があればそれが急激な体重増加である事を示しています。この様に身体発育チャートを活用していけば、将来の肥満が予防できることが発表されているそう。もう一つ、BMI成長曲線の観察も重要だといいます。
「出生からのBMI値をプロットしていくと、出生後にまず増加して、一度下降してから再び上昇します。この、再び上昇する年齢を『脂肪リバウンド年齢』と呼び、正常な場合は6〜8歳で起きるのですが、6歳より早期に起こっている場合は、小児・成人肥満リスクが高くなります。ですから、そのリバウンド年齢が早期化する場合、より強い生活習慣の指導介入が必要となるのです」
*BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で割った値。体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
「未来の疾病発症が決まってしまった」わけではない。「リスクがわかっているからこそ予防ができる」
先生、ここまで伺うと、「小さく産むのが正しい」と指導されて努力をして従ってきたお母さまたちが、ただひたすら衝撃を受けてしまう話に感じます。というのも、2012年ごろまでは妊娠時の体重増加はかなり厳しく管理されていた記憶があるのです。私は2013年の出産ですが、それでも増加は歓迎されませんでした。しかし最近、日本産科婦人科学会からは、「体重増加の厳しい指導は望ましくない」との会告が公示されているそうですね。
「そのとおり、むしろ体重増加を厳しく指導されてきたお母さまたちには寝耳に水でしょう。しかし、この考え方の重要な点は、小さく生まれることで起こる病気のリスクを知ることができれば、どのような対応でリスクを減らせるかがわかってきたことです。リスクがあることを認識できれば次に打つ手も決まりますから心配いりません。リスクをまったく知らないで育児する事や、本人自身が知らずに生活していくことに比べ、これを知ることは病気のリスクを大きく下げる事が可能となり、明らかに有利と考えていただきたいのです。糖尿病、高血圧、脂質異常症、心臓循環器系疾患、高尿酸血症、腎臓疾患等の疾病リスクがあるとわかれば、ライフコース全体を通じて生活習慣の見直し、健康診断の積極的な受診、専門医への受診などを積極的に行うこともできます。このような考え方に基づき、リスクを踏まえた治療を行う医師を探すのも大切な対処法だと思います」
なるほど……ぜひ、引き続きお話を聞かせてください!
つづき>>>「小さく産んで大きく育てる」はリスクだった?DOHaD説から考える「子どもを2500g以下で生んだ人」が知っておきたい生活習慣病リスクとは?
お話/千葉大学予防医学センター 福岡秀興先生
福島県立医科大学特任教授/千葉大学予防医学センター客員教授 日本DOHaD学会名誉理事長
昭和48年東京大学医学部卒。東京大学産婦人科学講座助手、米国ワシントン大学医学部薬理学教室リサーチアソシエイト、香川医科大学講師、東京大学大学院医学系研究科助教授を経て、早稲田大学理工学術院総合研究所研究院教授、2019年より福島県立医科大学特任教授、現在に至る。DOHaD説の視点から、次世代の健康を確保するために、妊娠中や思春期の分子栄養学を含めた栄養の問題に取り組んでいる。
福岡先生の外来診察は>>>東京脳神経センター(こちら)
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