「これはおかしい」と言葉にした日。10年の洗脳から抜け出すために、彼女が最初にしたこと

2026.01.10 LIFE

怒鳴られ、否定され、それでも最後には優しくされる。そんな日々を繰り返すうちに、Sさんの心は少しずつ、自分自身から切り離されていきました。

「本当は怖い」「でも、私が悪いのかもしれない」「彼は根は優しい人だから」

そうやって違和感に蓋をし続けた結果、気づけばSさんは、何を着るか、何を選ぶか、何を感じるかさえ、夫の顔色を基準に考えるようになっていました。

身体は自由でも、心は10年間、一度も自由ではなかったのです。

前編「怒鳴っても、最後は抱きしめてくれる夫。『怖いのに離れられない』10年間の洗脳結婚の顛末は

に続く本編では、そんなSさんが「これは愛情ではない」と気づくまでの過程と、支配から抜け出すために必要だった現実的で小さな一歩についてお伝えします。

 

Sさんが、それでも夫から離れられない理由

Sさんが

「夫から離れたいけれど、自分には無理だ」「夫がいないと、生きていけない」
と信じ込んでいたのには、はっきりとした理由があります。

 

モラハラ環境にいると、人は「自分で決めて、うまくいった」という成功体験を、徹底的に奪われてしまうからです。

何かを自分で決めて行動すれば、「勝手なことをするな」と怒られる。成功すれば、「俺の指導のおかげだ」と手柄を奪われる。失敗すれば、「だから言っただろ。お前は無能なんだ」と、人格そのものを否定される。

 

この10年間、Sさんは「自分の意思で生きること」そのものを、“罪”として刷り込まれてきたのです。長いあいだ、自分の意思を否定され続ける環境に身を置くと、人は「自分で決めて行動する」という感覚を、完全に失ってしまいます。Sさんが自信を持てず、自立を諦めていたのは、決して彼女の資質や能力の問題ではありません。

何をしても責められ、否定されるという、特殊で歪んだ支配構造の中に閉じ込められ、精神的に追い詰められていただけなのです。

 

洗脳をほどき、自分を取り戻すためには

支配から抜け出すことは、決して不可能なことではありません。10年かけて植え付けられた夫のルールを一つずつ手放し、「本来の自分の感覚」を思い出していくだけでいいのです。そのための第一歩として、洗脳をほどき、自分自身を取り戻すための3つの方法をお伝えします。

 

①「違和感」を言語化し、外の世界へ逃がす

洗脳は「密室」で強化されます。彼とのやり取りの中で感じた「おかしいな」「つらいな」という感覚を、スマホのメモや日記で構いませんので、まず言葉にしてください。それは、あなたの脳が加害者の価値観に占拠されるのを防ぐ、大切な防衛線です。そして、可能であればそれを第三者に話してください。専門家や、あなたの味方になってくれる人からの「それは普通じゃないよ」という一言は、歪められていた現実感覚を、現実の世界へ引き戻す強力な力になります。

 

②「彼に秘密の自由」を、こっそり育てる

いきなり別れることが怖い場合は、まず「彼に言わない小さな行動」を増やしていきましょう。たとえば、
・彼に内緒で500円玉貯金を始める
・誰にも告げずに短時間の散歩に出る

「すべてを把握されていない、自分だけの領域」を持つことが、支配の鎖を少しずつ緩めていきます。人生の主導権を、1%ずつ取り戻す感覚です。

 

③ 身体の感覚に、徹底的に耳を傾ける

モラハラ被害者の多くは、常に緊張状態にあり、呼吸が浅くなっています。心を守るために、感情や感覚を麻痺させてきた結果です。

「何を美味しいと感じるか」
「何を心地よいと感じるか」

ほんの小さなことで構いません。自分の身体の反応を肯定してあげてください。身体が少しずつ緩むことは、マインドコントロールを解くための、重要な鍵になります。

 

Sさんは、こうした方法を積み重ねながら、ようやく夫から離れる覚悟を持つことができました。モラハラ夫の呪縛から抜け出すことは、決して簡単ではありません。洗脳の本当の怖さは、相手がそばにいなくても恐怖がよみがえり、判断する力そのものが奪われてしまう点にあります。

だからこそ、そこから抜け出すには「嫌だから離れる」という言葉だけでは足りず、自分の存在を懸けるほどの覚悟が必要になるのです。

 

それでもSさんは今、自分の人生のために、静かに動き出しています。夫に内緒で少しずつ貯めてきた通帳を確認し、信頼できる相談先と慎重に連絡を取り合いながら、一歩ずつ準備を進めています。

「夫の顔色をうかがわずに生きられる日が、もうすぐ来る」

そう思えるようになっただけで、呼吸が楽になったと、Sさんは話してくれました。

 

笑顔は少しずつ増えています。けれど、10年かけて刷り込まれた恐怖が、すぐに消えるわけではありません。それでも今のSさんは、これまで押し殺してきた「もうこれ以上は無理だ」という自分自身の感覚を、何よりも大切にしています。

 

モラハラの支配の中にいると、人は自分を無力な存在だと思い込んでしまいます。しかし、それは加害者の言葉によって作られた偽りの姿にすぎません。恐怖を抱えながらも、現実的に準備を進めている今のSさんの姿こそが、彼女の本当の強さです。

 

10年という歳月は確かに長く、失ったものも多いかもしれません。

それでも彼女は今、支配される絶望ではなく、「自分の人生を再スタートさせる」という希望の中にいます。

 

人生をやり直すのに、遅すぎるということは決してありません。自分が洗脳されていたと気づき、そこから抜け出そうと決めた瞬間から、新しい人生は、すでに始まっています。

前編「怒鳴っても、最後は抱きしめてくれる夫。『怖いのに離れられない』10年間の洗脳結婚の顛末は

 

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