「ぜひその(高い)薬を保険で投与してもらいたい、だが保険でも高い」。でも必ずしも「値段=効果」とは言えないようで?

国内におけるがんの治療は日進月歩。医療費の高額化、治療の長期化、医療の地域偏差などさまざまな問題を依然として抱えているものの、かつての致命的な印象は薄まり、今や「治す」あるいは「共存しながら暮らしていく」病の一つになりました。

 

外科医・免疫研究者・漢方医、トリプルメジャー医である新見正則先生は、オックスフォード大留学を経て日本にセカンドオピニオンを導入。40年以上に渡るキャリアのすべてでがんに向き合い、がん根治を目指して外科から免疫、漢方と探求範囲を広げました。

 

そんな新見先生が「いまだから言える」がん治療とは? さまざまなご配慮が必要な勤務医には書けない「ここだから言える医師の本音」が満載の最新刊が『患者さんのためのがん治療ハンドブック どの病院、どの治療、どの医師、そして最も大切なものは?』(新興医学出版社)です。中でも「これは本当に言えなかっただろうな」というご意見をセレクト、再編集しお伝えします。この記事は3本中の3本目です。(

 

自由診療を完全否定してしまうと「では個室料金はどうするのだ」となる

「保険診療が是で自由診療が悪」とわかりやすいコメントをする腫瘍内科医がいます 。私も頻回にテレビに出ている頃はそんなコメントをしていました 。経済面からも人は平等と謳いたかったのです 。

 

ただ、そうであれば、保険医療を希望する患者さんは全員、室料差額のない大部屋で治療すべきです 。お金を払って個室を希望する患者さんを歓迎するなら、同じくお金を払って保険診療以外の治療を希望する人も受け入れるべきではないですか? 今の私には、追加費用を払ってより良い治療を望むのも、より良い入院環境を望むのも、ほぼ同じ価値観のように思えます 。

 

出来高制、包括医療制度、高額療養費制度をわかりやすく言うと

おそば屋さんで例えると、出来高制とはかけそばに加えるトッピングもすべて請求できるシステムです 。ですから、お店は何回も来店して、可能な限りたくさんトッピングをするようにお客さまに勧めます 。包括医療制度とは、「おそば代は定額ね」とするものです 。ですから、不要な来店やトッピングを控え、効率的な提供を目指す仕組みです 。そして、その食事代の7割以上を公的医療保険が補助してくれます 。

 

また、高額療養費制度は「暦月(月初から月末まで)にある金額を超えれば、それ以上はいくら食べてもそれ以上の自己負担は求めませんよ」というものです 。また、勤務先の健康保険組合に付加給付の制度があれば、さらに自己負担額の上限額は低くなります 。

 

以外な事実ですが、薬剤費と効果は比例しません

ランダム化された大規模臨床試験を勝ち抜けば、その薬剤は多くの場合に保険適用されます 。すでに類似薬がある場合は、類似薬の薬価を基準に、有効性・安全性・利便性などを考慮して加算や減算されて決まります 。類似薬がない場合には、製造原価、流通経費、研究開発費、営業利益などを積み上げて算定されます 。通常は新しいがん治療の薬剤は研究開発費が膨大なので薬価は高額になります 。数百万円のものもあれば、数千万円に及ぶものもあります 。

 

私が大問題に感じるのは、大規模臨床試験を勝ち抜くということは、有意差をもって有効性が示されたことを証明したのであって、その差(御利益の程度)は論じていません 。つまり、御利益が薄い薬剤でも高額な薬価が付くのです 。新規開発薬は高額ですが、薬価と薬剤の有用性は基本的に比例しません 。超高額な薬剤は成功例にのみ保険償還をするのがいいと私は思っています 。

 

がんの早期発見で生存率は上がる?答えは意外にも

がんの5年生存率を見ると、ステージが上がるほど(進行するほど)、つまり1から4になるほど生存率は低下します 。ですから早期発見、そして早期治療が必須だという論理展開をする医師が多いです 。私も基本的にはそう思います 。しかし、ステージによらず患者さんのすべてに早期治療が必要かは実は疑問なのです 。

 

その中には大きくならないがんも、また消滅するがんも、大きくなっても命に別状をきたさないがんも存在します 。ところが、他の病気で他界するまでにがんが悪さをするかどうかを確実に調べる術がないので、ほぼ全員に治療を勧めているのです 。「ほぼ全員」とは、最近は甲状腺がんや前立腺がんでは、場合によって経過観察(アクティブサーベイランス)が行われているので全員とはならないのです 。どんなステージでも根治できるような「冴えた抗がん剤」が登場すれば、早期発見は不要になります 。

 

ひと昔前は私も「自由診療は詐欺」と言っていたが、これだけ医療が急激に進化すると

自由診療のがん治療クリニックを詐欺行為と断罪している腫瘍内科医が何人もいます 。ひと昔前の私もそうでした 。確かにとんでもない治療と言われても致し方ないことを行っているクリニックがあることは事実でしょう 。しかし、効かないということを証明することはほぼ不可能です 。明らかな臨床的抗がんエビデンスがない治療とするのが精一杯だと思います 。

 

私は、断罪している腫瘍内科医たちに「実は保険診療で詐欺行為に近いことをやっていませんか?」と問いたくなるのです 。

 

公的医療保険の財源は公共財です 。ですから保険診療の枠から外れていることを保険請求して公共財を使用することは詐欺です 。医療の世界では実は「患者さんのために上手に保険病名を付けて、この検査を、この治療を、この薬剤を通しましょう」といった作戦は常套手段として行われているのです 。

 

そして、私もそんなことを患者さんのためと心底信じて行っていました 。しかし、世の中を俯瞰して見られるようになると、それはルールを逸して公共財を使用していることになるのです 。つまりは詐欺行為と紙一重です 。逆に、自由診療で患者さんがいくらご自身のお金を使おうが、公共財の浪費にはならないのです 。

 

つづき>>>もしも「がんです」と言われたら、どんな病院に駆け込むべきか?40年以上がんと向き合ってきた医師が語る「少しでも理想に近い病院」の見分け方は

 

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■新見正則先生

慶應義塾大学医学部卒業。卒業後、慶應大学病院外科に勤務。1993年より1998年までオックスフォード大学医学部博士課程。1998年オックスフォード大学博士課程学位(Doctor of Philosophy)取得。1998年より帝京大学外科。2002年より准教授。その後、帝京大学医学部博士課程移植免疫学、東洋医学、血管外科学の指導教授。2020年より新見正則医院院長。テレビ出演、講演のほか、著書多数。

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