「自称」小説家(無職)のモラハラ夫を支え続けた看護師の妻。ついに殴られた日、夫が大声で叫んだ「信じがたい言葉」とは
モラハラ・夫婦カウンセラーの麻野祐香です。
働く女性は、モラハラやDVの夫から簡単に逃げられるのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。さまざまな事情で、支配的な配偶者との結婚生活を続けている人たちは少なくありません。オトナサローネ世代のモラハラ被害にフォーカスした本連載、今回は、モラハラや暴力を繰り返す夫との暮らしの中で、なぜ別れを選べなかったのか。その葛藤を抱えながら、幼い子どもとともに限界まで耐え続けたCさんのお話です。
※本記事は、相談者様への敬意と守秘義務に十分配慮したうえで、モデルケースとして編集・再構成しお届けしています。特定の人物や事例を示すものではありません。
※写真はイメージです
【実録・カウンセラーから見たモラハラ】#108前編
結婚してすぐ仕事を辞めた夫
夫が仕事を辞めたのは、結婚して間もない頃でした。
「俺の能力を理解しない会社だったから辞めた」
そう言ったきり、次の仕事を探そうとする様子はありませんでした。
Cさんは看護学校を卒業後、総合病院で看護師として働いてきました。妊娠がわかってからも体調と向き合いながら出産直前まで勤務を続け、産後も十分に体を休める間もないまま職場へ復帰しました。「夫が働いていない以上、家計を支えるのは自分しかいない」その思いを抱えながら、Cさんは働き続けていたのです。しかしその間、夫は家事をするわけでもなく、積極的に子どもの世話をするわけでもありませんでした。Cさんが仕事から帰宅しても、家の中は朝のままです。
「少しは家のことをやってほしい」そう伝えても、夫が変わることはありませんでした。ようやく夫が働き始めたのは、子どもが生まれて半年ほど経った頃です。これでようやく、夫婦で家庭を支えていける。そんな期待も芽生えましたが、その仕事もわずか4か月で辞めてしまいました。そして退職から間もなく、夫は突然こう言ったのです。
「俺、小説家になる」
夫はそれまで文章を書く仕事をしていたわけでもなく、小説を書いた経験があったわけでもありませんでした。夫は勝手に「小説家宣言」をしたあと、「ひらめきの邪魔をするな」「集中できない」と言って、家事をしないことを正当化するようになりました。
Cさんは仕事を終えると保育園へ子どもを迎えに行き、帰宅後は休む間もなく夕食の支度に取りかかります。子どもは抱っこを求めて泣いています。それでも夫は「おかえり」の一言すら言わず、目線をパソコンから離そうとしません。子どもが大きな声を出すと、夫は「うるさい。集中できない」と怒鳴るのですが、夫が本当に小説を書いているのか、それともネットを見ているだけなのか、動画を眺めているだけなのか、Cさんにはわかりませんでした。
こんな夫と別れなかった理由
Cさんはなぜ、こんな夫と別れなかったのか。不思議に感じる方もいるかもしれません。
夫は態度が大きい人間でした。何を言っても自信満々に言い返され、Cさんの人格そのものを否定するような言葉を繰り返し浴びせられるうちに、少しずつ
「私の受け取り方が間違っているのかもしれない」
「私の考え方が間違っているのかもしれない」
と、自分自身を疑うようになっていってしまったのです。
さらに、
「いつか変わってくれるかもしれない」
「私が支えなければいけない」
そんな思いも生まれます。
夫はいつも怒っているわけではありません。何事もなかったかのように話しかけてきたり、以前の優しかった頃のような笑顔を見せたりすることもありました。そんな瞬間があるからこそ、「今度こそ変わってくれるかもしれない」と期待してしまうのです。そして、自分が我慢すれば家庭は壊れない。自分さえ我慢すれば、別れなくても済むかもしれない。そんな思いのほうが強くなっていきます。
これは意志が弱いからではありません。モラハラ環境に長く置かれることで、心が少しずつ傷つき、自分の感覚や判断に自信が持てなくなってしまうからです。心理学では、こうした状態を「トラウマボンディング」と呼ぶことがあります。傷つけられているのに、その相手から離れられない。怖さと情、怒りと期待が複雑に絡み合い、気づいたときには身動きが取れなくなっているのです。
Cさんも、自分のことを後回しにして耐え続けていました。しかし夫は、毎日のようにCさんを言葉で傷つけました。
「看護師なんて誰でもなれる仕事だろ」「お前の稼ぎじゃ全然足りない」
しかし、Cさんも黙ってはいませんでした。「いい加減仕事をしてよ!看護師は立派な仕事だから!」そう言い返し、夫と口論になることもありました。
ついに殴られた日、夫はなんと…
夫は言葉では勝てないと思ったのでしょう。ある日の口論の最中、突然Cさんを殴り、壁に押しつけてきたのです。とっさにCさんも、自分を守るため夫に手を出しました。するとその瞬間、夫は「DVされた!」と大きな声で叫んだのです。
「自分がどうすれば責められずに済むのか。どうすれば自分が有利な立場に立てるのか」それを瞬時に判断したのです。一見すると理解しがたい行動ですが、そこにはモラハラをする人に共通する心理があります。
・自分が「悪い側」に立つことは耐えられない
自分が加害者だと認めることは、プライドを大きく傷つけます。そのため「被害者」の立場に回ることで自分を守ろうとします。
・責任を相手に押しつけたい
自分の行動を責められたとき、その責任を受け止めるのではなく相手に転嫁します。「悪いのは自分ではなく相手だ」とすり替えるのです。
・相手を黙らせたい
「DVされた」と訴えることで相手に罪悪感を抱かせ、言い返せなくさせます。恐怖によって、相手の言葉や行動を封じようとするのです。
先に暴力を振るったのは夫でした。それなのに気づけば、加害者にされているのはCさんです。その理不尽さが、Cさんをさらに深く追い詰めていったのです。
本編では、働かない夫を支え続けながら家計も育児も担ってきたCさんが、暴言や人格否定、そして暴力によって追い詰められていく様子についてお伝えしました。
▶▶子どもの前で殴られ警察へ。「戻ってきてくれ」と泣く夫を置いて、看護師妻が選んだ新しい人生は
では、暴力事件をきっかけにCさんが家を出る決断をしたこと、そして子どもと二人で新しい人生を歩み始めるまでをお届けします。
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