「植物状態になる可能性があります」突然の事故で人生が一変。妻が意識不明になった“あの日”のこと
人間でありながら「植物」と見なされる違和感
どれほどの時間がたったでしょうか。ようやく到着した救急車で病院へ搬送され、すぐに手術の準備が始まりました。しかし、術前に告げられた説明は、絶望に近いものでした。
衝突のダメージが大きすぎること。輸血用の血液が大量に集まらなければ手術すらできないこと。助けたいのに、何をすればいいのかわからない。
病院へ運び込まれてなお、手の打ちようがない現実に、言葉を失いました。何もできないまま、ただ焦りだけが募っていきました。そのとき、思いもよらない偶然が、私たちに救いをもたらしました。
衝突のはずみで、妻の鞄の中にあった携帯電話のボタンが押され、私の実家につながっていたのです。
受話器越しに聞こえてくる私の絶叫に、母はただならぬ事態を察したといいます。即座に警察や親族へ連絡が回り、年始にもかかわらず、多くの人々の協力によって血液が集まりました。
こうして、妻は手術室へと運ばれました。夜11時に始まった手術が終わったのは、明け方の5時。6時間に及ぶ手術は無事に終わりました。ひとまず、一命は取り留めました。けれど、安堵するには早すぎました。
医師は厳しい表情で私に告げました。
「全力は尽くしました。しかし、脳の反応が確認できません。このまま意識が戻らなければ、植物状態になる可能性があります」
妻をICU(集中治療室)で見守る日々が始まり、娘はICUに併設された家族控室で過ごしていました。治療室の扉が開くたび、幼い声が廊下に響きます。
「ママ、がんばれー!」
何度も、その扉に向かって叫んでいました。私はその声を録音し、病室で流し続けました。
妻が愛したクラシック音楽も、絶やすことはありません。意識のない妻の傍(かたわ)らで、私にできることは、ただ手を握り、話しかけることだけでした。
脳波計の針は動かず、横たわる妻の体は、あらゆる機械とつながれていました。相当に厳しい状態であることは、残酷なほど理解していました。そして、医師の宣告が、頭から離れませんでした。
「植物状態になる可能性があります」
胸の奥に重たいものが落ちていくような鈍い感覚がありました。意味はわかっているはずなのに、「植物」という言葉で愛する人が括られることに、現実味のない違和感と、たとえようのない衝撃を覚えたのです。
つづき>>>「血の付いた妻の服を捨てられなかった…」愛する人を失うかもしれない恐怖で眠れない日々。ベストセラー作家が明かす壮絶な過去
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■著者:井上 裕之(いのうえ・ひろゆき)
いのうえ歯科医院理事長、医学博士、経営学博士。東京歯科大学大学院修了後、世界レベルの技術を学ぶためニューヨーク大学、ペンシルベニア大学、イエテボリ大学で研鑽を積み、医療法人社団いのうえ歯科医院を開業。自身の医院で理事長を務めながら島根大学医学部臨床教授、東京医科歯科大学、インディアナ大学客員講師など国内外9大学の役職を歴任。その技術は国内外から評価され、とくに最新医療、スピード治療の技術はメディアに取り上げられ、注目を集める。世界初のジョセフ・マーフィー・トラスト(潜在意識の権威)公認グランドマスター。本業の傍ら、世界的な能力開発プログラム、経営プログラムを学んだ末に、独自の成功哲学「ライフコンパス」をつくり上げ、「価値ある生き方」を伝える著者として全国各地で講演を行っている。著書は90冊を超え、累計140万部を突破。実話から生まれたデビュー作『自分で奇跡を起こす方法』(フォレスト出版)はテレビ番組で紹介され、大きな反響を呼んだ。『本物の気づかい』『一流の人間力』(ともにディスカヴァー)、『不敗の人生をつくる言葉』(致知出版社)、『選ばれる人の100の習慣』(日経BP)など著書多数。
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