家庭崩壊で深夜の警察署へ…ヤングケアラーの高校生に警察官がかけた「忘れられない言葉」

2026.10.28 LIFE

家族の生活保護や、家事・介護を背負っていることを誰にも打ち明けられずにいた高校生の清野孝弥氏。家庭内トラブルをきっかけに、深夜の警察署で初めて、自分が抱えてきた苦しみをすべて話すことになります。

そこで出会った一人の警察官がかけた言葉は、その後の清野氏の人生を大きく動かすことに。

本記事では、生活保護世帯のヤングケアラーとして育った清野氏の著書から、忘れられない警察官との出会いについて紹介します。

※本記事は書籍『ヤングケアラーの僕が東大に合格するまで: 家事、介護、そして勉強 それでも僕はこの家から東大に行く』(清野孝弥:著/東洋経済新報社)から一部抜粋・編集したものです

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犯罪者とはなにが違う

家で待機していた僕らは、深夜3時を過ぎたころ、パトカーで地元の警察署に連れて行かれました。

パトカーを運転していた警察官は、見てはいけないものを見たかのような目で、バックミラー越しに、僕の顔をのぞいていました。きっと惨めな顔をしていたのでしょう。

警察署に着くと、僕と妹は、取調室のような場所に案内されました。そこは飾り気のない無機質な部屋で、小さな椅子とアクリル板つきの机が置かれていました。

僕には、映画やドラマで見るような取調室にしか見えませんでしたが、どうやら警察官によるとここは待機室で、取調室にいるのは両親だ、ということでした。

両親の取り調べを待っている間、話し相手になってくれたのは、白髪混じりの短髪がよく似合う年配の警察官の方でした。

「いま、きみたちのご両親は取り調べを受けているから、しばらくここの部屋で待っていてほしいんだ。それと、思い出せる範囲でかまわない。今日の夜になにが起こったのか、教えてもらえないか?」

警察官は優しく僕らの目を見て、話しかけました。

しかしそうは言っても、食べ物も食べず、飲み物も飲まず、睡眠も取らずという状態だったので、頭が朦朧として話ができませんでした。ふと横に目をやると、いまにも倒れそうな妹の様子が見えました。

「ねえ、お兄ちゃん。お腹空いた」
「……」

何もできない自分が悔しくてたまりませんでした。

すると、僕らの会話を聞いていた警察官は、すぐさま椅子から立ち上がり、「ちょっと待っていてもらえるか。いますぐなにか食べ物を持ってくるからな」と告げて、待機室を出ていきました。

僕と妹は、目を見合わせても会話をする気力がありませんでした。そして生きた屍のように、僕らはぐったりと机の上に伏せました。

それから1分もしないうちに、警察官は両手いっぱいに菓子パンとペットボトルの水を抱えて、待機室まで戻ってきてくれました。

とっさに僕の口から出た言葉は、「すみません、いまお金を持っていなくて……」。惨めでみすぼらしくて、哀れで恥ずかしくて、身が縮む思いだったのです。すると、警察官は微笑みながら言いました。

「きみ偉いな。お金なんていいんだ。これは警察署内の冷蔵庫にあったものをかき集めただけだから。好きなだけ食べなさい」

僕らは本当に、飢えていたんだと思います。遠慮したい気持ちもありましたが、15分足らずで警察官が用意してくれた食べ物をむさぼるようにして食べ尽くしてしまいました。菓子パンがこれほど美味しかったことはありません。

挙句の果てには「そんなにお腹が空いているなら、コンビニで好きな食べ物を買ってこようか?」と提案されてしまいましたが、さすがにそのときは、理性のほうが勝ちました。

ようやく元気を取り戻した僕は、今晩までの経緯を説明しました。

自分が東大受験生であること、家族が生活保護を受けていること、お金の問題や病気の問題、受験の問題などが原因で毎日のように家庭内トラブルが起こっていること……これまで1人で抱えていたことを、すべて打ち明けました。

「だってもう、家族は崩壊したんだから」、そういう気持ちでした。

最初は同情しながら聴いてくれていた警察官ですが、途中からは驚きの眼差しで僕を見るようになりました。どうやら、にわかには信じられなかったようです。警察官は、神妙な面持ちで言いました。

「残念ながら警察署には、きみたちみたいに苦しんでいる子どもたちが、たくさんやって来る。理由はいろいろ。家庭の貧困だったり、両親の離婚だったり、学校のいじめだったり、大人が介入しなければ助からない子どもたちがいるのは、事実なんだ。しかもそういう子どもの場合はたいてい、子ども自身もなにか犯罪を犯していたり、非行を犯したりしているものだ。でも、きみの場合は違う。悪さどころか、翠嵐高校に通って東大を目指しているんだろう? こんな話は、聞いたことがない。本当に驚いた」
「ありがとうございます」
「妹さんはどうなんだい? お兄さんと同じく翠嵐高校を目指しているのかい?」
「はい……」
「そうか、じゃあきみたちのような子どもが幸せになれることを祈るばかりだな」

ヤングケアラー。大人が担うべき家族のケアを担っている子どものことです。

当時はこの言葉を知りませんでしたが、警察官と話をしたことで、この社会にはさまざまな理由で苦しんでいる同世代の仲間たちがいることを知りました。

家庭の貧困に悩まされている子ども。

家庭内暴力に悩まされている子ども。

家事・介護に悩まされている子ども。

逆境に置かれながらも、夢に向かって努力している子どもたちは、たくさんいるはずです。

そうした子どもたちが一線を越えるまで放置されて、犯罪や非行に手を染めることで、初めて社会のスポットライトを浴びているのだとしたら、あまりにも悲しいことです。僕は待機室で、同じような境遇の仲間たちに、想いを馳せました。

 

▶「きみは、絶対に応援されるべき人間だ」

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