豊臣兄弟の母・なか(坂井真紀)を焼き殺す準備と秀長(仲野太賀)の暗殺計画。なぜ家康(松下洸平)は自己防衛心から解放されたのか【NHK大河『豊臣兄弟!』41話】
*TOP画像/家康(松下洸平) 秀吉(池松壮亮)ほか 大河ドラマ『豊臣兄弟!』41話(10月25日放送)より(C)NHK
戦国時代のど真ん中を舞台にした『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)の主人公は仲野太賀が演じる豊臣秀長。兄弟の絆で“天下統一”という偉業を成し遂げた豊臣兄弟の奇跡を描いた大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)の第41話が10月25日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。
憎きやつの妹だが……。あさひに“大人の対応”
第41話「家康の野望」では、他人に心を踏みにじられた経験から、自分の心を守るために他者を警戒していたとしても、誰かの“真の心”に触れれば、人はなお動かされることがある——そんな人間の可能性を、家康(松下洸平)を通して描き出していました。
本回は、家康が長年の癖で爪を噛みそうになるものの、石川数正(迫田孝也)の注意を思い出し、ぐっと堪える場面で幕が開けました。
家康のストレスの原因は、あさひ(倉沢杏菜)。あさひは秀吉(池松壮亮)好みの着物を大坂から取り寄せ、家康に着せようと試み、家康を追いかけまわします。家康は家臣・本多忠勝(夏生大湖)とともに逃げまわり、二人で几帳(きちょう)に隠れる姿はコントのようでした。

あさひ(倉沢杏菜) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』41話(10月25日放送)より(C)NHK
そうはいっても、家康にとって笑い話ではありません。家康はあさひが秀吉好みの着物を着せようとするのは、豊臣への遠まわしの臣従の試みであると見抜いていました。家康はあさひの下心を知り、「寝首をかかれるやもしれぬ」と恐れつつも丁寧に接し、妻となった身を怖がらせたり傷つけたりはしません。秀吉と秀長(仲野太賀)がなか(坂井真紀)を“あさひの見舞い”と称して人質とし、あさひが仮病を装って豊臣に協力していると見破っても、その態度は変わりませんでした。

家康(松下洸平) あさひ(倉沢杏菜) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』41話(10月25日放送)より(C)NHK

あさひ(倉沢杏菜) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』41話(10月25日放送)より(C)NHK
家康は数々の大切なものを奪われ、人の心を信じられず、さらには数正まで秀吉に奪われたばかり。それでも、過去の自分のように自らの意思に関係なく人質となり、健気にふるまうあさひに怒りをぶつけませんでした。豊臣に恨みを抱く家康であっても、明るく笑う無邪気なあさひに対しては、無慈悲に応じられなかったように思います。
スーパー兄弟の母はすごい! なかの息子を察する能力に涙
あさひを家康に人質として差し出したものの、家康の上洛は見込めず、秀吉らは行き詰っていました。九州の島津家の脅威が迫る中、石田三成(松本怜生)はなかを家康に人質として差し出すよう秀吉らに提案。秀次(山田涼介)は「バカなことを申すな!」と声を荒げますが、秀吉と秀長は沈黙をつらぬきます。
二人がなかのもとを訪ねると、なかは満面の笑顔で迎え、ご馳走をふるまいます。秀長が「わしらが来たからといって そんなに めでたいことでは…。」と申し訳なさそうにすると、なかは「めでたいわ」と喜々とした声で返答。そして二人が“言いたいこと”を察し、「あんたらの顔見とったら あさひの顔も見たくなったわ」と言って会話を自然な流れにもっていき、「私が徳川へ行けば あんたら お天道様になれるんじゃろ?」と優しく問いかけました。このときのなかの表情は、息子たちへの愛にあふれ、二人の未来に希望を見ているようでした。
なかが人質として岡崎城に入ると、宿所のまわりに薪が積まれていました。なかが「ほんでも このまきは…。」と尋ねると、徳川の家臣は「夜は冷えるであろうから すぐに火をつけて暖められるように備えよと」と返答。なかは薪と家臣の様子に不安げな表情を浮かべていました。史実でも、なかはあさひの見舞いという建前で人質に出されました。家康が大坂に滞在している期間、なかの宿所の周囲は薪で囲まれ、家康に何かあれば、なかを焼き殺せるよう準備していたと伝わっています。本作においても、なかの怯えた表情から察するに、この薪は家康に万一のことがあった場合、なかを殺すための準備だったと考えられます。
家康は秀長の暗殺を試みるも……。“真の心”に動かされる
39話「茶々の本心」では、家康に「秀吉めに勝つ策はあるか?」と問われると、数正が「秀吉には後を継ぐよき血筋がおりませぬ[中略]秀吉と秀長が死ぬのを待つのでござる」と答えていました。すると、家康は「秀吉と秀長…。今すぐ死んでくれんかのう」と、二人への憎しみを込めて述べていました。
今の家康にとって豊臣兄弟は邪魔者であるだけでなく、数正を奪った憎きやつでもあります。秀長の殺害を決め、自分を狙った北条の刺客に秀長が殺されたように見せかけようと企てました。
家康は秀長の“命”をねらうのに対し、秀吉と秀長がねらうのは家康の“真の心”。二人は家康が6万の軍勢を連れてくることに懸念を抱きながらも、秀長は「相手の真を得るためには 我らの真を見せるしかあるまい」と心を決めます。
秀長は家康に接待の席で真摯に向き合いました。家康の心を大きく動かしたのは、「最もつらく 苦しかったことは何じゃ」という問いに対する答えでした。秀長は信吉、直、与一郎の死を語ったほか、「はあ~ わしは 大事なもんを何も守れんかった」「戦ごときに大事なもん奪われてたまるか!」と、涙を流しながら胸の内を明かします。
大切な者を次々と奪われてきた家康にとって、秀長の言葉は親近感を抱かせるものでした。大切な存在を奪われた過去を抱えているのは、自分だけではないと気付いたようにも見えました。
家康は攻撃の合図である杯を落とさねばと思いつつも、秀長を知れば知るほどその殺害に躊躇……。しかし、吉房(上川周作)が杯に酒を注ごうとした際、家康の杯を意図せずして落としました。すると、秀長を狙っていた家臣が弓を引きます。家康は秀長をかばって背中に矢を受け、傷を負いました。痛みをこらえながらも、秀長を殺すために自らが仕組んだことだと明かしました。

家康(松下洸平) 秀長(仲野太賀) 吉房(上川周作) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』41話(10月25日放送)より(C)NHK

家康(松下洸平) 秀長(仲野太賀)ほか 大河ドラマ『豊臣兄弟!』41話(10月25日放送)より(C)NHK
秀吉と秀長は家康の企てに怒ることはなく、秀長は「真の臣従をせよなど 傲慢であった」と反省し、秀長は「あの手この手と策を講じてみたところで 人の真の心を奪うなど できんわ」と言いました。
家康は幼少期に人質として今川家に送られ、心を踏みにじられ弄ばれる中で、自分の心を守ることに必死になっていました。家康にとって自分の心を尊重してもらったのは、はじめての経験だったのかもしれません。
第5話「嘘から出た実(まこと)」で、藤吉郎と名乗っていた頃の秀吉が家康に出世の秘訣を聞いた際、家康が「誰にもできぬことをやってのけるのじゃ。[中略]大事なのは ここ(心)じゃ」と助言を与えていましたが、秀吉はこの言葉を胸に留め、生きてきたことを明かしました。家康は秀吉と別れてすぐ、数正と“反対のことを言ってやった”と笑っていましたが、秀吉は家康の言葉を真のものとして信じていたのです。信じ続けた秀吉により、家康の言葉は“嘘から出た実(まこと)”に長い年月を経てなりました。
どのような世をつくりたいか考えたこともなく、ただ大事なものを守るために武家の頂に立つことを目指した家康。そんな彼が豊臣兄弟の想いを知り、この兄弟が目指す世を後押しすることを決めました。

家康(松下洸平) 秀吉(池松壮亮)ほか 大河ドラマ『豊臣兄弟!』41話(10月25日放送)より(C)NHK
臣従のための謁見の後、家康は数正と再会を果たし、二人で肩を並べて酒を飲みながら、将来について語り合います。家康は「お前の言うとおり あやつらよりも長生きして 最後に笑ってみせるわ」と夢を口にします。この言葉通り、家康は長生きし、やがて江戸幕府を開き、徳川の世は260年以上続きました。
はたして、家康は秀長の暗殺を企てたのか?つづく▶▶
茶会の毒殺から銃殺、美男子のハニートラップまで……。戦国時代の暗殺事情と家康による「秀長暗殺未遂説」の真相
では、戦国時代の生々しい「暗殺」の手口や状況と、家康の真意についてお届けします。
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