「自筆」で遺言書を作る場合、何が必要?相続相手別、遺産の文例集
準備は必要だと感じているのに、実際に準備している割合が極めて低い遺言書。平均寿命まで時間がある世代だと、なおさら実行には移さないものですが、民法では15歳以上であれば遺言書を作成することができます。婚姻適齢や選挙権よりも低い年齢で、遺言を残すことができるのです。
遺言書は、突然の事故や病気など予期せぬ事態が発生したときに、効力を発揮します。生命保険に入るように、何かあったときのために備えておく。病気になってからでは保険に加入できないのと同様、元気なうちでなければ遺言も残せません。いずれ書くつもりがあるなら、早めに書いておいて損はないのです。
遺言を残すことは、大人の責任のひとつ。私も実際に書いてみると、「これで何かあっても安心」と気持ちが軽くなりました。いきなり完璧な遺言書を目指さなくても、下書き程度にとりあえず書いてみるだけでも一歩前進。まずは、自分で作れて費用がかからない「自筆証書遺言」から書いてみましょう。
費用のかからない自筆証書なら気軽に作れる
「自筆証書遺言」は、形式や内容に不備があると遺言書が無効になることがあるため、記載漏れや書き間違いがないか必ず確認すること。下記の要件が満たされていないと、無効になります。
【自筆証書遺言の要件】
・遺言者本人が全文を自筆で書く
・本人の意思で書く
・住所、年月日を記載する
・署名をする
・押印をする
「自筆証書遺言」は全文を自筆で記入し、日付、住所、署名、押印をすること。パソコンや代筆で作成した遺言は認められません。また、夫婦連名、脅迫や強制により作成された遺言書も無効になります。次に書く際の留意点をまとめておきます。
【自筆証書遺言を書く際の留意点】
・用紙・・・遺言書の用紙は自由。原稿用紙、便箋などに記入
・筆記用具・・・とくに決まりはない。ボールペン、サインペン、万年筆、毛筆などで記入。鉛筆や消せるボールペンは書き換えられる恐れがあるため、使用しないようがよい
・日付・・・元号、西暦どちらでもよいが、「平成〇年〇月〇日」のように明確な年月日を記入すること。「〇月吉日」など、日付が特定されないものは無効になる
・押印・・・認印や三文判でも法的には問題ないが、遺言者本人との証明になるよう実印を使用した方がよい
以上を踏まえ、文例と注意点を記載しておきます。
【配偶者に全財産を相続させる遺言書の文例】
遺言書遺言者 山田花子は、次の通り遺言する。
遺言者に属する一切の財産は、夫 山田 太郎(昭和○年○月○日生)に 平成〇年△月□日 |
“おこなしさま夫婦”の場合、自分だけではなく配偶者にも同様に遺言書を書いてもらうことが重要です。とはいえ、いきなり「遺言書を書いて」と言えば、相手は怯えるか、怒りだしてしまうことがあるかもしれません。まずはお互い何かあったときに、相手を守ってくれることになる遺言書の必要性を理解してもらい、自分が先に書いてからお願いした方がよいでしょう。
【全財産を遺贈する遺言書の文例】
遺言書遺言者 山田花子は、次の通り遺言する。
1.震災の復興に役立ててもらうため、遺言者に属する一切の財産を 2.本遺言の執行者として次の者を指定する。 平成〇年△月□日 |
財産を団体などに遺贈する場合は、遺言の内容を実現するための手続きを行う「遺言執行人」を指定した方がスムーズです。なお、法定相続人が存在する場合は、遺留分を考慮したうえで遺贈額を決めると、遺産相続におけるトラブルを回避しやすくなります。
遺言書を託すことも重要
本文をすべて書き終わったら、封筒に入れ封印します。法的には規定はありませんが、改ざんを防ぐため封筒に入れ、表には「遺言書」、裏面には日付、氏名、印を押します。封印のある遺言書は家庭裁判所において、相続人の立会いのもと開封します。そのため、発見時に遺族がうっかり開封しないように、「開封せずに家庭裁判所に提出すること」と明記しておきましょう。また、遺言書は書き直したら古いものは破棄します。仮に遺言書が複数あった際は、最新の日付のものが有効になります。
せっかく遺言書を書いても、見つけてもらわなければ意味がありません。誰も遺言書の存在を知らず、発見もされなければ気がつかずに遺産分割が行われてしまいます。見つけてもらいやすい場所にしまっておくか、あらかじめ信頼できる人に遺言書の存在を伝えておくようにしましょう。
「自筆証書遺言」は遺言者の死亡後に、家庭裁判所にて検認を受けなければいけません。遺言書の内容を明らかにして、偽造・変造を防止するための手続きです。手続き終了まで遺言を執行できず、検認に時間がかかることが「自筆証書遺言」の難点です。そのため私は、封筒に入れる前にコピーをとり保存。コピーがあれば、後で内容を見直すときにも役立ちます。
相続人がいない遺産は国に吸収されます
子どもがいない“おこなしさま”は、最終的な遺産の行き先を自分で決めなければ、国のものになってしまう可能性があります。「裁判所 省庁別財務書類」(平成26年度)によると、相続財産で相続人不存在のため国庫帰属となった収入金は約434億円あり、額は年々増加。未婚化・未産化が進む日本では、ますます“おこなしさま”の財産が国庫へ吸収されてしまいます。
誰しも自分は急に死ぬことはないと思っているので、いままで遺言について真剣に向き合う機会がなかった方も多いと思います。ですが、“おこなしさま”だからこそ、自分の遺産の行き先を指定する責任があるのではないでしょうか。
遺言は、これから生きていく方へのメッセージでもあります。人生の折り返し地点を過ぎたあたりで一度、自分の遺産のことを考えてみてはいかがですか?
年間434億が国のお金に!できる大人は「残し方」を知っている【おこなしさまという生き方 Vol.30】
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