【岩井志麻子】だれにでもある「忘れられない恋」の話
自分でもしみじみしつつ、どこか呆れてもしまうが、ベトナムはホーチミンに二十年くらい続いている愛人Vがいる。そんなVとのなんだか妙に忘れられない場面の一つに、確か二年くらい前の路上のバーがある。
常夏の国だから、多くの店が壁や扉を取り払い、店内と路上が地続きになっている。私とVは店内で寄り添い、ベトナムビールを飲んでいた。
彼はなぜ、夜の女に行かないのか?
その店は外国の男の方が多く、彼らを当て込んでいる女達も店内にたむろしていた。露出度の高い派手な服、尖ったヒール、光るマニキュアの指に挟まれた煙草。一目でわかる、夜の女達。Vによると、片言でも英語ができる彼女らは、かなり高いらしい。
ふと私は、路上の席の一つに寄り添う男女が気になった。白人のおじいちゃんと、タイから観光に来ているらしいおばさん。おばさんも満更でもなさそうだけど、とにかく白人じいちゃんがハアハアしているように見えて、私はVに耳打ちした。
「じいちゃん、そんなにやりたいなら、こっち側の絶対にやれるプロのオネエチャンに行けばいいのに。タイのおぱさんは、やれるかどうかわかんないのにね」
するとVは、真顔でこう答えた。
「こっち側の女は、お金がかかる。隣のおぱさんなら、タダでやれると狙ってんだよ」
どちらの答えも違う?
何やら軽く衝撃を受け、しみじみもしてしまった私は、思わず仲良しの漫画家、西原理恵子にその話をラインで送ってしまった。すぐに、こんな返事が来た。
「どちらも違う。白人じいちゃんもタイおばさんも、恋をしたいんだよ」
胸を打たれた。いずれが真実か、当事者にもわからないんじゃないだろうか。白人じいちゃんはタダでやりたくもあり、でもこれは恋と思い込んでるかもしれないし。
あれは本当にそうだったのか?
あの後、二人がやったのかどうかまでは、わからない。白人じいちゃんの中では、一夜の恋として記憶されているか。タイおぱさんの中でもか。
私とVがいつまで続くのか、これも当事者にもよくわからない。もしVと別れたとしたら、私はVとのことを思い出すとき必ず、あのバーの白人じいちゃんとタイのおばさんを思い出すだろう。
自分達の恋と同じくらい色濃く切なく、あれは本当に恋だったのかと。
スポンサーリンク
【注目の記事】
- 血糖値を上げすぎない、腸の善玉菌を増やす「身近なフルーツ」とは。でも、食べるタイミングを間違えないで!【科学研究所の博士が解説】
- 【6月19日金曜日19時~】「子どもが不登校になった親の気持ち、誰かと語り合いたい」。小説家・仙田学さんの「不登校ラジオ」始めます!
- バブルを経験した56歳女性が「田舎暮らしのほうが合うかも」と実感するようになった理由。東京と岡山の二拠点生活で気づいたこと
- 【ユニクロ】のイージーパンツで魅せる、こなれ感たっぷりな初夏のきれいめカジュアル【40代の毎日コーデ】
- 「お金のことを考えると離婚できない」高給取りの夫から25年間いじめ抜かれ、子どもたちは「パパはママに優しくないよね」と背中をさすってくれるけれど、先が見えなくて辛すぎる。どうすればいいの?【カウンセラーが見たモラハラ・リバイバル】
スポンサーリンク
















