44歳で社長、プレッシャーだった アテニア社長 斎藤智子さん後編【女性リーダーに聞く】
働く女性が自分らしく活躍することを考えるシリーズ【女性リーダーに聞く】。株式会社 アテニアの代表取締役社長、斎藤智子さんは、38歳で管理職となり、44歳という若さで代表取締役社長に就任。
前編では子供の頃のお話、そして就職して管理職になるまで、そして感じたことなどをお伺いしました。この後編ではより女性リーダー、経営者という部分にクローズアップ、さらには斎藤さんのパーソナルな部分にも迫ります。
【プロフィール】1997年ファンケルに入社後、1999年に同グループのアテニアへ移籍。化粧品の企画開発に携わる。2019年3月より代表取締役社長に就任。
自信はなかったけれど、やるしかない
──経営者、社長の立場になったのは何歳ですか? その時のお気持ちは?
「2019年3月、44歳のときに就任しました。声がかかった時はさすがにプレッシャーを感じました。周囲からもまだ若いし荷が重いのではないか、可哀想じゃないかという声もあったようです。
私もほかに適任はいないのかと聞いてみたのですが、いないという。ということはもう選択肢がないわけです。「他にいないんでしょ? じゃあ、やるしかないよね(笑)」と。
やれる自信はないけれど、やりたくないわけでもない。ならやるしかないわけです」
──企業理念は?
「アテニアの原点にあるのは『一流ブランドの品質を、1/3価格で提供することに挑戦し続けます。』というアテニア宣言です。社長に就任したときに、もう一歩、女性に寄り添うメッセージが欲しい、と。頑張っている40代女性の毎日をもっと潤してあげたい。たまのご褒美じゃなくて、生活の一部にして満たしてあげたいと考えました。
そこでアテニア宣言に加えて「毎日上質を纏(まと)う幸せ」というマインドをつけ加えました。安いだけがアテニアの価値ではなく、それを使う幸せが毎日の潤いに繋がるということを伝えたかったんです」
──前編でお話しいただいたファンコミュニティを室長時に開設されたのもそういった理由でしょうか。
「そうです。消費者が口コミや第三者からの情報をより信用する風潮を実感していたので、このまま単に広告を打つだけでは、新しいお客様に出会えない危機感を感じていました。
そして世の中に、自発的にリコメンドの声が広まるような仕組みを作りたいと思って開設したのがファンコミュニティです。顧客のリアルな声が届くのでよりニーズに合った商品を開発するヒントにもなるし、我々が気づかなかった商品の魅力や欠点を見つけることがでるので、よりお客様との距離が近づきました」
──経営者の立場になって得た最大の教訓は?
「社員への愛情と攻め続けるパワーの両立が経営者には必要ということですね。社員に愛情を注ぎながらも今いる環境に満足せずに、好奇心や責める気持ちを持ち続けるタフさを持っていないと。
これはこの立場になっていろいろ悩み、いろんな方にお会いしたからこそ得られた教訓だと思います。人と会って自分と違う価値観を教えてもらうこと、これも大切にしてることです」
答えはいつもお客様の声の中にある
──自信をなくしたり逆境に陥ったときに立ち直る方法は?
「お客様の声を聞くこと、これに尽きますね。前の社長もアテニアファンの方から頂いた手紙を大事に持ち歩いている人でした。それを知ったとき、お客様は大事だけど正直そこまでするんだ…と思っていたんですが、社長になった今、お客様の声の大切さが見に染みます。
助けになるものはお客様の声しかないんです。私はしょっちゅうファンコミュニティを覗いてますが、いつも勇気をもらっています。
お客様の声は私たちの成果でもあるんですよね。もちろん、苦言もありますがどんなことであれ伝えてもらえるということがありがたいんです。無視されるようになったら終わりじゃないですか。
自分たちが投げたボールに対して返していただけることが何よりも重要ですし、嘘偽りなく、本音が書かれているので逆境を乗り越えるためのヒントがそこには必ず隠されているんです」
──お客様が社長を支えてくれているですね
「はい、この前ニットで編んだ花束が突然会社に送られてきたことがあったんです。とっても綺麗な花束にはお手紙た添えられていて『コロナで家から出られないのでお花を編みました。たくさん編んだのでアテニアのお姉さんたちに贈りますと』。
82歳の方からでした。しかもそのお手紙に使われていたのは10年前に特別会員のお客様にプレゼントした一筆箋だったんです。本当に感動しました。編んだお花をあげようと思いついてくれたのが我が社の社員だった。
もう、この方にとってアテニアは家族同然ということですよね。ここまで培ってきたアテニアとの歴史があっての今なわけです。これからもこの方の気持ちを裏切ってはいけないと身が引き締まる思いでした」
女性が幸せなら家庭も幸せ
──今後どのような会社にしていきたいですか?
「お客様はもちろんですが、社員が幸せである会社にしたいです。そして社員が常にインフルエンサーであると言い切れる会社ですね。それは自分たちの商品に常に自信を持っているということ。もうなっていると思うんですけど、間違いなく言い切れる会社にしたいですね」
個性的な会社ではあるけれど、まだまだ認知が低いと思っているのでもっとブランドの色を出していきたいと思っています」
──仕事を通じてどんな社会にしていきたいですか?
「女性が幸せな社会にしたいですね。まずは40代前後の毎日のスキンケアにかける時間もない、自分のことは二の次…になっている女性たちがふと『そうだ、アテニア』と想起してくれるブランドにしたいです。
例えば出産を機に肌が荒れてどの化粧品も合わなくなってしまった、でもコスメを探しに行く余裕もない。これほど悲しいことはないと思いませんか?
そんなときアテニアと巡り合って暗い気持ちに晴れ間が差す、そんな瞬間をこれからも数多く提供していきたいです。実際、そのようなお客さまもたくさんいらっしゃいますし、人生を変えるような出会いと価値を提供する自信はあります。
女性が幸せなら家庭も幸せ、そして家庭が幸せなら日本も幸せになりますから(笑)」
──座右の名はありますか?
「西郷隆盛の『敬天愛人(けいてんあいじん・天を敬い、人をいつくしみ愛すること)』ですね。ベースに愛を持ちながら、行動すべきときは断固として行動する。ただし、その行動は自分や利益のためではなく、使命や大義からするべきであるという意味なんですが、まさにその通りだなと。
元々歴史は好きだったんですが、社長になってから誰に学ぼうかと考えた時に歴史の偉人たちだろうと。とくに明治維新、国を変えるなんてそんなバカなことができるかと思われていた時代に、信念に基づいてやり抜いた人たちの行動や考えを追うことは何か参考になるのではないかと勉強したときにこの言葉に出会い、感銘を受けました。
この前、終焉の地と言われている鹿児島の洞窟にも行ってきたんです。彼はこの場で死なずに済んだのに仲間を見捨てず、一緒に命を絶ったことに衝撃を受けつつ、私利私欲のないと言われていた西郷隆盛ならその道を選ぶだろうなと。
きっと西郷隆盛は人を幸せにできて初めて自分が幸せを感じた人だったんだと思います。そして私ももし同じ状況になったら同じ選択をするでしょうね」
──では尊敬する人も西郷隆盛ですか?
「それは、池森賢二ですね(笑)。ロールモデルにするなんて言ったらおこがましいくらい、池森さんはすごくバランスの良い人間味に溢れた人たらしなんです。
80歳を過ぎても素敵オーラが全身の毛穴から出ている人で、社員が全員虜になってしまう。そんなすごい人に出会えて幸せですし、そう思える会社に勤められて本当に幸せです」
──自分の性格の強みと弱みを教えてください。
「強みでもあり弱みなのはけっこういい加減だし、ズボラなところですね。いい加減だから、周りが助けてあげなきゃと自ら動いてくれるのはいいところだと思います。トップは少し抜けているくらいがちょうどいいといういい例です(笑)。
経営という立場での弱点といえば、物事を男性のように3Dで見るのが苦手なことですね。どうしても表面的な話に捉えられがちだなと思っていて、将来のことを考えているようで目先のことしか見えていないのはダメな部分だと思います」
ハマるととことん一直線!
──仕事から家に帰って楽しみにしていることはありますか?
「私は仕事とプライベートを切り離して考えてないんです。仕事がプライベートでプライベートが仕事という感じなので『はー、仕事終わった終わった!』という感覚がないんですよね。
プライベートな時間も、常に何かを吸収していたいので新しい場所に行くのが大好きです。週末は旅行することが多かったのですが、今はライザップにどハマり中(笑)
一度ハマるととことん追求するタイプなので、体について勉強したり、脳と体の関係を自分の体を使って実験してみたり(笑)。1カ月で5㎏も痩せましたよ!」
──いま一番の「幸せ」を感じることは?
「自分の存在意義を感じる瞬間ですね。社員のみんなとやりとりしてるときもそうですし、ファンコミュニテイを覗いてお客様の声を聞いているときもそう。アテニアが日本の役に立ってると感じられるのが幸せです」
──この先の人生をどのように歩みたいですか?
「もっともっと新しい世界が知りたいです。だらかといって転職とかを考えるかというと全然ピンと来ない。それくらい会社との相性がいいんです。池森さんはじめ、一緒に働いている社員のみんな、本当に私は人に恵まれてると思います」
──最後に40代の働く女性にメッセージをお願いします。
「40代女性は仕事もプライベートも1番大変な時期だと思います。でも自分に限界を決めないで欲しい。私は自分自身にも商品にもリミットをかけないのがモットーです。これまでに絶対商品化は無理といわれたものも、製品化してきました。
無理だと決めてしまったらそこが最終地点になってしまう。いつまでもこうありたいと思っていればいつかそうなれる日が来るので諦めないでください。
そして前にも言いましたが、自分の想いは発信して伝えること。こうありたい、こうしたい! どんどん自分の考えを発信して、なりたい自分に近づいて欲しいです」
商品企画時代に周囲から「ナゼナゼ星人」と呼ばれるほど周囲にあれこれ聞いていたという斎藤社長。知らないこともわからないことも全部知りたい、吸収したいという好奇心が人間を大きくしてくれたと話します。数度の業績悪化を経験しながらも華麗なるV字回復を遂げられたのも、すべてのことを楽しみながら乗り越えてきた斎藤社長だからこそ。「楽しむことは誰でも平等にできる。楽しまなきゃもったいない!」という言葉が印象的でした。
前編→「補欠合格」からのスタート!? アテニア社長・斎藤智子さん前編【女性リーダーに聞く】
■アテニア https://www.attenir.co.jp/
撮影/柴田和宣(主婦の友社)取材・文/根本聡子
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