「補欠合格」からのスタート!? アテニア社長・斎藤智子さん前編【女性リーダーに聞く】

2020.09.18 WORK

もっと女性が活躍する社会にするため「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%程度にする」と政府が目標を定めたのが2007年。ですが『国際労働比較2019』によれば、日本の管理職の女性の割合はたった14.9%にとどまっています。

働く女性が自分らしく活躍するには? OTONA SALONEは【女性リーダーに聞く】というシリーズを通じて、女性活躍推進を考えていきます。

今回は、株式会社アテニアの代表取締役社長の斎藤智子さんにインタビューしました。

【プロフィール】1997年ファンケルに入社後、1999年に同グループのアテニアへ移籍。化粧品の企画開発に携わる。2019年3月より代表取締役社長に就任。

 

創業以来、初の女性社長に就任

38歳で商品企画部課長となり、41歳には営業戦略室室長に。その後44歳で取締役営業戦略室室長、同44歳で代表取締役社長に就任したというスピード出世をされた斎藤さん。「出世欲はなかった。ただ目の前で起こっていることを全力で楽しみ、乗り越えてきた」と振り返ります。

「好奇心が自分を成長させてくれた」という斎藤さんのこれまでのキャリアや仕事の流儀などをお伺いしました。

 

──子供の頃、憧れていた職業は?

「それがまったくなくて(笑)。小学生の頃から“どうやってラクしよう?”とばっかり考えている子供でした。中学、高校へ進学するときも親が「白いセーラー服姿がみたい!」というので、それも親孝行かなと思い言われるままに広尾の東京女学館へ。

ただ、小学校時代の放送部の活動が楽しかったのは覚えています。みんなが自分の発言に耳を傾けてくれるのが快感で、放送室に入り浸ってました。そこからアナウンサーもいいなと思い始め、大学は日本大学芸術学部の放送学科を受験し、合格するのですが行きませんでした」

──合格したのになぜ?

「1、2年生のキャンパスが所沢だったんですけど……遠いな、と(笑)。これを機に一人暮らしも考えましたが、親が猛反対。結局、東洋英和に推薦入学することになりました。

せっかく見つけた夢だったのに、と思われそうですが、私はそんな風には全然思っていなくて。昔から巡り合ったものが自分の運命で、与えられるべくして与えられると思ってるんです。

すごろくはどのサイコロの目が出るかわからないから面白いように、人生もそれと一緒。自分が直面した場面を全力で楽しむのが私のモットーですね」

──今の会社を選ばれた理由は?

「私は97年入社組なのですが、時代は就職氷河期真っ只中。いくつもの説明会に足を運びましたが、どれもピンと来るものがなかったんです。そんなとき、仲良しの友達がファンケルの説明会に行くと言うので私もついて行くことに。

そこで出会ったのがファンケルの創業者である池森賢二氏でした。そのとき、池森さんが『就活は人生を左右する大事なことだから、しっかり見極めてください』と言ったんです。ぜひウチに、ではないところに感動してしまい、ここに入りたい! と。

池森さんの奢ってない姿はまさに『人間大好き企業ファンケル』そのもので、その空気感が私の肌に合ったというか、一瞬にして虜になりました」

 

実は「補欠合格」だった

2020年上半期のベストコスメを受賞している、スキンクリア クレンズ オイル アロマタイプ(右)。左は数量限定販売のピースフルオレンジの香り。

──キャリアを積もうと意識したのはいつですか?

「あまり出世欲はありませんでした。ただ、今だから話せるのは入社当時はコンプレックスがありましたね。というのは、実は私は補欠合格だったんです。なので、同期は一足早く入社してる、早く追いつかないとという気持ちはあったかもしれません。

最初の配属は本社ではなく、受注センターでした。いきなり本社から外れたのですが大変だとはまったく思わず、ただ楽しかった。初めて知ることだらけで、何をやってもワクワクしました。「知・好・楽」という言葉をご存知ですか?

『これを知る者は、これを好む者に如かず、これを好む者は、これを楽しむ者に如かず』という論語の教えを一言で表したもので、私の根底にある言葉です」

──楽しんでいる人には敵わない、ということですよね?

「そうです、この言葉を仕事に当てはめると仕事を知っているだけでは仕事が好きな人には敵わないし、さらにその仕事を好きなだけでは仕事を楽しんでいる人には敵わないということ。仕事に限らずですが、物事を楽しんでいる人はそれが態度として表に出ますよね?

私も出世欲こそなかったけれど、周りには見ていてくれた方がいたんだと思います。受注センターから2002年には商品企画部へと移動になり、2010年には中国への出店を任せてもらうことに。3年ほど海外赴任を経験することができました」

──若い頃に感じた、仕事で一番大変だったことは?

「その都度何かしら大変だったと思いますが、振り返ってコレというのはないかもしれません。でもアテニアは業績の乱降下があったのです。例えば2008年のリーマンショック。

アテニアはバブル全盛だった1989年創業当時から「高品質」「低価格」「ハイセンス」をうたっていたのですが、この頃から化粧品の需要が高価格帯と低価格帯へと二極化。中価格帯に位置づけられるアテニアの商品は、どちらにも属さず売り上げが一気に急降下しました。売上が回復する気配はなく、試行錯誤が続きました」

 

会社のピンチに『だったら私にやらせて!』

──管理職になったのは、いつ頃でしょうか?

「一番最初は2007年の商品企画課長です。海外から戻り再び商品企画の課長になりましたが、その頃売上は落ちる一方。このままじゃ会社が潰れてしまうと思った私は『だったら私にやらせて!』と立候補し、2015年に部長職を飛ばして営業戦略室室長に就任、人生初の飛び級です(笑)。それくらい当時は会社が窮地に立たされてました。

でもやっぱり大変という言葉は当てはまらないかもしれないですね。今目の前にあるトラブルをどう乗り越えるか、ただそれだけ。自らやらせてと言ったものの、当時の私は広告やネットにも無知だったからいかに消費者に響くかを考えていました。ファンコミュニティを立ち上げたのもこの頃です」

──現在、管理職における女性の割合は全体の何%くらいでしょうか?

「管理職層のうち女性の割合は約66.7%です。経営層では女性が25%です」

 

──管理職になって悩んだことは?

「今まで先輩だった方が部下になる。上下関係が逆転してしまうことに一番気を使いました。先輩たちはどう思ってるだろう、不快な思いをしてないか…そんなことを考えて胃が痛くなったこともあります」

──その悩みの解決法は?

「大方は結局自分の思い過ごしですし、私にできるのは目の前の仕事を着実にこなしていくことだと。そして仕事で結果を出せばみんなから信頼してもらえるし、みんなが自然とついてきてくれました」

 

権限がある、ないで全然違う

9月にオープンしたアテニア ファンケル 銀座スクエア店 (東京都銀座5-8-16 ファンケル 銀座スクエア2F)では、洋服やパンプス、ジュエリーなどのファッションアイテムも手にとって見られる。

──管理職になってよかったと思うことは?

「自分が成長することですかね。代表取締役に就任する前、他の化粧品会社の元社長に『もしかしたら社長になっちゃうかも。そこまで行きたいと思ってないんだけど…』と話したことがあったのですが、そのとき返されたのが『誰もが見られる景色じゃないから、やれるならやってみた方がいい』と言われたんです。

必ず行った先には新しい景色が広がっていて、同じことをしても役職についているか、権限があるかないかじゃ全然違うと。その時はそんなものなのかな、としか思ってなかったんですが今覚えばその通りなんですよね。

課長になったときも本部長になったときも感じたのは急に自分が置かれている部屋が大きくなった感覚。何もない部屋にポツンと置かれて、さてこの部屋をどう埋めていこうと考えなきゃいけない。その作業は今まで使ってなかった頭を使うことになるので、その分成長するわけです」

──その部屋もいつかは埋まってしまう日が来るんですよね?

「そう、そうなったらまた変える努力をしなくてはいけません。そのための一番の近道が上に上がることかもしれないですね。私は与えられた部屋が広ければ広いほど、その人も成長していく。

与えられた器の大きさに合わせて人間も大きくなると100%思っているので、自分の居場所が窮屈だと思ったらお引っ越しした方がいいと思います。それは会社で上に上がることに限らず転職でもいい。

今の場所が不満で転職するのは違いますよ、自分でもっとこうしたい、もっとこうなれるかもしれないと前向きな気持ちで転職するならそれも大きな成長になるから。そして大きくなれたという自信が次の自分へのステップになって、私も気付いたらここまで来ていました。

でもさすがに社長になったときは不安でちょっと泣きましたよ(笑)」

 

男女のバランスが大事と考える人が少ない

──アテニアでは、管理職層のうち約66.7%が女性と非常に多い会社ですが、日本全体では女性の管理職が少ないのが現状です。それはなぜだと思われますか?

「まずはひとつは日本は男性優位なDNAが根付いているということもあるかもしれないですね。女性は3歩下がってついて来いみたいな。でも逆に言えば、女性には3歩下がってついていくDNAがあるということなんです。

重いものは男性が持つ、電球は男性が変える、何かが起こったら男性が助けてくれると思われている女性は少なくありません。でもそれが悪いというわけではなくて、私はやりたい人がやればいいと思っています。

ですから男女の差を議論する必要はないと思いますが、取締役などの選任に関しては男女両者のバランスを活かそうと思っている人間が少ないのは問題かなと。

というのは、一般的に男性の方が力があって論理思考に長けていて、女性の方が一般的にはか弱くて感情的。そしてその両者がいるから世の中が成り立っているわけです。でも論理的思考の方がわかりやすいので、選ばれるのは男性が多い。

もっと男女の違いを認める心の広さを持って、その両方が必要だとちゃんと頭でわかっている人が選任をすべきだと思いますね。今、うちの会社は女性の私がバーッと思ったことを吐き出して、それを形にしてくれる論理的な男性がいる。そのバランスが最高なんです」

──女性管理職やそれを目指す女性にアドバイスをいただけますか?

「どうしても女性は結婚、出産などを経て家庭と仕事の両立に悩みがちです。でも“子供がいるから…”“どうせ私なんて…”と自分にリミットを決めるのはもったいないと思います。仕事で活躍できるかは能力次第なんですから。

だからこそ、普段から「こういうことがやりたい」「自分はこうなりたい」と声に出すべきです。思っているだけじゃ伝わりません!

やる気のある社員は会社にとっての何よりの財産ですから、やりたいことに全力で取り組んでいる姿を見せることで必ずバックアップしてもらえると思います」

後編は女性経営者としてのお話、そして斎藤さんのパーソナルな部分をお伺いします。

 

44歳で社長、プレッシャーだった アテニア社長 斎藤智子さん後編【女性リーダーに聞く】

 

■アテニア https://www.attenir.co.jp/

撮影/柴田和宣(主婦の友社)取材・文/根本聡子

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