「刺さらない針」どう作る…?新形状マイクロニードルを生んだチームの執念【開発秘話#5】
こんにちは、よくいるタイプのアキバ系オタクことオトナサローネ編集部井一です。
開発や企画、設計やデザインなど「ものを作った側」の人々に、「なんでコレ作ったの?」とオタクが感涙しながらしつこくお聞きするシリーズ、今回はNISSHAのマイクロニードル化粧品、「ショットモード」です。
「マイクロニードル」とは、ヒアルロン酸などの美容成分そのものを、0.1mmレベルの極めて微細な針状に成形したスペシャルケア用のパッチ。NISSHAってニシャ?ニッシャ?と初耳の方も多いと思いますが、これが日本のものづくりのすごさなんですよね。「私たちが知らないだけで、世界を圧倒するテックを持った会社がゴロゴロある」のです。
【開発秘話聞いちゃお!#5 】
NISSHA Pharmaceutical and Cosmetics Business Unit 生産技術部 化粧品開発G グループ長補佐 末冨喜子さん(写真左)
同 Pharmaceutical and Cosmetics Business Unit マーケティング部 三浦夕佳さん(写真右)
(以下文中敬称略)
美容成分をダイレクトに角層に入れ込むマイクロニードル。「微細な針」が無数についたシートです
--まずは、マイクロニードルとは何なのかを教えてください。
三浦(マーケティング)・美容成分を1センチ四方に400本、0.1mmレベルの針に成形した、一体型シート状のパッチ化粧品です。寝る前に気になる部分にオンすれば、針部分が約5時間かけて角層の中に溶け出し、すみずみまで浸透します。
末冨(開発)・私たちは精密加工を得意とする会社なのでいろいろな加工技術を持っています。化粧品会社に「マイクロニードルのように小さな針をシートに並べることもパターンニング技術でできます」と言うと「ええっ、そんなことできるんですね!」と驚かれて、こっちが驚いたりしました。
ラクな部分が一つもなかった開発。「針がシートと一体化している」難しさ
--まずは針の開発から始まったんですね。当初は針が緻密で刺さり過ぎたそうですが、国内の薬機法に則ると化粧品は角層を越えてはなりません。
三浦(マーケティング)・そうなんですよ。もともとは医薬品として研究開発をしていたこともあり、むしろ深くまで折れずに刺さる針を作る技術があったんです。
末冨(開発)・なので、化粧品に転用することで、奥まで美容成分が入るなら、その方がいいに決まってる……と素直に思っていました。
三浦(マーケティング)・ところが、越えてはならなかった! 一転して、化粧品用途のために角層を越えない針を生み出さねばならない! となったんです。安心安全な針の形状を追い求めて、角層の中にとどまる「円錐台形の針」を作りました。
末冨(開発)・マイクロニードルはパッチと針が一体なので、原料だけ、金型だけという開発の分離ができないんです。針の形状もあらゆるパターンでシミュレーションを行い、これならいけそう!と思えるパターンができたら金型を作ってシートの準備をします。そして、実際にヒアルロン酸など美容原料を流し込み、無事に針ができるか試し……。
原料メーカー困惑?「そんなに過酷な条件」で化粧品を作るんですか…?
--極論を言えば、化粧水などは水と油を混ぜれば完成します。ですが、マイクロニードルは乾燥させてみないとわからないのですね。
三浦(マーケティング)・本当に思い通りにはいかないんです。この原料を入れてみたら絶対いいに違いないと思っていたのに、うまく膜状にならない。次の配合では膜はできたけど水みたい。ならばと油の成分を入れたらベタベタする。割れた、固まっちゃった、結晶ができた……なんてことが毎日でした。
--普通、そんなに失敗するものなんですか?
三浦(マーケティング)・マイクロニードルって水と油を混ぜたあとに、せっかく混ざった溶液からわざわざ水分を飛ばして乾燥させます。そんな過酷な環境で作る化粧品は他にありません。なので、失敗原因を原料メーカーに相談しても「さすがにそれは前例がなくて……」と困惑されるんです。むしろ、グミや飴など他分野の技術が参考になりました。
末冨(開発)・当時の開発担当者のこだわりも強く、目元用のパッチは「私はもっと目に近いところのシワを何とかしたいんだ」と、フチの部分をギリギリまで狭くしました。幅が狭すぎると針が浮いてしまいます。ギリギリを攻めた大きさに落ち着くまでが大変だったようです。
一難去ってまた一難、あまりに高すぎる社内の開発ハードル
--こうして、ようやく商品が形になるのですね。そもそも、NISSHAとはどんな会社なのでしょう?
三浦(マーケティング)・1929年、創業者が「活字印刷ならだれでもできる。他社の手がけない高級印刷をやろう」と図録や美術全集などの高精細な印刷を手がける会社を創業したのが始まりです。創業以来培ってきた印刷技術にコーティング、成形、金属加工などの技術要素を融合させながらさまざまな製品を世の中に生み出してきました。
末冨(開発)・コア技術を生かしながら、医療機器や医薬品・化粧品分野に積極的に取り組んでいますが、マイクロニードルを開発していた当初は現在とは状況が違いました。せっかく開発にこぎつけたマイクロニードルも社内でユーザーテストをするのが大変でした。何しろ会社初の化粧品で、前例がないのです。
三浦(マーケティング)・とにかく不審がられるんですよ。マイクロニードルって何? 針? そんなものが肌に刺さって大丈夫なの? 社内とはいえ、何かあったら君はどう責任を取るんだ? と。
末冨(開発)・でもね、その不安もわかるんです。当初、私は他社の海外製品を試しましたが、針が痛いんですよ。評価するのが仕事だから頑張って貼るけれど、これがプライベートなら好んで貼りたくないな……と。
三浦(マーケティング)・平らな表面に液体をスポットで落とし、引き上げて表面張力で棘のような針を作る製法もあり、尖端を細くとがらせることができます。NISSHAはまったく違う、緻密な型に流し込む製法。だからこそ、型を作れば、針形状を自由にコントロールすることができました。安心して繰り返し使ってもらえる製品にせねばという思いがとても強く、商品ができあがったときは、やっとこの使用感に巡り合った!!という思いでした。
手の届かなかった美容施術レベルの充実感を自宅で手軽に楽しめる贅沢
--ショットモードはパッケージも黄色、ピンク、青の3タイプがありますが、何が違うのでしょうか?
末冨(開発)・それぞれパッチの形状と成分が違います。黄色いパッケージのGF3は細長く、目元、口元にフィットしやすい形です。角層の保水環境を高めるヒアルロン酸*1・プロテオグリカン*1や高分子ペプチドを配合しました。ピンクのBT-Xは眉間や小鼻に使いやすい形。3種類の高分子ペプチド*2 や、肌を引き締めるアルジルリン®*3を配合しました。青いC6は乾燥によるくすみが気になる部分を狙ってどこでもピンポイントに貼れます。贅沢に配合したビタミンC*4をはじめとする、高濃度*5の美容成分が角層に浸透します。
*1 保湿成分 *2ヒトオリゴペプチド-1、ヒトオリゴペプチド-13、ヒトオリゴペプチド-5 (すべて保湿成分) *3 アセチルヘキサペプチド-8 (保湿成分) *4 リン酸アスコルビルMg (製品の抗酸化剤) *5 NISSHAにおいて
--この夏には新しく、ショットモードの化粧液も発売されました。
末冨(開発)・こんなにマイクロニードルの話をしてきて、エッ化粧液?と肩透かしだと思いますが(笑)。もっとたくさんの人にショットモードを知ってもらいたいと思い、次の一手は化粧液にしました。
三浦(マーケティング)・もちろん、化粧液も開発段階から様々な壁にぶち当たりました。化粧液として心地よいテクスチャーであることは大前提で、マイクロニードルの密着感を向上させることとの両立は難しく、マイクロニードルを基盤とする先進的なスキンケア体験を提供したいと考えるショットモードが越えなくてはならない壁でした。どのような剤形が適切なのか突き詰めるあまり、制汗剤を顔に塗ることも(笑)。
末冨(開発)・開発し終えてみると、製品を評価するショットモード独自の基準作りにいちばん時間がかかりました。それでも、日頃から積み重ねてきた、ものづくりに真摯に向き合う姿勢・文化があったからこそ、完成までたどりつけたと思います。
三浦(マーケティング)・これまで手が届かないと思っていた美容施術を受けたかのような充実感を、ご自宅のスキンケアでお届けします。ぜひ、贅沢なことを手軽に楽しめる日々っていいな、と実感を持っていただけたら嬉しいです。
詳しくは>>>こちらから
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