言いにくいことを伝える時に押す3つのスイッチ
上司に無理な仕事を頼まれた時に上手に断れない、同僚の発言に間違いがあった時に指摘できない、部下の仕事が遅れている時にきちんと催促できない。このような悩みは誰もが持っています。そんなあなた、考え方のスイッチを3つ押すだけで世界が変わるかもしれません。
断れずに引き受けた時にあなたが得るものは何?
できることなら、上司の無理な仕事は堂々と断りたいですし、同僚の誤りは訂正したいですし、後輩の仕事の遅れも催促したいですよね。でも、心の中で何かがブレーキをかけ、「ま、いいか」「自分さえ我慢すればいいか」と、適当に折り合いをつけていませんか? そしてその適当に折り合いを付けることが、大人としての振る舞いだと勘違いしていませんか?
例えばもし、上司に無理な仕事を頼まれた時に、あなたが我慢して引き受けたとします。その結果、他の仕事が遅れたり、友達との約束を断ったり、残業を増やしたりして対応しますよね? では、失ったものに対して、またはあなたが受けたストレス以上に、何か良い事件はあったでしょうか?
例えば、上司は、あなたのことを「頼もしい部下」としてきちんと認識してくれたでしょうか。おそらく、このパターンを何回か繰り返すと、あなたの認識はせいぜい「多少無理そうでも頼めばやってくれる便利な部下」ぐらいでしょう。そしてあなたは本当の信頼関係とはそういうものではないということも分かっているはずです。では、なぜ、私たちは断れないのでしょうか。
邪魔者は日本人に多い「対人不安」
「対人不安」とは、人と話す時に、嫌われるのではないか、叱られるのではないか、拒否されるのではないかという心配などを指し、思春期に顕著な誰にでもある症状です。それが強く出ると対人恐怖症のようなものになりますが、多かれ少なかれ誰にでもある感情です。
例えば上司に無理な仕事を頼まれた時、それを断ったら、もう仕事は頼まれなくなるのではないか、嫌われるのではないか、結果、昇進に関わるのではないかと思う気持ちです。また、同僚の発言に間違いがあった時にそれを指摘すると、その同僚と今後うまく仕事ができなくならないか、陰で何か言われるのではないか、結果仲間はずれになるのではないか、偉そうに……と思われるのではないかと考えます。部下の仕事が遅れている時に催促すると、先輩として信頼されなくなるのではないか、チームを組んだ時にやりにくくなるのではないかなどと想像します。
ではそもそも、その考えは、本当に現実になるのでしょうか。これについては、実は本当に実践してみないとどうにも回答が出ないものですよね。あくまでも想像の域を出ないもので、言ってみれば妄想上のことでしかないわけです。
でもそれこそ想像してみてください。仕事を断ったら部下を嫌う上司、誤りを指摘したらいじめられてしまう同僚、遅れを催促したら信頼されない部下。もし、彼らがそういう人間だとしたら、変えた方がいいのは、あなたの気持ちではなく職場かもしれませんよね。まあ、それくらいブラックな場合ではない人がほとんどだと思いますが、もしそうなら、何をどうしたらいいのでしょうか。
どうしたら、それが消えるの?
さきほど「その考えは、本当に現実になるのでしょうか。これについては、実は本当に実践してみないとどうにも回答が出ないものですよね。」と書きました。そう、上司や同僚や部下がどう反応するか、本当に把握する為には、実は実際に行動してみるしかないのです。そして、無事成功して、良いコミュニケーションの経験を積むしかないのです。
良い結果、つまり小さくても良いので「成功」が重なると、少しずつ自信がついていきます。その小さな自信がまた次の行動を起こす時に、「この前も大丈夫だった。今度も大丈夫だよ」と背中をそっと押してくれます。では、どのように小さい成功体験に導けばいいのでしょう? そこで行動療法で利用されているとても良い方法を紹介します。
アサーティブネスな考え方と実行ボタン
アサーティブネスという考えがあります。対人関係において、「素直」「対等」「誠実」を重要視し、それに基づいて主張していこうというものです。この分類は厳密なものではなく、行動療法によっても区分けが若干ことなりますが、だいたい同じものです。
「素直」……無理なものは無理と言おう
「対等」……相手と対等の立場に立とう。自分も相手も尊重しよう。
「誠実」……盛らなくていいし、自分を落とさなくてもいい。問題や相手にきちんと向き合おう
例えば上司に無理な仕事を頼まれた時、「無理」という事実を伝えるということです。どのくらい無理なのか、どうすれば無理ではなくなるのかを「素直」に言えばいいのです。ただし、言い方はあります。その言い方は上からでも下からでもいけません。それが「対等」ということです。上から「明日まで?そりゃ無理です!」と言い切ってもいけないし、下からびくびくして「すみません……あの……それはちょっと……できない感じで……」としてもいけないということですね。言葉ではなく態度でもそれは現れます。高圧的になったりへりくだったりする必要はないということです。また、相手の顔を見てきちんと物事を伝えることも大切ですね。それが「誠実」です。
以前、相手の目を見て謝れるような男が生き残ると、ホストの方のインタビューを聞いたことがありますが、ホストに限らず、これは人間として基本的な行動のように思います。例えば、目を見ずに「大変申し訳ございませんでした。」と謝ってくる人と、きちんとこちらの目をみて「ごめんなさい」と謝る人、どちらが誠実だと感じますか? これは後者ですよね。
素直に、「申し訳ございません。その仕事はできません」と伝え、理由があれば高圧的になったりへりくだったりせず、普通に話す。そして、相手の依頼も尊重し、どこまでなら可能かを素直に示す。例えば「今抱えている仕事があり、それが明日午前中の締め切りです。午後ならできますが、それからでも間に合うことでしたら、ぜひ、お手伝いさせてください」などとつなげる。そしてそれら全てを「誠実」な態度で提案するということです。
アサーティブネスは悪いことの回避だけではない
そして、この「素直」「対等」「誠実」は、人を褒める場合、つまり良いことにも使えます。上司への協力、同僚や部下への賞賛も、「素直」「対等」「誠実」に伝えるのです。
そうして少しずつ出来上がった信頼関係があれば、仕事はもっと頼みやすく、そして無理なことは断りやすくなります。言いにくいことを伝えるコツはこの3つの「実行スイッチ」を押すことのように思えます。
参考文献
東京学芸大学教育心理学講座松尾研究室文献
対人不安に対する研究動向
http://www.u-gakugei.ac.jp/~nmatsuo/miki-kadai.htm
日本パーソナリティ心理学会2006ショートレポート
アサーティブ行動阻害の要因について 対人恐怖心性からの検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/personality/15/1/15_1_55/_pdf
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