年下男子にズバリ言われた言葉に【あなたのはじめては、わたしのひさしぶり vol.4】

長い間ひとりで過ごしていた私の部署に、年下の男性が配属されてきた。歓迎会に誘っても「そういうの迷惑なんですよね」と言い放つ、協調性のない若い男の子。でも…

(この小説の一気読みはこちら)

 

ふたりきりのやりとり

 

翌朝、駅のホームに立った時、私の目は、高坂くんを探していた。

同じ駅に住んでいるのだから、これからも時々、彼に遭遇するかもしれない。今日も、会えたらいいな。

そう考えている自分に、驚いてしまう。

 

昨日の晩、私は高坂くんと、お互いの実家の犬の画像を交換した。

どちらもプードルだったから、できたことかもしれない。

ピンク色の、フリル付きの洋服を着ているので、彼のところの犬もどうやらメスなのだろう。

「お洋服かわいいね。どこで買ったの?」

「あー、わかんないです。親に聞いておきますね」

高坂くんは、犬のことだったら色々話してくれた。

私たちは犬のことばかり、何往復か、メッセージを交わした。

 

なんだかくすぐったかった。

男の人とプライベートでLINEだなんて、ひさしぶりだった。

業務連絡をすることは、何度もあるけれど。

こんな風に、ペットの画像を交換するのは、すごく楽しい。

返事が来ただけで、笑顔になってしまう。

 

高坂くんは、どうなんだろう、楽しいんだろうか。

ふっと心配になったその瞬間から、彼からのレスポンスは止まった。

面倒になったのかもしれない。

もう画像も送ったからいいと思ったのかもしれない。

 

 

 

 

よけいなこと

 

翌朝、デスクについた私のところに、高坂くんが近づいてきて、

「昨日のあれ、わかりましたよ。相生坂のホームセンターで売ってたそうです」

「あ、ありがとう……!」

彼は、プードルの服をどこで手に入れたのか、家族に聞いてくれたのだ。

私の話を覚えていてくれたらしい。

 

「何? ホームセンターって」

沙奈が首を突っ込んでくる。

「高坂くんの実家の犬がかわいい服を着てたから、どこで買ったのか聞いたの」

「犬!?」

彼女は目を丸くした。

「なんで犬の話なんて」

今だ、と感じた。

 

「ねえ、昨日もらった画像、見せてもいい?」

「別に、いいですけど」

高坂くんは

私は沙奈の前に、ピンクのフリルを着込んだプードルの画像を見せた。

 

「可愛い! これ人形じゃないの? 生きた犬なの?」

沙奈の歓声を聞きつけ、人が集まってくる。

「なに、誰の犬」

「高坂くんの実家の犬なんだって」

「へえ! 名前、なんていうの?」

「メスだよね?」

 

高坂くんはドギマギしながら、

「メスです。名前はマリー……」

彼は、自信なさそうに、ちらっと私を見た。

私はニコッと笑った。

 

彼が、社員数人に囲まれ、一所懸命犬のことを、説明している。

初めて見る光景だった。

 

 

かんけいないこと

 

 

始業後、別のフロアに行く用事で廊下に出た私を、高坂くんが追いかけてきた。

 

「さっき、楽しそうだったね」

「余計なことしてくれましたよね」

 

余計なことだなんて……。

彼がそんなことを考えていたんだろうか。

せっかく、フロアの人たちと親しくなれそうだったのに。

 

「楽しそうだったけれど」

「僕は、あんまり自分以外の人に関心がないんです」

「どうして? みんなの話、面白いわよ」

「僕のことなんて、放っておいてくれませんか」

 

彼は困っているのかもしれない。

 

「……ごめんなさい。犬があんまり可愛かったから……」

「いや、いいんです」

高坂くんは、少し口ごもった後で、

「でも、会社で注目されるなんて初めてで。いつも目立たないようにしてたんで、こういうの、苦手なんです」

「ほんとに、ごめんね」

 

その時、彼が笑った。

しかたなさそうな、でも、確かに少しだけ楽しそうに。

 

「でもまあ、犬だけは、別です。みんなに可愛いって言ってもらえたのは、うれしかった」

彼は照れくさそうにこう続けた。

「ありがとうございました」

それを聞いた瞬間、私の心のどこかが、きゅっと絞られるような感じがした。この感じ。ひさしぶりのこと感じ……。

なんだろうこの感じ……。

 

 

(これまでの話はこちら)

 

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