
何年ぶりかに男性と手をつないだ私は…【小説・あなわた#10】
【小説・あなたのはじめては、わたしのひさしぶり vol.10】
長い間ひとりで過ごしていた私の部署に、年下の男性が配属されてきた。歓迎会に誘っても「そういうの迷惑なんですよね」と言い放つ、協調性のない若い男の子。ところが、あるとき共通の趣味「犬好き」に気づき、2人の関係に少しずつ変化が。
生まれかけの絆
翌朝、出勤すると、高坂くんのデスクの周りに人だかりができている。
何かと思って覗き込んだら、彼のデスクにフォトフレームが置かれている。
それは屏風型になっていて、数枚の写真を連ねることができるものだった。
会社の皆が、その写真を眺めて、何か話している。
見てみて驚いた。
昨日一緒に行った、里親を探している犬たちの顔写真が入っている。
確かに昨日、彼は、かわいいかわいいと言って何枚も犬の画像を撮っていたし、お店の人も、里親が見つかるかもしれないので、ぜひ色々な人に画像を見せて、宣伝をお願いしますと言っていた。
高坂くんが、こんなに素早く行動を起こすだなんて。
信じられない思いだった。
いつも、面倒くさがって、みんなの会話にもなかなか加わろうとはしない人なのに。
今日は、自分が中心になって、犬の話をしている。
なんだか胸が、熱くなった。
私と出かけたことが、彼が変わるきっかけになっている。
素直に嬉しかった。
だから、あえて私は口を挟まず、少し離れたところで彼を見守っていた。
一緒の帰り道
それなのに高坂くんのほうから話しかけてくる。
「ね、昨日は10匹くらいいましたよね?」
みんなの視線が一気に私に集まる。
「え? 昨日高坂くんと出かけたの?」
秘密にしていたのに、あっという間にみんなに知られ、顔が熱くなる。
高坂くんは、みんなに話して平気なの?
「えっ、付き合ってるの?」
誰かが突っ込んでくる。
「犬好き仲間みたいな感じかな」
そう答えるしかなかった。
「そうですね、お互いに、実家でプードル飼ってるんで」
高坂くんも頷く。
そう、恋人なわけじゃない。
それなのに、私は今日は、高坂くんと一緒に退社した。
会社のみんながビックリしたような目で私たちを見る。
いつの間にそんなに親しくなったんだというような信じられないといいたげな顔。
でも高坂くんはそんなことを一切気にしていないらしく、
「急ぎましょう。お店が閉まる前に」
と私をうながした。
私たちはホームセンターにペット用品を買いにいくために向かった。
高坂くんは、犬のことになると、人が違ったように積極的で、それが可愛くて、だから私は彼と一緒に買い出しに向かったのかもしれない。
差し出された手
ホームセンターで買ったのは、犬用のミルク、犬用のおやつ、それから犬用のエサ、それに犬が遊ぶためのボールや人形だった。
昨日、お店の人が「これだけ犬がいると、すぐエサがなくなってしまって」と困っていた。高坂くんが「エサを寄付してもいいんですか」と聞くと、もちろんですよ、大歓迎です、と微笑まれた。
新しい家族が現れるのをじっと待っている犬たちのことを思うと、高坂くんはいてもたってもいられないらしく、より毛にツヤが出そうな食べ物を選んでいる。
「優しいのね」
そう言うと、
「だって、何かしたくなりませんか? 黙ってなんていられませんよ」
と彼は言った。
買ったものを、ドッグカフェに宛てて送ると、一気に腕が軽くなった。
さっきまで、カゴにいっぱいに入れた品を持っていた。
高坂君一人では、とても持ちきれなかったから。
だからうまくバランスが取れず、よろけてしまう。
「大丈夫ですか?」
さっ、と彼の手が差し伸べられた。
「すみません、荷物、持たせちゃって」
私は彼の手のひらを、ギュッと、握った。
そして私はひさしぶりに男の人と手をつないだ。
ほんのすこしだけ私よりも体温が低い、触れていて心地良い。
それが、高坂くんの手のひらだった。
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