「既存の男社会の仕組みへの対処法」お誘いを断るときに大切なことは

2022.12.20 WORK

フリー編集者の依田邦代さんは1981年入社。86年男女雇用機会均等法で「総合職」という概念が誕生するさまを含め、「働く女性」の現場を見つめてきた大先輩です。

よかれ悪しかれ、物理的入り口の部分でも「性差」を無意識に受容している社会に生きる私たちが理不尽さに立ち向かう術とは何なのか? いま感じていることを聞きました。

前編『「男尊」ヘル日本で「働く女性がぶつかる理不尽」を越えていくには?「案外できる」転換って』に続く後編です。

 

「既存の男社会の仕組みへの対処法」お誘いを断るときに大切なことは

日本では伝統ある会社ほど男仕様にできていて、現在もそれは変わらない。深夜までの飲み会や休日のゴルフ…。男社会の当たり前は、ときに女性にはつらい。

 

下河辺さんはかつて上司からのゴルフの誘いを「あ、私、ゴルフやらないんですよ」とにべもなく断っていた。子どもは小学校に入学したばかり。心の中で「何言ってんのこの人。ワーキングマザーがゴルフなんてできるわけないじゃん。そういうオヤジ文化が日本の出生率を下げてるんだよ」と思い切り悪態をつきながら。

 

しかし今、彼女は言う。誘いを断るときは「行きたかったのにチャンスを逃して悔しい」という意味の「残念です!」を使ってほしいと。「誘って悪かったかな」と思わせる「すみません」より、「また声をかけてみよう」と思わせる「残念です」の方が与える印象はポジティブだから。

 

そう、「できる女」下河辺さやこは、男仕様の会社や社会に不満やグチをこぼしたり、悪態をついても何の進歩もないことを体験から学んだ。組織に所属する以上、人間関係を良好に保つことは、自分が仕事を円滑に進めるためにも必要なこと。女性が活躍するために、どうふるまえばいいのか具体的アドバイスが役に立つ。

 

脈々と培われた男社会のルールを「無駄が多い」「社内政治なんてばかばかしい」と切り捨てることは簡単だし、休日を勉強や資格を取る時間に充てた方が有意義だし、家族との時間も大切。だけど、心配りは節約しないでほしい、と言う。「あなたは大切な人」だということを伝えることが大事なのだと。

 

会社とは市場で戦うための組織。チームの結束は必須だから、「私はあなたの味方です」と意思表明する人にしかチャンスは与えられない。それを確認し合う場が、男社会の夜のクラブ活動やゴルフ。だとしたら、それができない人はどうする?

 

夜のクラブに行けなくても、休日のゴルフに行けなくても、他の方法で「あなたは大切な人」だと伝えられればいいのだと説く。一例は「年中行事のお布施」。

 

誕生日やバレンタインデーにちょっとしたスイーツなど、負担にならないギフトにメッセージを書いた付箋を添えてデスクに置いておく。そんな女っぽい技はいやらしい!と思うかもしれないが、自分がされる立場になると嬉しいものだとわかったそう。

 

上司は「自分のアドバイスは役に立ったのか」「あの案件はうまくいっているのか」などと実は心配しているもの。「お誕生日おめでとうございます。先日は相談にのっていただきありがとうございました。頑張ります!」とメッセージをもらえば、自分も頑張ろう!と力をもらうものだと。

 

若かりし頃、「わざとらしい」この手のことが大の苦手だったが、「言葉にしないと感謝は伝わらないし、照れもプライドも1円にもならないので、さっさと捨ててしまいましょう」と今、下河辺さんは断言する。さらに、このワザは妻や恋人に愛を伝えない男性陣にもぜひ使ってほしいと力説。まったくもってその通りだ。

 

「アンコンシャスバイアス」無意識の偏見へはどう対処すればいい?

女性の活躍を阻むのは、既存の男社会の仕組みだけではない。無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)というやっかいな敵がいる。会社では、先輩たちの言動から「女性は男性のフォローをするもの」という行動規範を植え付けられていく。それを破ると「空気の読めない人」と批判の対象にも。学生時代は男女平等が当たり前と信じていた女性も、会社に入ると「そういうものか」とだんだん毒されていく。

 

下河辺さん自身、「リーダーは男性の役割、女性はサポートに徹しよう」とする自分に気づいたという。今では「自分が資料を準備した会議は自分が仕切って責任の所在を示す。そして、堂々と真ん中の席に座り、紹介されなくても自分から挨拶する」。意識してバイアスと闘っているのだという。

 

アンコンシャスバイアスによる差別的発言が多い会社のおじさんへの対処法はこうだ。「あれ、もうすぐ50歳だよね(ニヤニヤ)」と言われたら、「そうなんです。○○さんが女性を差別したり、年齢で人を判断したりする人じゃなくてよかった!」と先んじて口を封じる「お札貼りの術」。初めは怒りで震えて棒読みだったが、最近では大女優の域だとか。

 

これもパワハラ、セクハラおやじだけでなく、苦手な姑などにも使える応用範囲の広いワザだ。

 

実体験から生まれた下河辺流処世術はほかにもいろいろ。若い頃に知っていれば、私もいちいち目くじら立てて、周りとぶつからずに済んだのに、と後悔しきりだ。北風みたいにやたらビュービューと吹くのは逆効果。賢い妹は太陽のように相手の心を溶かしていく術を身につけた。じんわりとしたたかに。はるかに大人なのである。

 

発売後、「生きづらさ、働きづらさの原因が霧が晴れるようにクリアになった」「リアルな働く先輩女性のエールに明日からも頑張ろうと思えた」「そうそう!と共感満載。そうなんだ!と気づくこともいっぱい」など、読者から感謝のメッセージが続々と届いている。

 

男だから、女だから、が行動を規定する理由になるのは、考えてみればおかしい。男でも女でもなく「私」がどうしたいか、どうありたいかが尊重される社会になればいいと思う。

 

巻末には「さや語録」が収録されている。下河辺さやこの至言が「あ」から始まり「を」まで続く。最後の「を」はこうだ。

 

「をとこのフリも をんなのフリもしなくていい ♯あなたのままで生きていけ♯男尊社会」。

 

妹たちの背中を押す言葉はどーんと力強く心に響く。

 

髪を振り乱し、心をなくしていた、あの頃の私にも読ませたかった、と思う。

 

 

男尊社会を生きていく昇進不安な女子たちへ』下河辺さやこ・著 1,760円(10%税込)/主婦の友社

 

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(取材・文/フリー編集者 依田邦代)

 

 

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