その男、誰?年下の彼に昔の男の名前を聞かれ【小説・あなたのはじめては、わたしのひさしぶり13】

 

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おひとりさま40代の私の部署に、年下の男性が配属されてきた。 歓迎会に誘っても「そういうの迷惑なんですよね」と言い放つ、協調性のない若い男の子、高坂くん。 ところが、ひょんなことからお互い「犬が好き」なことに気づく。 女性と2人で出かけたことすらなかったピュアな高坂くんと、私の関係は、少しずつ変化し……。

 

簡単なことじゃない

 

 

「僕たち、付き合ってみますか?」だなんて……。

あまりにも唐突すぎる提案に、何も言えなくなってしまった。

 

「ダメですか?」

高坂くんがさらに突っ込んでくる。

「ダメとかいうわけじゃなくて……」

気持ちを落ち着かせて、必死に言葉を探す。

 

「恋愛って、お互いに恋愛感情を持っているものだと思うの。

高坂くんの私への気持ちも、まだ恋愛感情って感じじゃないんじゃないかな」

「恋愛感情って、どんなのですか」

 

彼は怖いくらい何も知らない。

ここで私が嘘をついても、信じてしまうのかもしれない。

でも私は私なりに、正直に彼に言う。

「恋愛感情って、そのひとのことを特別に大切に思うことじゃないかな。

離れていても、元気にしてるかな、夜ごはんは何を食べたかななんて気にしたり。

離れていても、すぐにまた会いたくなったりすると思う」

 

恋をしていた頃の自分の記憶を辿りながら、彼に伝える。

本当はうれしくないわけじゃない。

ひとまわりも下の男の人にそんなことを言われて。

でも、勢いだけで付き合うほどもう若くもないから。

 

恋愛感情ってなに?

 

「わかりました」

高坂くんはわかったようなわからないような顔でそう言った。

 

「とりあえず、今はその時じゃないってことですね?」

「そう、そんな感じ」

私は急いでうなずいた。

 

「どうせ付き合うのなら、お互いに恋愛感情を持ってからお付き合いしたほうがいいと思うの」

「そうですね」

彼はうなずいた。

 

恋をしたら、その人のことを考えて眠れなくなったり、その人のことが気になってソワソワする時がある。

次に会ったらどんな格好をしようと、鏡に向かって髪や服装を考えることがある。

 

高坂くんは、恋をしたことがないと言う。

だから多分、こういう甘酸っぱい感情を味わったこともない。

でもこれも恋の醍醐味。

できれば知ってもらいたい。

 

それに私も、また、恋をするときめきを知ってみたい。

二人が付き合うとしても、恋を自覚して、お互いに気持ちが盛り上がってからで遅くない。

そう、きっと。

 

 

その人はだれ?

 

 

会社に着くと、すぐに、沙羅が声をかけてきた。

「今日は一緒にご出勤?」

意味ありげに笑って尋ねてくる。

 

「同じ駅だから、駅で会っただけだよ」

私はそう答えながら、高坂くんも疲れるだろうし、あんまり会社では近くにいすぎないほうがいいのかもしれない、と、考えていた。

私たちが目立つようなことをするから、からかわれてしまうのだから。

 

「駅が同じなのっていいね。会いたい時にすぐ会えるし、夜中でも」

「そうだね。待ち合わせには便利かな。ドッグカフェに行く時とかに、ね?」

高坂くんは、固い表情のまま、黙っている。

 

「柳沢くんの時は遠かったもんね。電車で1時間くらいだっけ?」

沙羅がぽろっと漏らした名前に、私は慌てた。

「ちょっ……その名前はっ」

「えっ? あ、ごめん」

 

すぐに気づいて沙羅は口元を押さえた。

高坂くんが聞いていなければいいなと思ったのに、やっぱり、聞いていた。

「柳沢くんって、誰ですか?」

と言われて、私と沙羅は顔を見合わせた。

 

 

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