ニュージーランドでの「更年期じたく」は何をする?たとえば、ヨガに通ったりするんでしょうか?
日本では「思春期」「老年期」などと同様の世代呼称として、閉経の前後5年を「更年期」と呼びます。日本人女性の閉経平均年齢は50.4歳とされるため、45~55歳の10年間が更年期に相当する人が多数。
でも、海外では「更年期」ってどうなっているのでしょうか?
ニュージーランドを訪問する機会を得た編集部が、現地で「更年期と女性」の問題に取り組みベストセラーヒットを放った気鋭のジャーナリストにニュージーランド人にとっての更年期事情を取材しました。(聞き手/オトナサローネ編集部 井一美穂)
ニュージーランド女性はどんな「更年期準備」をしていますか?日本だと、ヨガとサプリかな
そんな激変期のニュージーランド女性たちは、どのような症状に悩むのでしょう。西洋の女性は強いホットフラッシュに悩むと聞きますが、どのくらいの頻度で苦しむの? のぼせ、ほてりは? また、抑うつ、不眠、イライラ、疲れやすさなどは?
「メノポーズの症状は42項目あると考えています。代表的なものが、ホットフラッシュ、夜間の汗(ナイトスウェット)。また、不眠、気分の落ち込み(ロームード)、不眠症、心配や不安も。さらにこの時期はボディチェンジが起き、太ります。人それぞれで、中には怒りを感じる女性もいます。不安がいっぱいになって、抑うつになり、怒りに変わる。気分のアップダウンですね。
ホットフラッシュは、人によっては1日何回も強く見舞われる場合もあり、大問題です。心臓がどきどきして、ホットフラッシュと同時に不安障害の状態になってしまう人もいます」
東洋人の場合は強いホットフラッシュが日に何度もというケースは多数派ではないため、やはりここには人種差があります。では、これらの症状の対策はどうするのでしょう? アメリカではホットフラッシュの対策としてホルモン補充療法(HRT)を受けやすいよう子宮の全摘出を行う人がいると言われます。
「まず、HRTが乳がんと密接に関係するという説は否定されています。子宮体がんも黄体ホルモン服用で防げます。子宮全摘出は究極の選択なので、ニュージーランドでその選択をする人は少ないと思います。
私自身、まずペリメノポーズに入って最初にホットフラッシュが始まりました。熱波が身体の下のほうから押し寄せてくる感じでした。続いて関節痛が起き、そして1年前にブレインフォグが起きました。もの忘れですね。これはとてもフラストレーションが溜まります。
しかし、いまから半年前にHRTを始めたところブレインフォグとホットフラッシュが止まりました。HRTによってブレインフォグが止まったのが本当によかった。関節痛もHRTのおかげで前よりはよくなっているので、気長に治療します」
HRTはよい療法だが、魔法ではない。自分で自分をケアする方法を探す必要がある
主な治療法はやはりHRTなのでしょうか。日本ではHRTのほか漢方もメジャーです。何か、こうした植物由来のエキス治療みたいなものがあったりするのでしょうか。
「HRTは大変よい治療法で、私だけでなく、私の周囲はみんな受けています。医師をはじめ医療関係者の間でも、メノポーズ期のトラブル治療に関しての知識がここ数年でアップしています。ただし、HRTも魔法ではないので、他にも自分の症状を緩和する行動を自分自信の考えで取り入れる必要があります。
まずはライフスタイルを変えること。運動する、ダイエット、食生活を変える、ちゃんと睡眠をとる。また、幸せ感をアップするために笑ったり、セラピーとして体験を友達とシェアすることも大事です。
強いホットフラッシュが1日何回もくる人は、重ね着をして脱げるように工夫していたり、汗が出たら涼しいところに移動したりと自分なりに対応しています。
また、フレッシュな食べ物、ホールフード、加工されていないものを食べるのも重要です。食物繊維をとり、腸の環境をよくすることも重視されています。最近の注目は『ガットヘルス』(腸活)で、私の書籍でもガットヘルスに1章を割きました。エストロゲン分泌と腸の健康には関係があります」
ニュージーランドは実はオーガニック大国でもあり、農業大国です。日本では更年期対策として大豆を大変よく食べるのですが、ホールフード、ローフードというと、たとえばキウイのような特産品を取り入れるのでしょうか?
「もちろん。私はキウイの中でも赤い果肉の『ルビーレッド』が大好きです。ニュージーランドはフルーツ王国。りんごの産地でもあり、キウイ、りんご、バナナなどをよく食べます」
『ルビーレッド』は赤い果肉に抗酸化成分であるアントシアニンを含むため、エイジングが気になる世代にもってこい。また、キウイは主要な栄養素17種類の含有度を示す「栄養素充足率」で全フルーツ中1位(次点がいちご・バナナ・柿など)で、これらのフルーツの摂取が日常的な健康維持に寄与する度合いは高そうです。
「そのほか、カラフルな色とりどりの野菜。ホールグレインのオーツ麦やブラウンライスも増やします。レンズ豆やヒヨコ豆など豆類、ナッツやシーズ類。メノポーズ時期には筋肉が衰えるため、魚、鶏肉、豆腐などハイクオリティなたんぱく質を食べることも大切です」
私の中には、オーストラリアやニュージーランドでは果物をたくさん食べるイメージがあります。日本では果物の摂取目標1日200gに対し、この45年で平均摂取量が半減してしまいました。こちらでは1日にどのくらいの量を食べるのでしょう。
「キウイ、りんごのほか、柑橘系も名産。夏はアプリコットなどのストーンフルーツや、フェイジョアも美味しいです。1日に2、3種類、たとえばバナナとキウイとリンゴという感じで食べますね。おやつとしていただくので、手軽に食べられるものが好まれます。家からカットフルーツをもって行って、学校や職場で食べたりもします」
こちらのりんごは小ぶりで、皮ごと食べるんですよね。子ども時代から学校のおやつとしてランチボックスにりんごを入れていくスナック習慣が、更年期の健康維持にも役立っているようです。ちなみに、通訳のシーナさんによれば、こちらではキウイは皮ごと食べる人も多いのだそう。ポリフェノール摂取を考えたら理にかなった行動で、皮の薄いルビーレッドなら大丈夫かも?
更年期を取り巻くニュージーランド社会は?女性活躍の面では先進国ですが
更年期女性に対する社会的なケアがまだまだ足りない日本。いっぽうで、ニュージーランドではどうなのでしょうか。実はニュージーランドは1893年に世界で初めて女性に参政権を認めた国であり、2022年にはニュージーランド議会に於いて女性議員が過半数を超えるなど、世界でもっとも女性の社会進出が成し遂げられている国の一つです。
日本では更年期症状が「辛い」と言い出せず、あるいは言い出しても配慮されず、仕事を辞めざるを得ない「更年期離職」が社会問題になっています。
「それは世界的に起きていることですよね、世界中の女性が職場で辛い体験しています。ニュージーランドでも、職場でのメノポーズの知識は向上しています。グローバルで考えると女性が働く国が多いため、メノポーズ時期の女性を排除しているとビジネスがストップしてしまいます。日本みたいな大きなボリュームではないけれど、すでにそういう話はあちこちにあります。残念ながらニュージーランドでも職場でのサポートがなく退職していく人はいます。この点ではニュージーランド政府はまだなにもやってくれていないと言っていいでしょう」
なるほど、政府のサポートがないのは意外です。そのほかニュージーランドではメノポーズに対してどのようなサポートがあるのでしょうか? 日本では行政が女性相談の窓口で対応を徐々に始めつつあるほか、HRTを手掛ける医師もじわじわと増えている、でもどちらもまだ少数です。
「昨今、医師のメノポーズに対する理解度が高まってきているため、適切な治療を行える医師が増えました。残念ながら、過去はそうではなく、HRTという治療法はあるものの、この20年ほどは医師の理解度が低い状態でした。ニュージーランドでは医療はパブリックの病院かプライベートの病院を選んで受けることができ、パブリックならば少額の負担でHRTを受けることができます。長い期間HRTを行う人もいます」
これらの現状に対して、ジャーナリストたちはどのような活動をしているのでしょうか。
「年齢を問わず、女性の将来にはこういう時期がくるのだということを心に留めることが大切だと考えています。私は現在、職場での講演を行ったり、ウェビナーでの啓蒙なども手掛けていますが、こうしたアウトリーチ活動を行い続けることで幅広い年齢かつ男女問わず知識が行き渡ります。普及活動で正しい知識を得ればネガティブなスティグマは減っていきます」
なるほど。そのような場ではみなさんはどのような情報を共有するのでしょう? もしかして、男性も講演に参加する? 日本ではなかなか、男性のいる場で更年期という言葉を使うこと自体がまだはばかられます。
「講演はごく基礎的な情報からスタートします。一体なぜ起きるのか、どういう症状が出てくるのか、それに対してどういいう処置をするのかなど、初歩をしっかり伝えます。質疑応答を行うと、ホルモン補充療法、HRTについての質問がたくさん出ます。続いて、食事をどう変えるべきか、どういう運動をするといいかという質問が出ます。大勢ではありませんが男性も講演に参加するため、男性からも質問が出ます。パートナーのためにという人もいれば、更年期のビジネスパートナーや同僚がいる場合もあり、参加動機は人それぞれです」
そういえば、最後に聞いてみたかったことをひとつ。ニュージーランドの夫は、更年期を迎えた妻をいたわってくれますか?
「ときどき助けてくれます。これはパートナーの性格にもよりますね。女性にとっては自分のパートナーがメノポーズについて知識を持ちたい、理解をしたいと思ってくれることが大切。パートナーから優しさと理解を受け取ることはとっても重要、私たちはエンパシーが必要です。共感と理解です」
日本では残念ながら、閉経は女性の終わりであり、自分の妻の閉経を認められないという夫がまだ少数ながら存在しています。
「特に驚きません。やっぱり世界どこでも若さがナンバーワンという価値観が多い。メノポーズはエイジングとつながっています。でも、その認識は間違いです。私たちはそれを変えていく世代だと思います。私たちは黙って座っていない世代ですから、ただのおばあちゃんにはなりません」
こちらではメノポーズを隠しておけという男性はもういないでしょうね、中にはとてもよくサポートしてくれる人もいます。でも、中には混乱してメノポーズが何であるか理解できない男性もいます。これは女性の責任もあります。女性がオープンにパートナーに対して話をすればするほど理解度も高まると思います」
男性にも女性にも理解してほしいのは、メノポーズとは人生に起きるほんの一時的なもので、一生のものではないということ。生きているといろんな変化があります。一時的なものであり、私たちは変化を迎えている世代。それだけのことです」
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