性的テンションが違う不倫カップルを見舞う「予定調和の最後」【不倫の精算リバイバル・10】後編
その身勝手な嫌悪の正体をよく見つめてほしい
「……まあ、うん、別れるのがいいよね」
Rさんが口にする嫌悪感や男性への悪口には触れずそれだけ返すと、おそらく戸惑いを察したのであろう、
「あ、ごめんね、変なことを言って」
と慌てる気配がした。
「いや、気持ちはわかるし。
……何であれ、もう続けられないでしょ」
そう言うと、一瞬の沈黙の後で「うん、そうね」と低い声が返ってきた。続いて、ふたたびライターに火が灯る音がした。
「何か、私も勝手よね、考えてみれば不倫なのに」
こちらが“引いた”気配に怒りが萎えたのか、Rさんの声色は冷たさを帯びていた。
「……」
何も言えない。
「そうよね、こんなときだし、もう終わりにするのがマシよね」
言い訳のように続ける言葉には、「気持ち悪い」と口にしてしまった相手とこの先も続ける自分を見ればこちらがどう思うか、おそらく気づいた響きがあった。
つまり、「身勝手に嫌悪感を持つことは許されないであろう自分」を想像したのだ。
「その関係を選んだのは自分」という現実からは逃れられない
「不倫だからね、嫌になったらさっさと切るのがいいと思うよ」
彼女は、本当は自分が吐き出した嫌悪感にこそ、同調してほしかっただろう。
だが、彼を貶めることが同時にその関係を選んだ彼女の価値まで下げるのだと気がつけば、そんなことはできないのだ。
安易な同調は、慰めではなく後で惨めさを呼ぶこともある。
それを知った上でどうするか、その対応しか私はできない。
「……」
ふう、と大きく息を吐くRさんの沈黙を受けながら、中途半端にぶら下がった「解消されない嫌悪感」への気まずさを感じていた。
これが独身者同士の恋愛なら、求められた内容への文句なども言い合えるが、不倫にそんな気軽さはない。
相手を悪く思うとき、不用意に傷つけようとするとき、「その人を選んだ自分」に加えて「後ろめたい関係とわかっていて続ける自分」も顔を出す。
貶めるのであれば「共に自分も」が現実であり、最後は”選択”を迫られるのだ。
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(この記事はリバイバル配信です)