更年期の女性が「されたくないこと」って?妻・同僚・友人・先輩・家族にどう接すればいい?人気youtuber産婦人科医・髙橋怜奈先生に聞く

「この考え方っていまの時代に即しているのかな?」と自分で疑問に思うこと、ありませんか? 性の分野に特化し、「LGBTQ」「ジェンダー平等」「性的同意」など、人生の中盤戦で性についての最新知識を学び直すための7人の専門家による解説書が『50歳からの性教育』(河出新書・935円)です。

このうち第1講「更年期~誰もが通るその時期の過ごし方」を担当するのがYouTuberとしても活躍中の産婦人科医、髙橋怜奈先生。男女も世代も問わず知っておきたい更年期の基礎知識について、わかりやすい言葉で密度高く解説しています。

今回は書籍の内容を踏まえて、「更年期の当事者ではない人たち」が更年期当事者にどう接すればいいのかを伺いました。不調があるけれど言い出しにくいという方も、ぜひこの記事を伝えたい相手にそっと共有してくだい。

 

ここ数年で、女性性に関する企業研修の場にも男性参加者がどんどん増えています

――企業研修でのご講演も多い髙橋先生ですが、研修には男性参加者も増えているのでしょうか?

企業ごとに男女比はそれぞれですが、男性も女性のホルモン由来の健康課題について知るべきという意識の高まりは強く感じます。ですがまだまだ、公に男性側が生理や更年期について口にするのは恥ずかしい、話すときも女性に対して気を遣うということがあります。

 

私は、男性限定の講演会をやったほうがいいのかもしれないと考えています。私が住む自治体では子育て支援センターが「10カ月までの子ども」「パパだけ」「双子の親」など、対象を限定したつどいを主催しており、夫が先日、パパだけの会に参加しました。「パパだけ」と言われると格段に行きやすかったみたいですね。こうした工夫が広がるといいなと思っています。

 

――研修ではどのようなことをお話しになるのでしょう。該当者数だけをいえば、月経不順やPMSが多いように思います。

子宮頸がん、更年期、月経困難症、PMS、不妊治療、男性更年期、全部話してと依頼されることも多く、大量のスライドを投影しながら猛烈な早口でお話しすることもよくあります(笑)。たとえば「不妊治療で会社を休まないとならない場合がある」「生理前にはPMSやPMDDという症状が起きる」などは知っているだけで対応できるようになるので盛り込みます。

 

女性特有の不調に関する意識が高まるにつれて、更年期症状での産婦人科の受診もハードルが下がってきたなと感じます。更年期症状が強く出た場合、抑うつの状態になったり、最悪の場合は死を考える人すらいますから、なるべく早い段階で治療を始めることはいいことです。

 

更年期だと自己判断してサプリを飲んでいたところ、実は卵巣がんだったということもありますから、関心を持った時点で産婦人科に来院してほしいし、来院できるよう休暇などの制度を整えてほしい。中には自己判断で海外から女性ホルモン剤のクリームを買っている人までいますが、こうした自己判断はとても危険です。

 

1・更年期はみんなにあるものです。生理も更年期も、もう揶揄はやめてください

――更年期のネガティブなイメージについて、書中でも言及があります。どうすれば払拭できるでしょうか。

更年期とは病名ではなく世代のことです。閉経の前後5年ずつ、合計10年を指し、何かしら症状が出れば「更年期症候群」「更年期症状」と呼びます。症状の有無は人それぞれですが、更年期という時期は誰にでも訪れるものなのです。

 

私は「更年期なんじゃないの~?」という揶揄に対してずっと怒っています。本当にやめてほしい。

 

「イライラして、生理じゃないの~」「怒ってばかり、更年期おばさん~」というような揶揄に該当するものって、男性の側にはないですよね。男女問わず、こうした「状態の揶揄」は人として絶対にしてはならないことです。揶揄されてマイナスイメージを持つことで自分が更年期であると認められず、受診の道が絶たれてしまうこともあります。また、更年期である自分に対して自信を喪失する人も出ます。

 

ちなみに、若い世代から「ホルモンバランスが崩れているせいでPMSがひどいんです」と相談を受けますが、これは逆で、排卵があってホルモンがきちんと分泌されているからこそPMSやPMDDが起きています。

 

更年期や閉経は悪いことばかりではありません。更年期以降はPMSも減り、閉経すればなくなります。女性は初潮から約40年近くホルモン変動に日々振り回されますが、閉経のあとにはもう振り回されません。子宮筋腫や子宮内膜症など、ホルモン依存性の病気も症状は改善していきます。更年期をマイナスイメージだけで捉えないことは重要です。

 

2・男性が無理をして踏み込む必要はありません。ただ黙って配慮してくれていればじゅうぶん

――体調が悪そうな妻や同僚にどのように声をかけるべきかと聞かれることがありますが、どうすればいいでしょうか?

無理に声がけをしなくても大丈夫です。というのも、人それぞれどうしてほしいかは違うからです。更年期なの?生理なの?と言語化して踏み込んでいく必要はありません。ただ黙って、女性が体を休めやすい環境をつくってくれれば十分です。パートナーの具合が悪そうなら家事をかわってあげてください。会社であれば、休みやすい環境をつくることが重要です。

 

休みやすい環境づくりといっても、休暇制度の整備をすれば終了というわけではありません。まず、上司が積極的にどんどん休むことが重要です。部下を持っている人たちは、特に問題がなくても休んでください。特に理由がなくても休めるんだという姿勢を見せることが大事です。

 

もうひとつ、不調があるけれどどの科にかかればいいかわからないという人がいる場合、会社に所属しているなら産業医への相談も活用してほしいのですが、仕組みを知らない人もいるので、上の人たちが紹介して利用を促してあげるといいと思います。大きな病院の初診時にかかる7,000円以上の選定療養費も、産業医からの紹介状があれば不要です。

 

フリーランスやパートタイマーの場合はこの会社による恩恵部分がないため、内科、産婦人科、眼科、耳鼻科と自力でかかりつけ医を見つけていく必要がありますが、まずは何科でもいいから相談しやすい医師をひとり見つけておくことです。医師同士は何科であっても紹介状を書くことができ、眼科の先生に産婦人科の紹介状を出してもらうこともできます。もちろん、いやだと断る医師もいますので、相談やお願いごとに真摯に対応してくれる医師を見つけることが重要なのです。

 

お産ではなく更年期障害なのに「『産』婦人科」に行っていいのかという質問も受けます。レディースクリニック、婦人科、産婦人科など名称はいろいろありますが、どこに行っても大丈夫です。ただ、産婦人科にもお産だけ、不妊治療だけなどと診察範囲に専門性があることもあるため、ホームページなどで確認したほうがいいでしょう。電話もすれば確実です。周囲の当事者が迷っているようならば教えてあげてください。

 

産婦人科では更年期症状やPMSによく漢方を処方しますが、「漢方って保険で出してくれるんですね」と驚かれることがあります。漢方は漢方専門の薬局で高い値段で出されるものというイメージがあるようですね。保険の場合、ツムラやクラシエのエキス製剤は、種類にもよりますが30日分で1000円~2000円程度です。ぜひ活用してほしいです。

 

3・離職されないため、不調を言い出しやすくするには、実例をたくさん挙げて何度も伝えることです

――更年期離職が問題になっています。どちらかといえば解雇されてしまう側の文脈で語られますが、育成してきた人材に辞められることは組織の側にも痛手です。

更年期障害はホルモン補充療法を行うと短期間でよくなることが多いものです。もっと前から治療しておけば仕事のパフォーマンスも下がらずに済んだでしょうし、辞めるかどうか迷うこともなかった可能性があります。

 

こうした更年期離職を防ぐためには「不調があったら早めに申告して治療を始めてください」と促す必要があります。しかし、当の不調者が「私は不調です!」と積極的に言い出すのはとても難しいもの。このため、発言しやすいように「過去にこういう人がいて、こういう事例が起きた。だが会社側はこう対処できた。思い当たる人はなるべく早めに伝えてください」と詳しい実例をたくさん用意し、折に触れて何度も何度も伝えていく必要があると思います。一度広報すればよいというものではなく、何度も何度も伝えてください。

 

女性ホルモンが関わる例として、不妊治療も同様に、体のつらさに加えて頻繁な通院が必要です。数年にわたる取り組みになることも多く、言い出しにくいことも相まって仕事を続けられず離職する人が多数います。これも実例を伝えていくことで防げるようになるでしょう。会社はあなたに仕事を続けてほしいのだ、そのため具体的にこのような配慮をしたと、詳しく実例を何度も何度も発信してください。

 

これらの取り組みは一見、女性向きですが、今後は男性にも必要になります。というのも、50代以降はがんの好発年齢にさしかかるからです。

 

ひと昔前ならがんは仕事を辞めて治療するイメージでしたが、最近では入院せず働きながら通院し、外来で抗がん剤治療を受けるケースが増えています。そもそも手術で完治できるのはごくごく初期のがんだけで、それ以降のステージの場合は手術や抗がん剤治療が終わったあとも定期通院し、再発を見つけたら再治療します。つまり、がんと共存しながらうまく暮らしていくことになるのです。

 

再治療のたびごとに仕事を辞めるのは、2人に1人ががんになる時代にまったく現実的ではありません。今後、基本はすべての人ががんになるものだと思っておいたほうがよく、なっても慌てず、日常生活を営みながら並行して治療するというものに変わっていきます。更年期障害など女性のホルモントラブルに対する対応とまったく同じなのです。

 

本記事では「更年期を迎える女性の周囲の人々にわかってもらいたいこと」を中心にお伝えしました。後編記事では「これから更年期を迎える女性とその周囲の人たちがいまのうちにしておくべきとても重要なこと」をお伝えします。

 

つづき>>「私まだ更年期じゃないよね」と思っている人が「いまのうち」にやっておくべき重大なこととは

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