男性更年期は「どう治す」のか?意外に早く「よくなる」から治療につながってほしい
「男性更年期」。最近、テレビや雑誌、ネットで話題になりつつも、まだまだよくわからないことが多いですよね。実は、放置していると、うつ病や生活習慣病につながるリスクが高く、早期発見・早期治療が大事です。
男性更年期障害の症状や対処法・治療法について、メンズヘルスを牽引する泌尿器科のエキスパートである井手久満先生に伺いました。
前編記事『男性更年期「女性に興味のなくなった男性は寿命が尽きる」。おかしいなと感じたら何をすればいいのでしょう?』に続き、後編記事では自分で治すにはどうするか、クリニックでの治療はどう進むのかについて。
下がったテストステロンはどう上げる? 軽度なら自分で改善も可能
女性の更年期の場合、女性ホルモン値は一度下がると一般的には自動回復はしませんが、テストステロンは1日の中でも変動があるもので、「可逆性がある」のだそう。男性更年期障害の対処法、治療法を紹介します。
■いわゆる「健康的な生活」がいちばん効く
「強いストレス、飲酒習慣、過食、運動不足、これらの結果としての肥満(BMI25以上)や糖尿病、さらに睡眠不足などがテストステロンを下げます。まず、毎日散歩をしましょう。15分から20分ぐらい、毎回散歩のルートを変えれば気分転換もでき、階段や坂があればさらにいいです。骨盤の血流も改善します。ストレス発散にもなり、歩くことで症状がよくなったという患者さんは多いですよ」(井手先生)
「スクワット」など軽めの筋トレも効果的。実はスクワットは男性ホルモンを上げることがわかっています。また、「睡眠」は6時間から7時間ぐらいしっかりとってください。男女問わず、寝過ぎは逆効果です。ちなみに、テストステロン値が低い人は転びやすいため、骨折リスクが上がります。この点でも生命予後に影響があると言えるそうです。
■スポーツ観戦も効果的、その理由は
「サッカーや格闘技など興奮性の上がるスポーツ観戦はテストステロンが上がります。狩猟時代、男性は狩りに出かけていた、その狩猟行動に近い、競争心や興奮性がある時間を持ってください」(井手先生)
■女性に興味を持つのも重要です
「前述の通り、女性への興味も重要なポイントです。男性は女性と接するとテストステロンが上がります。好きな女優さんの映画を見るだけでも上がりますから、いわゆる推し活は男性更年期に有効と言えるでしょう」(井手先生)
かなり有効。食生活を改善するとテストステロンにもプラスの影響が!
「テストステロンが減少すると、筋肉が減って体脂肪が増えます。さきほど『男性更年期ならば太っていく』と述べたのはこれが理由で、メタボにつながります。飲酒も肥満もテストステロンを下げてしまいますので、脂っこい高カロリーなものを食べ過ぎず、お酒を飲み過ぎず、太らないようバランスのとれた食生活を心がけてください」(井手先生)
テストステロン値を上げるために必要な栄養素は、「たんぱく質」「亜鉛」「ビタミンD」です。
「たんぱく質」は筋量を増やします。肉には植物性ではとれないアミノ酸があるのでしっかりとりましょう。赤身肉がおすすめです。
「亜鉛」は欠乏している人が男女問わず非常に多く、男性の場合は精子形成にも重要な役割を果たす大事な栄養素なので積極的にとりましょう。牡蠣、うなぎ、レバーなどに多く含まれています。
「ビタミンD」は、筋肉や骨の維持に大切です。経口摂取をして、また太陽を浴びることが必要です。鮭1切れで1日の必要量が摂取できます。抗酸化作用の高いアスタキサンチンも含まれています。
ほか、テストステロンを上げる食材として、玉ねぎやにんにく、山芋、納豆、ナッツ類、血管拡張作用のあるシトルリンを多く含むスイカなど。
「毎日の食生活でバランスのよい食事がとれないときは、サプリメントに頼るのもよいでしょう」(井手先生)
男性更年期障害はどのように治療する?
身体的・精神的な症状に不安を感じるようなら早めの受診が大切です。
「男性更年期を疑う場合、主な受診科は泌尿器科です。ただし、すべての泌尿器科医が男性更年期に精通しているわけでもないため、『メンズヘルス外来』『男性更年期』『LOH症候群』など専門性をあらわすキーワードで検索してください。私の診察の場合、カウンセリング、AMSスコアの記入ののち、テストステロン値などを確認する血液検査を行います」(井手先生)
治療法は症状、テストステロン値などの状態によってそれぞれ異なります。以下におおまかな治療法を。
◾️漢方薬
血液検査でさほどテストステロン値が低下していない場合、また低下していても症状が軽い場合は、漢方薬で治療します。
「主に、元気を補う漢方、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が処方されます。そのほかさまざまな漢方薬が症状に合わせて有効です。テストステロンをつくる能力を高め、数カ月で症状の改善が期待できます」(井手先生)
◾️男性ホルモン補充療法
テストステロンが低下していて症状が強い場合、男性ホルモン補充療法を行います。
「注射で補充する場合は、2週間から1カ月ごとに注射をします。その間、運動や食事など生活習慣の改善を行ってもらいます。注射以外には、テストステロンを経皮吸収させる塗り薬があり、毎日、自分で塗ります。だいたいの人は、半年程度の補充でよくなり、やめても大丈夫な状態に改善します」(井手先生)
減ったテストステロンが元の状態まで戻ることで、QOL(生活の質)が上がります。
●男性ホルモン補充療法での注意点
子どもを希望している場合、精子をつくる機能が抑制される造精機能障害になる恐れがあるので、違う方法を行います。
高齢で狭心症がある人は注意が必要です。
前立腺がんのある人はがんが進行する可能性があるので行いません。
●男性ホルモン補充療法の副作用
安全性の高い治療ですが、まれに、赤血球が増加する多血症が起こります。
脂性肌になることもあります。
ED(勃起障害)も治療してください
EDは血管の病気なのですが、加齢とともにEDが起こってくると自信をなくす男性は増えてきます。
「ED治療薬は、以前、心臓に悪いといううわさが起こりましたが、狭心症などのニトログリセリンを服用していなければ問題はなく安心して服用できます。治療を行うと、勃起障害が改善され、テストステロンも上がってきます。『年だから』と諦めず、健康のために人生のためにEDを治療しましょう」(井手先生)
周囲の人たちは、男性更年期にどう接すればいいですか?「自己承認欲求を満たす」
さて、いちばん気になるのは、仮にパートナーが「男性更年期かも?」と感じる兆候を見せた場合に、周辺にいる人たちはどのような心構えでどういう態度をとればよいかということ。井手先生によれば、「まずはストレスオフを心がけること、続いて自信の回復」だそうです。
「今の社会状況において、給料も上がらず、自信を喪失している男性が増えています。そこに職場だけでなく、妻や恋人からもストレスをかけられると男性更年期は加速してしまいます。明治〜昭和中頃の時代は、夫が給料袋を妻に手渡し『ありがとう』と言われ、一家の大黒柱としての自己承認欲求が満たされていました。今は、満たされることは少ないようです。男性が、だるそうに疲れていたら優しく元気づけたり、何か家事をしたら『助かるわ』と感謝の言葉を伝えたり、男性の自己承認欲求を満たしてあげてください。また、一緒に食事に出かけたり、スポーツをしたり、楽しく過ごすと回復も早いでしょう」(井手先生)
人生100年時代と言われる昨今、テストステロンを高める生活を送り、いつまでも活力にあふれた人生を謳歌していただきたいです。
つづき▶『男性更年期「女性に興味のなくなった男性は寿命が尽きる」。おかしいなと感じたら何をすればいいのでしょう?』
お話/
順天堂大学大学院医学研究科 泌尿器外科 デジタルセラピューティックス講座 特任教授
井手久満先生
日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 泌尿器腹腔鏡技術認定者、日本内視鏡外科学会技術認定医、抗加齢医学会、メンズヘルス医学会理事など。専門は、泌尿器一般、前立腺がん、男性更年期障害、泌尿器科腫瘍学。1997年宮崎医科大学医学部大学院卒業。米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校ハワードヒューズ研究所留学。
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