傾聴という言葉はよく聞くけれど、ほとんどの人が「実はできていない」たった一つのこととは【青木さやか、91歳のシスターに聞く】
「あんなこと言わなければよかった」「あの言い方はなかったな」と寝る前にひとり脳内反省会を始めてしまうのは、何歳になったら終わるんでしょうね。
五十歳というのは、自分で自分の小さい態度とか言葉に、目を向けて注意をしていくときだと語るのは、91歳のシスター・鈴木秀子さんです。
そんな鈴木さんに、50歳になった青木さやかさんが「人生の後半を楽しく笑って過ごすコツ」を聞く新刊、『』から抜粋をお届けします。
自分で自分の親になり、 自分を認め大切にする。
青木 「自分を大切にしましょう」ってよく聞きますけれど、具体的にはどういうことをすれば良いんでしょうか?
鈴木 自分を大切にする――。それは最も大切なことですね。この大切なことを始めるには、まず小さいことからです。人間は体と心と頭を使って生きています。ずっと座ってお仕事をし続けていて、立った方が良いかなと思ったなら、それは体がそう言っているので、体の声に正直に、立ってお散歩に行くとかですね。
青木 自分の体の声を聞いてあげるんですね。心と頭も同じですか?
鈴木 同じです。怒りが湧いてきたなと思ったら、「何かが自分の心の中で満足していないのね」と思う。一つのことばかり考えていたら、「頭を少し休めましょうね」と言ってあげる。あらゆる感情の中でも怒りが一番強く感じますからね。そういう自分の中に起こってくる色んな情報を、細やかにみてあげることです。
青木 体、心、頭を細やかにみるんですね。
鈴木 子どもの具合が悪いと、親は「この子、風邪ひいたんじゃないかな」と心配して、綿密にみますね。そういうふうに、自分で自分のことを温かくみてあげることですね。
青木 自分で自分のことを、親のように、ですね。
鈴木 以前、ある親子の姿に、私はとても感銘を受けたことがあります。九十歳を過ぎた女性が、臨終のとき、「苦しい、苦しい」と息子さんに言ったら、息子さんは「母さん、苦しいか、苦しいか」と、お母さんの言葉をそのまま繰り返すように言ったんですね。
その場に立ち会っていた私は、息子さんに「『苦しいか』ではなく、『苦しいよね』と言ってごらんなさい」と言いました。そしたらお母さんが再び「苦しい、苦しい」と言ったので、息子さんは「母さん、苦しいよね、苦しいよね」と繰り返しました。すると、お母さんはだんだん静かになって、とっても穏やかになっていきました。
人と話しているとき、その人が辛いことを言ったら「あなたは辛い気持ちでいるのね」とか、「大変なことになって、重い心を引きずっているのね」と、その人の気持ちを察して「〜のね」と言う。相手が「うん」「そう」と言う。この穏やかな関係を自分との間に築くのです。
青木 はい。やってみます。楽になれそうです。
鈴木 だから五十歳というのは、自分で自分の小さい態度とか言葉に、目を向けて注意をしていくときじゃないでしょうか。
青木 自分を大切にするって、二十代、三十代はほとんどできていなかったことです。
鈴木 さやかさんは二十代から何かに成功しようと目標をもって仕事に力を注いできた。そういう意味で成功したんですから、今度は自分を労ってあげていいんですよ。「二十代の頃あんなにがむしゃらにやって、よく頑張ったから、今度は面倒みてあげるね」と。
青木 そうすると、だいぶ自分との付き合い方が変わってきますね。
鈴木 そのときは、いつもあなたが自分の子どもをみているように自分をみるんですよ。自分で自分という子どもの親になること。自分のご両親のように自分がなる、ではないですよ。
青木 全然違いますよね。わたしはよく、もし親が生きていて自分の横にいたら、自分にどういう言葉を掛けてくるだろうかということの想像をしてしまうのですけれど、そうするとやっぱり厳しい言葉ばかりが浮かんでくるんですよ。
鈴木 それはお母さんの厳しい面を強く感じているからですね。だから、あなたが自分のお子さんに向かい合うように、自分で自分をみるのです。
青木 だいぶ自分への声掛けは変わってきますね。優しくなります。自分に。
鈴木 最後は「忙しかったんだから仕方ないよ」「友達と喧嘩した後だもんね」「片付かないの当たり前よ」「でもよくやったよね」とポジティブな言葉にする。きっともっと楽になりますよ。
つづき>>>同僚がマウントをとって支配しようとしてきます。どういう態度で接すれば「標的にされない」のでしょう
『話せば、うまくいく。―50代からの人生を機嫌よく生きるヒント』聖心会シスター 鈴木秀子・青木さやか・著 1650円(10%税込)/時事通信社
【著者プロフィール】
鈴木 秀子(すずき・ ひでこ)
1932年生まれ。聖心会シスター、文学博士。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。フランス、イタリアに留学。ハワイ大学、スタンフォード大学で教鞭をとる。聖心女子大学文学部教授(日本近代文学)を経て、国際コミュニオン学会名誉会長。長年にわたり、執筆・講演活動を行い、多くの相談を受けてきた。聖心女子大学キリスト教文化研究所研究員・聖心会会員。『9つの性格 エニアグラムで見つかる 「本当の自分」と最良の人間関係』、『人はいつか死ぬのだから』(共にPHP研究所)、『機嫌よくいれば、だいたいのことはうまくいく。』(かんき出版)など多数の著書がある。
青木さやか(あおき・ さやか)
1973年生まれ。タレント、俳優、エッセイスト。名古屋学院大学外国語学部卒業。名古屋でフリーアナウンサーとして活動後、上京しタレント・お笑い芸人になる。「どこ見てんのよ!」のネタがブレイクし、バラエティ番組で活躍。2007年に結婚、2012年に離婚。2017年と2019年に肺腺ガン手術を受けた。実母との確執と自身の半生を綴った 『母』(中央公論新社)、『厄介なオンナ』(大和書房)、『母が嫌いだったわたしが母になった』(KADOKAWA)、『50歳。はじまりの音しか聞こえない』(世界文化社)などの著書がある。
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