40歳からのおしゃれ論。布好きイラストレーターいいあいが手仕事の聖地インドへ赴いた
みなさまこんにちは。
突然ですが、好きな人ができたら、なるべくその人の近くにいたいですよね。その人のことならなんでも知りたいし、なんなら触れてもみたい。
そんな想いが募ってしまって、私は先日インドの端っこまで行ってきました。布や、そこに施された刺繍といった、インドの手仕事に惚れ込んで早幾年。憧れの大好きな人に会いに行くような気持ちで、ドキドキと飛行機に乗り込みました。
正直に言うと、早朝に部屋を出る際、スーツケースと一緒に鏡に映った自分を見て「ほんとに行くんだ」とつぶやいて、くっと泣きました。(笑)
インド行きたい!でもお腹壊すかな。インド行きたい!でもまたレイプ事件の記事。インド行きたい!でもやっぱり危ないかな。これを数年繰り返していたので感慨もひとしおです。
行き先はインドの西側グジャラート州に位置する、カッチ地方のブジ。
ちょっと先はパキスタンで、地図で言ったらインドの左端。この地域は、私が日本でコツコツ買い集めたカッチ地方の刺繍の数々やアジュラックと呼ばれる染物のド産地!
まあとにかくどんな気持ちかと言いますと「テニス好きな人が憧れのウィンブルドンで試合を観戦!」とか「登山愛好者が念願叶ってヒマラヤに挑戦!」とかそんなイメージをしてもらうとわかりやすいかもしれません。「布好きが手仕事布の聖地、インドのグジャラートへついに訪れる!」です。
今回旅の前半はマニアックな土地へのツアーや手配でおなじみ西遊旅行さんのパッケージツアー「グジャラート テキスタイル紀行」を利用しました。私の行きたかったテキスタイルの工房をめぐるだけでなく、現地の工房で人間国宝的な先生に教わる染めや絞りのワークショップまでもが組み込まれており、見つけた時はそのマニアックな内容に口あんぐり。ツアーなら初めてのインドも安心と背中も押してもらいました。
それではグジャラートの染物、織物、刺繍の工房、素晴らしき布の数々をご覧下さいませ。
まずは! 布の元の元、綿花畑へ。インド綿の綿花。本当にこうやって育てていたのかインドよ。綿花は朝露に濡れて、少ししっとりしていました。
そこへ畑の主がお弁当をぶら下げて登場。「お前さんたち、ここで何しとるんじゃい」。恥ずかしがるおじさんのお弁当箱を、お願いして覗かせてもらったらカレーとヨーグルトでした。「早く行け」と言われました。
こちらはブジョディ村のウール織りとミラーワークのワンカールさんの工房。素焼きの動物たちが玄関でお出迎え。ワンカールさんは「織り」で初めて国からナショナルアワードを受けたすごい作り手さんでもあります。
工房の軒先で糸紡ぎをする女性たち。おおお、電力が一切使われていない。照明も自然光!
インディゴ染の方法を実演してくれたワンカールさん。着ていらっしゃるクルタももちろん「三年着てたらこの色になった(笑)」というインディゴ染め。似合うなあ。実演の後は、糸もワンカールさんの手も爪も、美しいインディゴに染まっていました。工房ではこれらを手織りしてストールなどの布製品に仕立てています。なんと私の母校、文化服装学院で授業をしたこともあるというワンカールさんでした。
こちらはアジュラックプールの超新作派カリード・カトリさん。現地ガイドのゴータムさんに、私は彼の布の大ファンで、いくつも彼の布を持っている!と熱く伝えてはいたのですが、思いもよらず、彼の工房を訪ねる幸運に恵まれました。うおお!
独創的でエモーショナルな新作を、ご本人の手でたくさん見せてもらい大感激! この布めっちゃかっこいーーーー!なんで買わなかったんだろう私。テンパっていたんですね、はい。。ああ。
こちらはダマルカ村の人間国宝ジャバール・カトリさんのアジュラックブロックプリント工房。自然光の入る工房で職人さんたちが黙々とブロックプリントを施していました。インディゴやアカネ、ラック、ザクロ、ルバーブなどの天然染料を使って模様を染めていきます。
これがブロックプリントの木型。これを掘るのは別の職人さんで、木型のカタログなども存在するそう。花にマンゴー、数々のボーダーにアジュラックスターと呼ばれるイスラミックな星模様。これらを自在に組み合わせてアジュラックのブロックプリントが出来上がります。
ワダ族の暮らすエリアへもお邪魔しました。彼らは村の中で暮らすことさえ許されず、大変な差別を受けてきたダリッド(不可触民)。ドレスが気に入ったお人形を2体買ったのだけれど、日本でそれを見るたびに少女の射るような視線を思い出します。
ドロド村のムトワ刺繍の名手、ソフィアさんの刺繍。「小さい頃からカレンダーや時計が好きだったの」とソフィアさん。腕には日本製の腕時計。この緻密な刺繍から、なんとなくそれがわかるような気がしました。小さい丸の中には、極小のミラーが縫いとめられています。
ソフィアさんの小さな坊や。刺繍をするママの傍らでスヤスヤ。ソフィアさんは家事と育児の合間に一日3~4時間刺繍をされているのだとか。
こちらはメグワル族のビレンディアラ村。ワダ族と同じく彼らもダリッドだと言うけれど、こちらは屈託無く明るい装飾のお家。
メグワル族の刺繍は大胆な原色使いが特徴。古いものから新しいものまでとにかくたくさんあって訳がわからなくなった後、笑えてくる状況。ツアー参加者の皆さんも、ありすぎてもういいや状態になられていた方多数でした。
こちらは個人収集家のワジールさんが集めた素晴らしいアンティーク布の数々。2001年のカッチ大地震で、建設中だった博物館が倒壊してしまい、その膨大なコレクションをご自宅で公開。またその販売をされています。
こちらもワジールさん収集の布。こちらはパキスタンからの品。ミュージアムピースのハードワークな布たちを次から次に見せていただき、脳の回線が何度か落ちました。
綿花を手で紡ぐ。紡いだ糸を手で染める。その糸を織ったら布になる。
布に木版でプリントをする。洗う。別の色を重ねる、洗う。刺繍する。
これを全部、人の手でやる。
うん、知ってる。知ってはいました。その果てしない手間と時間。でも、改めて現地でそれを見ると、やっぱり2017年を東京で生きる私は心底驚いた。
この果てしない手間と時間を短縮して幸せになろうということで、機械が生まれたわけで、その機械を作った人間も素晴らしい。でも機械がなくてもできるんだということ。驚いた〜。
そして機械がまだ真似できない、ゆらぎや味をたっぷりたたえた布たちの愛おしいこと。あたたかさの違うこと。
そこにお金を使っていきたい40歳に仕上がった私は、インド経済に多大な協力を惜しまにゃい! 私のスーツケースは未だかつてない密度を記録し、リモアの鍵は悲鳴を上げておりましたとさ。
この後私はツアーを離脱し、一人南インドの大都会チェンナイへ。そこでは、たっぷりのインド手仕事が効きつつもモダンで今日的なインドブランドに、数多く出会うことになります。グジャラートで出会った手仕事が、現代の洋服に落とし込まれていて、今すぐ着られる!というイメージです。いいあい大興奮。
ということで次回はインド旅お買い物編をお送りいたします。どうぞお楽しみに!
今回、旅の前半でお世話になった方々
★マニアックにもほどがあるツアー、旅の手配でおなじみの西遊旅行さん!
★何を聞いても答えてくれる博学で親切な現地ガイド、ゴータムさんの会社グジャラートジャーニー!