「被災したことで、幸せの“感度”が上がった11カ月でした」家族、大切なものたち。全てのものと出会い直せた、能登の今

2024.12.01 LIFE

家族と支え合いながら、しほりさんが見据える、「感謝」と「感性」に満ちた未来とは?

米こうじは日本酒造りの肝。室温管理された麹室での作業は冬でも熱気が立ちこめる

苦境でも光のある方へ顔を向けながら、復興に取り組んできたしほりさん。若女将を務める「数馬酒造」はまさに今、『しぼりたて』の新酒が発売され活気に満ちたシーズンを迎えています。

酒造りの最盛期を迎える時期に地震が起こったため、酒蔵にはお酒の元となる『もろみ』が1万5,000L、能登の農家さんが大切に育てたお米が55トン残された状態でした。そんな中、酒蔵が稼働できなくなっている状況を知った県内外の他の酒蔵の皆さまが、道も悪いなか駆けつけて助けてくださったんです。

そして4月には自社での製造再開に何とかこぎ着けることができ、9ヶ月かけて『もろみ』もお米もすべて日本酒にすることができました。手を差し伸べてくださった皆さまのおかげで、今があると思っています。10月からは酒造りの本格再開に向けて製造体制を整え、今、例年と同じように『しぼりたて』をお届けできることが、ほんとうに感慨深いです」。

県内外の酒蔵の方々が駆けつけ、数馬酒造の蔵の小窓からホースを伸ばして、酒のもととなる『もろみ』を救出。『もろみ』の発酵が進みすぎて腐敗する前に急いで搾る必要があったため、自社に持ち帰り圧搾を代行してくれた。

家族で支え合い、仕事に邁進できる日常を取り戻しつつある今、最後にしほりさんは、これからの抱負についてこう語ってくれました。

「私はもともと、自分の感性を大切にしながら生きていきたいという思いが、強くありました。その意味では、お酒の味わいを言葉で表現したり、料理とのペアリングを考えたりというアウトプットができる今の仕事に、ものすごくやりがいを感じています。

これまでの人生、私は10年ごとにテーマを掲げていて、20代は『自己成長』、30代は『貢献』、そして40代を迎えた今は、『実力を養う』 ことを目指しています。

震災を経て、酒造りができること、商品を届けられることへの感謝が増しました。その思いを胸に、能登の魅力を伝える日本酒を通して、たくさんの方に喜んでいただく瞬間を増やしたいと思っています。そして豊かな能登を未来に繋いでいきたい。その姿をきっと息子たちも見ていてくれると思います」。

 

 

≪取材協力・画像提供≫ 

「数馬酒造」数馬しほりさん

 

「数馬酒造」石川県鳳珠郡能登町宇出津へ36(Tel:0768-62-1200)

【営業時間】9:30〜16:30(土日祝定休)

明治2年創業。「能登を醸す(かもす)」を経営理念に掲げ、清酒事業・リキュール事業・醤油事業を展開。能登米をはじめ、仕込み水にも口当たりがやわらかい能登の山湧き水を使用するなど能登産の原料にこだわった酒造りを行っている。代表銘柄「竹葉(ちくは)」は、甘味・酸味・渋味・苦味・旨味がほどよく調和した味わい。しっかりとした旨味がありながら軽やかですっきりとした味わいが、料理とも合わせやすく飲みやすいと若い世代にも受け入れられている。国内外でさまざまな賞を受賞するなど、今、注目の酒蔵。

数馬酒造で人気の3銘柄。「一度口にすると忘れがたい」と言われる、能登産の原材料にこだわった「梅酒」は隠れた人気商品。

しほりさんが企画・運営を行う日本酒サブスクリプションサービス「Fun Fan Chikuha! 」も好評。季節に合わせた旬の日本酒(原則720ml 2本)と、能登を感じる旬の味などのおまけ、しほりさん考案のお酒に合うレシピ他の情報満載のリーフレットが届くサービス。「2週間ごとに旬が移ろう能登。そんな旬を感じ取るきっかけにしてほしい――といった思いを込めています。とっておきの肴を用意して、ご夫婦やお友だちと飲み交わすひとときを是非お気軽に楽しんでください」(数馬しほりさん)。

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