「ぼく、食べ物が飲み込めない……」突然の不登校。行き着いた「子どもの受け止め方」と「周囲との支え合い方」とは
「うちの子がなぜ!?」焦る私と動じない夫。原因追求よりも大切だったのは、新たな信頼と安心の構築だった
その後、勤務していた会社を退職し、起業したゆうさん夫婦。
「私が独立した翌月のことでした。当時小学3年生だった長男が、家での食事中に『なんだか飲み込めない』と訴えたんです。直後に発熱などの症状もあったので、最初は病気を疑いました。すぐに病院に行ったものの、肉体的に異常なし。それでも飲み込めない状態は治まりませんでした」。
続いて現れたのが、登校間際の腹痛や頭痛だったのだそう。
「それでも、当の本人は『学校は楽しい』と思っていたようです。ところが学校に行く時間になると、様々な症状が出てくる――親としては、『これは体の反応の方が正しいのではないか』と思い始めました。
やがて、学校に行こうとする長男自身からも、『飲み込めないから人前で食べたくない。給食が嫌だ』という訴えが。気持ちを汲んで給食前に早退することも試したのですが、それはそれでクラスメイトから注目を浴びて本人は嫌がります。結果的に休みがちになりました」。
独立したおかげで仕事の調整はつきやすくなったとはいえ、母親としては気が気ではなかったと、ゆうさんは当時の思いを語ります。
「なんでこんなことになっているのかと、原因を探したくてたまりませんでした。焦り、不安、『うちの子がなぜ?』という思い……長男のメンタル面はもちろんのこと、我が子の体重が減っていくという事実も心配でたまらない。さらに他の家庭と比べて落ち込むこともありました。『普通のことが普通にできないなんて、一体どうしたらいいの?』って。もう、大混乱でしたね」。
ところが、ゆうさんの夫は泰然としていたのだそう。
「これは後から聞いた話ですが、夫は育児に限らず、悲観的な展開も含めて、常に様々なケースを想定しているそうなんです。だから、長男が調子を崩したことに『なぜだろう?』と純粋な疑問こそあれ、『そういうこともあるよね』と。
不登校に限らず、この先の人生で息子たちが誰かに怪我をさせたり、良からぬ道に足を踏み入れたりすることもあるかもしれない。だからこそ、どんな事態に陥っても話を聞いてもらえる関係性を育むべく、幼いうちからどっぷり密に関わる――それが夫のやり方なんです。
そんな夫なので、私の混乱は受け止め、落ち着かせる。一方で、長男に対しては問い詰めるのではなく、待ちながら、ゆっくり少しずつ話を聞いてくれていました」。
息子さんの不登校の原因について、今も明確な理由は把握しきれていないといいます。そんな宙ぶらりんをそのままに受け入れることから始めるカタチを、ゆうさんたちは選びました。最優先すべきは、息子さんの症状とコンディションに向き合うこと――また新たな信頼と安心を育む日々が始まりました。
私がパニックになっていたのは、勝手に理想のレールを敷いていたから。会社員から卒業した私たち同様、子どもにだって自由な生き方があっていい
不登校を想定して独立したわけではなかったものの、結果的に仕事の調整がしやすくなったこと。さらに、互いに在宅の時間が増え、会話のタイミングをとりやすくなっていたことが奏功したというゆうさん夫婦。
「毎日夫婦でいろんな会話を交わし、長男に対しては夫なりのやり方で心をほぐす様子を目にするうちに、気づいたんですよね。私は無意識のうちに、長男に対して勝手にレールを敷いていたんだって。そこから長男が逸れたものだから、混乱して焦ってしまったのでしょうね」。
現在も不安定さが残るという息子さん。それでも、自らの『勝手なレール』の存在に気づいた今、ゆうさんはかつてのような焦りを抱かなくなったといいます。
「長男はとても繊細で優しく、空気を読むタイプ。そんな彼がSOSを出してきたとなれば、それはもう絶対に受け入れるべきタイミングなんだと思えるようになりました。なだめすかして“世間の普通”にはめ込むより、早めにのんびり休んだ方が彼にはずっといい。
それに私と夫は、会社員ではなく自由な働き方を選んだ身ですからね。毎日同じところに通って、決められたことをやる以外の選択肢は、子どもにもあって然るべきだ、とも思えるようになりつつあります。
もちろん、よそのお子さんがはつらつと学校を楽しむ様子を見て、うらやましく思うことだってありますよ。でも、息子がそこに合わせられることより、彼が一番苦しんでいたあの頃の状況に陥らないことの方がずっと大切だって、今は思うんです」。
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