9人に1人が「乳がん」になる日本人女性。まだ聞きなれない「ブレスト・アウェアネス」って知っている?【医師監修】

ブレストキャンサーアウェアネスとピンクリボンの歴史

shutterstock

「ブレストアウェアネス」と似ている言葉に「ブレストキャンサーアウェアネス」があります。ブレストキャンサーは英語で「乳がん」を意味します。ブレストアウェアネスとは、一人ひとりが自分の乳房の状態に日頃から関心を持ち、乳房を意識して生活する習慣のことでした。これにはセルフチェックや乳がん検診の受診が含まれます。

それに対して、ブレスト”キャンサー”アウェアネスは、ブレストアウェアネスに加えて、正しい乳がんの知識を広め、社会全体で乳がんについて認識することを意味します。ピンクリボンは、この「ブレストキャンサーアウェアネス」のシンボルであり、ピンクリボン運動はすなわち「乳がん啓発運動」です。

 

■ピンクリボンの始まり

ピンクリボンの始まりは諸説ありますが、その一つをご紹介します。

カリフォルニア在住のシャーロット・ヘイリーは、姉妹、娘、そして孫娘が乳がんでした。1991年、シャーロットは自宅のダイニングルームで「ピーチ色のリボン」を手作りし、「アメリカ国立癌研究所の年間予算18億ドルのうち、がん予防研究に使われるのはたった5%です。このリボンを身に着けて議員たちとアメリカの目を覚まそう」というメッセージカードを添えて地元のスーパーマーケットで配り、また、ファーストレディーをはじめ著名人に直接手紙を書いて送りました。シャーロットの作った何千もの「ピーチ色のリボン」によるメッセージは口コミで広がり、現在の世界的なピンクリボン運動へとつながったのです。

10月1日は「ピンクリボンデー」として世界各国でイルミネーションが行われます。ピンクリボン運動の目指す世界は、乳がん検診の啓発運動だけでなく、乳がんになった人を支えていく社会です。

 

 

■ピンクリボン運動の目的

毎年10月は「Breast Cancer Awareness Month」として世界中でピンクリボン運動、すなわち乳がん啓発運動が行われます。このキャンペーンには主に3つの目的があります。

  • 乳がんの正しい知識を広めること
  • 乳がん検診の受診をすすめること
  • 研究のための寄付を集めること

アメリカでは、毎年10月に様々なキャンペーンにより多くの寄付が集まり、乳がんの研究のために役立てられています。日本では、各地でピンクリボンウォークや講演会などのイベントは盛んに行われるようになってきましたが、研究のための寄付を集める活動はまだ少ないのが現状です。

 

 

乳がん経験者を支える社会の重要性

乳がんにかかる人がとても多い現状で、乳がんになった人を優しく受け止め、社会で支えていくこともピンクリボン運動には大切です。今や日本では、9人に1人の女性が生涯のうちに乳がんになると言われています。決して珍しい病気ではありません。また、乳がんは、他のがんに比べると働き盛りの年代に多いことも特徴です。きっと皆さんの周りには、多くの乳がん経験者がいるはずです。

仮に乳がんが見つかった後は治療が始まり、場合によっては薬での治療が何年にも渡って続いていきます。ブレストアウェアネスのように、自分の身体を気遣うことも大切ですが、乳がんになった人たちがなる前と変わらない生活を送ることができる環境、社会も非常に重要です。

 

一人一人の患者さんには、自分の生活があり、仕事があればそれを続けていく必要もありますし、その権利もあります。時には、体調が優れない日もあるでしょうし、定期的に通院で仕事の休みが必要になることもありますが、実際、多くの患者さんが、乳がんの診断後も仕事を続けています。

しかし、残念ながら、日本には、がんに対する偏見は根強く残っています。

「がん=死のイメージ」

「がん患者は仕事が続けられない、すぐに辞めるのではないか?」

「がんになったのは、自己責任とされる風潮」

など、今やこれらは払拭すべき偏見です。また一方で、本人が普通に生活を送りたいと思っていても、周囲の過剰な配慮も場合によっては本人にとってはストレスになることもあります。

 

 

ピンクリボン運動の願い

ピンクリボン運動には、乳がんと診断された方々が正確な情報とサポートを得られるだけでなく、社会全体ががんと共に生きる人々に理解と共感を示せる環境をつくっていくという願いが込められています。

誰もが当事者になる可能性を持つ中で、自らに関わりがないと思える問題を自分事として受け止めることは容易ではありません。誰しも「自分には関係ない」と思いがちな問題ですが、実は身近なところに存在しています。この記事が、あなた自身やあなたの大切な人が当事者になったとき、どのような社会であってほしいかを考えるきっかけになれば幸いです。

 

 

▶関連記事 >>>こちらから

『「早く体から取り出したい!」乳がんと告知された看護師が感じた、医療従事者だからこその寂しさとは?【体験談】』

 

 

【寺田満雄先生プロフィール】

名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学講座 研究員/UPMC Hillman Cancer Center, Department of medicine, Postdoctoral Associate
2013
年名古屋市立大学医学部卒業。関連病院および愛知県がんセンター乳腺科部勤務を経て、2019年 名古屋市立大学乳腺外科への帰局とともに同大学博士課程に入学。同年より名古屋大学分子細胞免疫学にて腫瘍免疫研究に従事。博士号取得後、2023年より、米国UPMC Hillman Cancer Centerに研究留学し、現在に至る。外科専門医、乳腺専門医。一般社団法人BC TUBE理事、乳癌診療ガイドライン委員。一般社団法人BCTUBEの活動として、乳がんという病気を多くの人に知ってもらうため、治療に関わる情報格差を減らすために、YouTubeチャンネル「乳がん大事典」の運営や様々な啓発活動に従事。

 

1 2

スポンサーリンク

この記事は

スポンサーリンク

スポンサーリンク