場所も人材も「手放すこと」が働き方改革につながる【It Woman #1荻野みどり・後編】

大ブームを起こしたココナッツオイルの火付け役、ブラウンシュガーファーストの代表取締役、荻野みどりさん。前半では起業するきっかけ、ココナッツオイルとの出会いからブレイクまでのお話をお伺いしました。

自分らしく、自由に、自立して生きる女性をクローズアップする【It Woman】。#1荻野みどりさん後編では、急成長した会社のトップとして、会社の次のステージをどうしていくか。今後のオーガニック市場や働き方改革についてお伺いしました。

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Profile 
荻野みどり ブラウンシュガーファースト代表取締役 
1982年、福岡県久留米市生まれ。2011年に第一子を出産。 
その4ヶ月後に「ブラウンシュガーファースト」を立ち上げる。
 2013年には「coco cookies」が大手コンビにチェーンで発売開始。 
同年に同名で法人登記し「有機エキストラバージンココナッツオイル」の販売を開始。
 販売直後からメディアでも大きく取り上げられ大ブレイク。 ココナッツオイルブームの火付け役として有名に。 
著書に『ココナッツオイル生活をはじめよう』(講談社)、 
『こじらせママ子育てしながらココナッツオイルで年商7億円』(集英社)などがある。

 

ゼロを増やすために商売はしない

有機アップルソース 瓶タイプ 680g・980円+税、有機エキストラバージンココナッツオイル 425g・1,780円/ブラウンシュガーファースト

——大ブレイクしたココナッツオイル、品切れ続出なんてこともありましたね

「ブームのときは70億円売れるポテンシャルがあったと思います。うちの商品が品切れして、1,780円の商品なのにアマゾンで8,000円くらいになったり。当時は山ほどファンドから出資の話もきたんです。

でも私がちゃんと工場を見てチェックして、この人たちとやりたいと思えるものにうちのラベルを貼るのはいいけれど、どこのものかもわからないものにそれはできない。

だからうちは品切れする会社にすると経営判断しました。工場が造れる最大限で商売するんだと」

——もっと売れるとわかっていたのにですか?

「私はゼロを増やすために商売をしていません。子供たちの未来にどんな食を残すのか、ママ達にどんな食を届けたいか、それだけです。目先の利益よりも有機的に長く続けられる商売をする方が意義があるという考えで続けています」

 

迷ったら娘を見て初心に立ち返る

——荻野さんが仕事で大事にしてることはなんですか?

「さっきお話した『子供に食べさせたいかどうか、ママたちにどんな食を届けるか』この理念を大事にすることですね。

なので商品化するかどうかなど、迷ったらすべて娘に聞きます。どんなにロジック上マーケットがあって売り上げが見込めたとしても娘が美味しくないって言ったらやりません。我が子だけじゃなく社員の子供にも食べさせて意見をもらう。

母であるという視点はブレたくないので子供の意見を尊重しています」

 

——今、社員は何人いらっしゃいますか?

「男性が1人、女性がは4人です。一時期社員が15人いたときもありましたが、社員だったメンバーのほとんどを業務委託にして。その方が会社という枠にとらわれずに1人でも生きていけるし、仕事の場所も選ばないじゃないですか」

 

——場所を選ばず1人でも生きていける仕事。女性にとってはとくに大事かもしれませんね。そのシステム作りをしていると。

「そうですね。例えばうちの営業は何億円と売る優秀な人なんですが、それ自体ももうフリーランスにしようと思っていて。

うちの商品だけじゃなく色んな会社の食材を売ることができれば、オーガニックというくくりで色んなメーカーの営業できますよね。それは彼らにとっても有益ですし、何よりオーガニックのマーケットも活発になると思うんです。

色んな問屋さんに面白いオーガニック棚を作りましょうよという提案ができたり、こことここをコラボさせてみようとか。その方が結果お客さんにもワクワクを与えられると思いませんか?」

 

競い合っても面白いことなど生まれない

——有能な人材、優秀な商品は独占したいと思いがちですが、荻野さんはそうじゃないんですね。

「これまでの経営とか雇用って、会社と会社が競い合うのがベースになっていて。でも競い合っても面白いことなんて何にも出てこなくて、数字上の議論になるだけじゃないですか。

そうじゃなくてリソースをみんなと共有すればいい、優秀な営業たちの能力をシェアした方が面白いことが生まれるよという風に持っていきたいんです。人材もシェアし合うという感覚でいいと思うんですよね。

所有して競い合うんじゃなく、ゴールをともに、同じところの未来を見ている会社同士でリソースを交換しあいながらシェアし合いながらというのが一番オーガニックなんじゃないかなと思うんです」

——確かに、どうしても数値かして分析しがちですが、それは意味がないのかもしれないですね。繋ぎ合わせることこそ活性化に繋がると。

「もちろん適切な競合がいるからマーケットは大きくなります。なので大事なのは同じ未来を目指す人たちを繋ぎ合わせることです。ココナッツオイルがブームになったころ、色んな会社からココナッツオイルが販売されました。

多い時で400銘柄くらいはあったんじゃないかな。そのうち半分は私と同じ「いいものだから使って欲しい」という気持ちで作っているけれど、残りはブームにのって儲けたいという会社でした。

私は前者のような会社は同業他社であっても積極的に応援したし、自ら紹介したりもしたんです。そうじゃないと私自身がマーケットを満たし切れないのもわかっていましたから。ただ、自分でこの人たちとやりたいと思えるもにしかそれはしない。そこは意地でもブレません」

 

自分のやりたいことを文章にしてみる

——起業に必要なことはどんなことでしょうか?

「なんでやるのか、をきっちりと始めに固めること。ブレストして、自分でキーワード書き出してみるとよくわかりますよ。そこにかぶっていることがあれば、それに対する想いが強いってことじゃないですか。

それをできれば1つの文章にした方がいいですね。私の場合は何度も言いますが「わが子に食べさせたいかを基準に食材を厳選する」。これが創業したときからある理念です。

これがあるとうまくいかないときもでも私はこれがやりたいんだって立ち返れるので、自分の背中を押せるキーワードになってくれます。あとは銀行からお金を借りることをなんとなく怖がらず、借りましょう。借りるって技術がいるし、チャレンジなんですよ。

必ず事業計画を出すことになるので、そこで数字にしてみると「わ、私こういうことをしようとしてるんだ」って明らかになる。今一度しっかり考える機会にもなるんです」

——荻野さんの座右の銘は?

「祖父が教えてくれたのは昔の故事『成せば成る,成さねばならぬ何事も。成らぬは人の為さぬなりけり』の最後を変えて私の場合は『成さぬは自己がなさぬなりけり!』できないのは自分がやらないだけでしょ! って感じですね。

祖父も地元で和菓子店を経営してたんですが、商売のなんたるかは祖父から教えてもらったところが大きいです。実は「ブラウンシュガーファースト」という社名も祖父の名前なんですよ。佐藤始だからシュガーファースト(笑)」

——そうだったんですね! おじいさまが教えてくれたこととは?

「商売の目的はゼロを増やすことよりも商売の内容でお客さんを幸せにすること。そしてそれで出た利益を地域に循環することですね。

久留米市はブリジストン創業の地としても有名な町なんですが、ブリジストンも儲かった分で美術館を立てたり、公園を整備したりしています。祖父も同じようなことをしてて。教えてもらったというより、還元するのは商売の役目というのが当たり前の環境の中で育ちました。

なので、私も久留米市にお店を出店したんです。これは久留米では少しういちゃうくらい超オシャレなお店で(笑)。地元のフルーツをジャムにして加工したり、それらを製品化して東京に発信するハブになればいいなと」

——路面店は東京にもありますよね?

「実は今、路面店も実は今月中(取材時:3月)に閉めようかなと思ってて。すごくいいお店だし、すごく美味しいんです。でも家賃が高いんですよ(笑)

でもニーズあるし、おいしいし……とモヤモヤしてたんですが、整理して考えたら「うちがお店を持たなくてもよくない?」と思って。カフェに下ろすとか、ITの社食に下ろすこともできているので、場所自体もシェアでいいじゃんって思ってるんです」

売り上げ規模を落とさず会社を縮小!

有機アガペシロップPURE 1,500円+税、GINGER 1,800円+税、LEMON 1,800円+税/ブラウンシュガーファースト カラダにやさしい低GI食品なのに、甘さはお砂糖の約1.3倍と甘みが強い。砂糖の代わりに。

——所有しているものを手放すことはとても怖いことじゃ有りませんか?

「とっても怖いです。でもやるって決めたのでやります。路面店に関しては、ずっともったいないなーとダラダラ続けているんですけど、私の中で腑に落ちないとこが常々あって。

最初は3年で100店舗にする勢いでオープンしたんですが、その考えは違ってたかなと。店舗をオープンしてお客さんに食べて頂いて、色んな意見をもらいながらお店いうものを経営した中で、3年で100店舗に卸していこうと考えが変わりました」

——場所と時間にとらわれない会社経営を。それはとても大きな舵取りですね。

「本当に。売り上げ規模を落とさず会社をぎゅっと小さくする。あり方としては共鳴しながらシェアしながら規模は保って固執しないというイメージです。

所有しないというのはけっこう腹決めしないとリスクをものすごく伴います。でもやると決めたので今年中にやりますよ!(笑)」

——成功を収めた起業家の方は豪邸に住んで、構想マンションでジャグジーに入って……そんなイメージでしたが、荻野さんは真逆ですね(笑)

「上を上を目指すときりがなくて永遠に幸せになれないと思うんです。例えば念願の車を買ったとします。それがベンツからポルシェになって、船になってプライベートジェット…って終わらないじゃないですか。

もっともっともっとという軸を追いかけるのは私はあまり幸せだと思いません。もちろんココナッツオイルブームでレバレッジかけるときはその勢いにぐんと賭けましたけど、今はそこを落ち着かせて、石づえを築くことに立ち返るときだと思っています。

10年20年きちんと繋がり合いながら、急拡大するんじゃなくて、じわじわと広げていくことにギアを変えたというか。それが今期のテーマですね」

 

荻野さんの原点・いまの自分を構成するもの

——荻野さんの愛読書を教えてください。

「本に影響される部分はありますね。例えば『もし世界が100人の村だったら』。これはぜひみんなに読んで欲しい1冊で、私も今でも迷ったら読み返しています。物をマクロ的に見るのはとても大事だなと思うんです。

どうしても周りばかりを見てしまうけど、もっと引いてみたらいかに自分はなんて幸せな環境で生きているんだろうって思う。お腹がすくこともなく、屋根のある温かい部屋で暮らしているのに、なんで文句言ってるんだろうって我に返してくれる一冊です。

あとは実存主義という考え方が私にはぴたっと来ていてカフカとかカミュとか「生きることに意味なんてないよ。ただ今があるだけ」という考えを眺めるのも好きです。本で言えばカフカの『変身』もオススメですね。

衝撃を受けた本で言えば20代のときに読んだオルダスハクスリーの『素晴らしい新世界』。

未来を予言してるので今の時代に読むと面白いと思います。今有る立場とか社会を違う角度から見えると思うし、今この生活の中で何を残したいんだっけ? という視点になるので、起業にもエナジーが湧いてくるというか、残したいものが明確になりますよ」

——荻野さんの役割を円グラフにすると?

「そうだなー、母としてが50%で女性(ひとりの人間)としてが25%。そして残りの25%が社長かな。

でもこれは現時点でのグラフで娘が大きくなったらまた変わると思います。元々は主婦、妻であると色々あったんですが、妻であることにモヤモヤしてたのでやめました(笑)」

——1人で娘さんと生きていくってすごい勇気だと思います。世の中には妻としての自分にモヤモヤしつつも旦那さんに依存してる女性も多いと思うんです。

「それは自分自身が0%だからじゃないかな。自分自信の幸せをちゃんと求めようと思ったら依存しないと思うんです。私は何より依存して生きることがつらいと思っていて。だってそれは自分自身の選択肢を失くすことだから。

短期的で見たらラクかもしれないけど、長い目でみたらどれだけ時間を無駄にしてるのって思いますね」

——モヤモヤしてるなら動いた方がいいと。

「もちろん! 何でもいいんですよ、スタートのきっかけは。もちろん目的をもって仕事をできたら幸せだと思うけど、依存からの脱却が目的でもいいじゃないですか。そう考えるだけで頭の中が変わってくる。

依存から解き放たれることでやりたいこととか、見える世界とか自分の前に現れる選択肢が全然変わってくるので、そこから意義とか目的を見つけるのでも遅くないです。バイトだっていいし、何だっていい。そんなとこにプライドなんていらないです」

——荻野さんはどんなお婆ちゃんになるんでしょうね。とってもパワフルな姿を想像してしまいます。

「80歳くらいのおばあちゃんになったら天体物理の勉強をしたいですね。放送大学に入ったときに「宇宙とその歴史」という授業が面白くて勉強し始めたんですけど、ある程度行くと数学の世界なんですよ。

なのでこれは今じゃなくていいやと後回しにしていて(笑)。老後ゆっくり時間が取れたらまた興味のあることをとことんやっていきたいですね」

■BROWN SUGAR 1ST.  公式サイト

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『1人で立ち上げた会社を年商7億円にまで急成長させた女社長』

取材前、荻野さんのイメージはビジネス感覚に優れたやり手のキャリウーマンでした。でも実際お話を伺うと自分の心に素直に動けるバイタリティに溢れた魅力的な女性でした。

「やりたいと思ったらやってみる」「居心地が悪かったら動いてみる」。シンプルなことですが、頭で先に考えて現状を変える勇気が持てない人が多いのではないでしょうか?

もちろん私もその1人。でも『最低限、幸せに行きていけるレベルを知っているから手放すことも怖くない』『上を上を望んでも幸せになれない』という荻野さんの言葉がモヤモヤしている人の背中を押してくれる気がします。

「動けばそこから自分の取り巻く世界は変わる」。そのためにも今一度、自分のやりたいこと、立ち返る場所を見直したいと思ったインタビューでした。

 

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