丁寧なつもりで微妙に失礼な「ございますか?」の使い方って
「いらっしゃいます」という便利な言葉があります。相手の行動などに付けて尊敬の意味を持たせられますよね。
「いらっしゃる」は、「来る」「行く」「居る」「ある」の尊敬語なのです。
まずは「いらっしゃいます」について
通常の文と比較する形で例を示してみますね。
「来る」の尊敬語として
- 通常「何時に来る?」
- 尊敬「何時にいらっしゃいますか?」
「行く」の尊敬語として
- 通常「この前の休みはどこに行った?」
- 尊敬「この前のお休みはどちらにいらっしゃいましたか?」
「居る」の尊敬語として
- 通常「今、どこにいるの?」
- 尊敬「今、どちらにいらっしゃいますか?」
「ある」の尊敬語として
- 通常「大学の先生である方が……」
- 尊敬「大学の先生でいらっしゃる方が……」
つぎに「ございます」について
「ございます」は「ある」の丁寧語です。
- 通常「手元に資料がある。」
- 丁寧「手元に資料がございます。」
例えば「カバン」について考えてみます。
「~である」を「~でございます」とし、例えばこのように言いますよね。
- こちらは、お客様のカバンでございますか?
ところがです、これが住まいのことや、家族のこととなると、少し違和感が出てきます。
- あちらに見えるのは、奥様でございますか?
- 〇〇様のお住まいはどちらでございますか?
「ございます」は「ある」の丁寧語なので、この言い方は文法的に間違いではありません。
しかし、このように言った方がスマートな気がします。
- あちらに見えるのは、奥様でいらっしゃいますか?
- 〇〇様のお住まいはどちらでいらっしゃいますか?
どうして家族とカバンは違うのか
住まいや、家族には、丁寧語より尊敬語を使用する。同じ相手の所有物に該当するものなのに、カバンとは差があります。なぜなのでしょう?
言語学者の角田太作氏の説によると、これらは所有者敬語といい、所有傾斜と言われる、いわゆるランクがあるとのことです。
身体部分 > 属性 > 衣類 > (親族) > 愛玩動物 > 生産物(作品) > その他の所有物
身体部分
「ほぼ相手そのもの」として表現します。
例
△体が丈夫でございますね。
〇体が丈夫でいらっしゃいますね。
属性
会社や出身などがこちらに分類されます。
例
△先生は、どちらの出身でございますか?
〇先生は、どちらの出身でいらっしゃいますか?
衣類
相手の所有物である上に、相手のセンスで選んだものというイメージが強いようです。
例
△すてきなお召し物でございますね。
〇すてきなお召し物でいらっしゃいますね。
親族
既出の「奥様」や「お子さん」などが入ります。この辺りも敬語を使うゾーンですね。
例
△お子様の大学は、どちらでございますか?
〇お子様の大学は、どちらでいらっしゃいますか?
次は「愛玩動物」ですが、これは色々な意見がありそうです。
しかし、ペットを飼っている以上、先方が「家族同然」だと思っている場合が確実に多いので、相手への尊敬が強いほど、ペットにも敬語を使うのが良いでしょう。ただし、この辺りになってくると、相手との距離感によって言葉が大きく変わります。
例
〇可愛い犬でございますね。
〇可愛い犬でいらっしゃいますね。
先に紹介した文献によると、ここで敬語表現を使うことは、もう、おかしな領域に入るとのこと。
確かに、今はもっと自然に「可愛い犬ですね」とも言いますよね。
その次が作品です。
〇先生の最新作は素晴しいできばえでございますね。
△先生の最新作は素晴しいできばえでいらっしゃいますね。
だんだんと「いらっしゃいます」の不自然さが際だってきました。
最後に「その他の所有物」です。
そうです「カバン」はここに入るのです。
なので「いらっしゃいます」を使うのはおかしく感じるのです。
例
〇「こちらは、お客様のカバンでございますか?」
×「こちらは、お客様のカバンでいらっしゃいますか?」
相手はもちろん、相手の体に近いものほど「いらっしゃいます」を使うようにしましょう。
そして、相手に対する尊敬の念を「強く」表さなければいけないようなシーンでは、物品以外には「いらっしゃいます」を付けた方が無難です。ただし、連発使用はくどいので避けましょう。
参考文献
角田太作/Tsunoda, Tasaku. Fortcoming-a.所有者敬語と所有傾斜。土田滋,上野善道,山田進(編),国広哲弥教授退官記念論文集「文法と意味の間」。東京:くろしお。
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