どんな人生をチョイスした社員にも寄り添える働き方へ【ビーバイ・イー代表取締役社長 杉谷惠美さん後編】
自分らしく、自由に、自立して生きる女性をクローズアップ。センセーショナルな売れ方をした『ママバター』の生みの親、ビーバイ・イーの代表取締役社長、杉谷惠美さん。
前編では起業するきっかけ、ママバターの誕生秘話からブレイクまでのお話をお伺いしました。
この後編では、『シンシア・ガーデン』の開業のお話、そして母と社長との両立。さらに会社の働き方方改革についてお伺いします。
【ビーバイ・イー代表取締役社長 杉谷惠美さん後編】
ナチュラルライフを体験できるお店を作りたい!
——『シンシア・ガーデン』の構想はいつからあったんですか?
「『ママバター』を作り始めたときからありました。作った製品をはじめ、世界から集めたナチュラル製品を実際に手に取って、体感してもらえる場所が欲しかったんです。
コスメだけでなく、ナチュラル製品を使ったスパを体験してもらったり、食事ができたり。その人なりのナチュラルライフを体感できるお店にしたいと思っていました」
——ライフスタイルショップの先駆けとも言われてますよね
「ありがたいですね。オープンしたのは12年前。ここにしかないもの、ここにしかない空気を創りたいと思っていました。
なので、カフェをベジタリアンにしたのもそのひとつ。当時はまだベジタリアンフードは珍しかったので、もっと気軽に体験してほしかったんです。
どんな人にも寄り添える場所でありたい
ーースパも本格的なものから、10分1,335円のクイックマッサージまで幅がありますよね
「はい。これもどんな人にも寄り添えるプロダクトとホスピタリティのある場所にしたいという想いからです。
シンシア・ガーデンのオープン当時、私にはまだ子供がいなくて、当時の趣味は『アロマキャンドルを焚いたお風呂にゆっくりつかること』でした。それが子供が生まれたらどうでしょう!
お風呂どころかシャワーを浴びるのも一苦労。鏡見る時間さえないんですから(笑)。そうやって女性ってライフステージが変わるじゃないですか。
だから、ゆっくりリラックスしたい人、手軽にスキンケアした人、その時々のタイミングにベストな方法を提案できる場所でありたいんです。例えばクイックマッサージの時間もとれない方にはホームケアアイテムをご紹介したり。
『シンシア・ガーデンはいつでもここにあるから、いつでも来て下さい』というお店になればいいなと思っています。
100年後に安心で安全なものを残す
——杉谷さんは二児のお母さんでもありますよね。母になられて仕事への向き合い方はかわりましたか?
「子供の視界から世界を見るようになりました。この子達が口にしているものは果たして安全なんだろうか?
そんな想いから立ち上げたのが植物性100%のオリジナル食品ブランド『ベジキッチン』です。
私がひとりなら健康なこと、気持ちいいことを追求したと思うのですが、子供ができてからは日本の未来に何を残せるかを考えながら仕事するようになりました。
子供たちはこれから私が見ることのない景色を何世代にも渡ってみて行くわけじゃないですか。そう考えたら100年後に安心安全を残せる仕事をしたいと。それが会社理念にもなりましたね。
——ブレない軸ができたんですね
「はい。新しい商品を作るときや、プロジェクトを立ち上げるとき。社内で「やる?やらない??」と迷ったときは『100年後に安心安全を残せるか』を基準に考えます。
その理念にハマるならやるし、ハマらなかったらやりません」
仕事にも家庭にも「ごめんなさい」という気持ちはもたない
——プライベートと仕事の両立はどうされてるのですか?
「仕事のときは仕事のときだけ考えて、家にいるときだけ子育てことだけを考えるようにしています。私の中で決めているルールが「仕事をしていてこの子達に申し訳ない」という気持ちを持たないこと。
家に帰って「あぁ、疲れた」とため息をつくことも絶対にしません。ママにとって仕事は疲れるものだと思って欲しくないからです。逆に家庭の事情で仕事を速く切り上げて帰り、スタッフに迷惑をかけることもあります。
そのときは感謝はするけれど、申し訳ないと思わない。スタッフにもそう思ってもらいたいんです。スタッフ、家族どちらの協力なしには仕事は成り立たないので、みんなで協力し合えればいいなと」
どんなチョイスをした社員にも寄り添える会社に
「うちの会社には妊活真っ只中の社員もいれば、子育て真っ最中の社員もいます。もちろん、産まないという選択をした人もいる。
それに女性だけが子育てをすればいいと思っていないので、例えばうちの男性社員の子供の具合が悪くなった時、共働きなのであれば率先して早退してお迎えに行って欲しいと思っています。
病気や障害を持った子供を持つスタッフには個人としても社会としてもどうしたら輝いて働けるかを一緒に考えたり、どんなチョイスをした社員にとっても寄り添える会社でありたいと思っています」
——それが杉谷さんの働き方改革でもあるんでしょうか?
「そうですね。うちの会社に決まり事がないです。例えば子どもの就学を控えた社員に、時短勤務はいつまでですか? とか聞かれても、ルールも数値化もしていないのでそのとき決めるようにしています。
それは子供は小学生になったらラクになる、なんて絶対ないから。例えば小学校高学年のお子さんを持つスタッフがいるんですが、そのお子さんが野球チームに入ってるんですよ」
——少年野球ですか。お母さんの出番多いですね。
「そうなんです。お弁当作りから試合の応援、帰ったら泥だらけのユニフォームのお洗濯。もう完全に仕事ですよ(笑)。それでも彼女は仕事をやめたくない。でも働けないんじゃないかと不安に思ってるんですね。
だったらどうしたら働けるかを一緒に考えればいいんです。もし彼女が辞めたいのであれば答えはそれしかないけれど、働きたいのに時間がないという悩みなのであれば、限られた時間でできる仕事を考えればいい。
それがうちの会社のスタンスです」
会社にもお店にもマニュアルは作らない
——マニュアルがないんですね
「マニュアルを作ってしまうと、それに当てはまらないことが必ず出てくるじゃないですか。小学校に入学すればラクかと思えば、受験やそれに伴う塾の送迎があったり。子育てに限らず、親の介護をしなきゃいけない時も来る。
社員が100人いれば100通りの人生があるからマニュアルで一括できるわけないし、逆にマニュアルを作ってしまうとその中でしか動けなくなってしまう。だから困ったことが起こったら、その時々に私と相談する。それがうちの会社です。
それは『シンシア・ガーデン』のお店でも同じこと。マニュアルを作ってしまうとお客様のニーズに当てはまらないことが出て来てしまう。お客様ファーストであるためにもマニュアルは作らないと最初から決めていました」
——今、社員数は子会社を含め、100名ほどとお聞きしました。その社員全員と相談ですか??
「そうなんです、私相談ばっかりしてるんですよ(笑)。でも会社が大きくなればなるほどそれが難しくなるので、それを実現できる範囲の会社にしていきたいという思いはありますね。
それと同時にこれからは私以外にも相談出来る人を増やして行かなければいけないと思っています。働き方改革なんて言えないですけど核となる部分ですね」
想いがなければ続かない
——杉谷さんが考える起業に必要なものとは何でしょう?
「気持ちだけじゃないですか。そこに想いがなければ、好きなことじゃなければ続かないと思うんです。会社ができました、売り上げが10億になりました、100億になりましたって、それは私にしたらマルの世界でただの数字。
なんの目標にもなりません。利益を出すのはとても大事ですが、それ以上に必要なのは自分が本当に好きなこと、やりたいことを貫く熱意。それがないと壁に打ちあたったときに背を向けてしまうと思うんです」
——失敗したら…という怖さはなかったんですか?
「ないですね。だって考えたら何もできないじゃないですか。その考えは持ったことがないです。私、やりたいことがあるのに挑戦しないといことの方がよっぽど不幸だと思っていて。
自分で自分の限界を決めたり、ここまでって線を引いてしまうのはもったいないじゃないですか」
——杉谷さんは子供の頃から積極的に動くタイプだったんですか?
「どうでしょう…。普通の女のコだったと思いますよ。将来の夢はお花屋さんやケーキ屋さんだったし。でもやりたいと思ったことは全部やらせてもらってきました。両親が私に対してダメということが一切なかったんです。
だから興味を持ったこと全てチャレンジさせてもらえた。その環境はとても恵まれていたと思うし、私の可能性や選択の幅を増やしてくれたと思いますね」
——ご両親からの進路や就職について意見されたことは?
「ないですね(笑)。でも父が唯一私に言ったのは『海外に出て勉強した方がいい』ということ。父は趣味で熱帯魚を飼っていたのですが、その熱帯魚は成長に合わせて水槽を大きくしなきゃいけなくて。
それと同じで広いところを見ないと広い視野を持てないと教えてくれたんです」
——実際、海外には?
「それが、当時は目先の楽しいことに夢中になってしまって行かなかったんですよ。今になって父の言っていた意味が理解できるようになって。人生の中で後悔していることのひとつですね」
途中で諦めるくらいなら起業しない方がいい
——これから起業を考えている女性にアドバイスをいただけますか?
「私ができるんだから、誰でもできると思います。ただ経営者って決してラクな仕事じゃありません。自分のやりたいことを自分で決められる楽しさもあるけれど、その分背負って来たリスクも含め大変なことは山ほどあります。
だからみんなに勧められるかと聞かれたら正直、いいえ。だからこそ本当にやりたいこと、強い信念がないと挫折してしまうと思うんです。
自分に賛同してくれる人に出会えるまで動ける熱意はあるのか。もしそこで考えてしまうようなら、辞めた方がいいかもしれませんね」
——信念以外に大切なことは?
「何よりも人を大切にすること。一緒に働く人、家族、出会う人すべてを大切にしていれば、必ず大事なタイミングで助けてくれる人が現れる。
今私は40を超えて、ここからグイグイと営業に行って事業を拡大しようというパワーはないけれど、レストランやヘアサロンへ事業が拡大できたのは、これまで知り合った人とのご縁。導かれるように新しいプロジェクトが始まったりするんです。
私の座右の銘は『行雲流水』。これからも色んなことに逆らわずに、自然に身を任せて行きたいですね」
——杉谷さんはやりたいことが明確で羨ましいです。40歳になると、自分の人生がある程度見えてしまうというか…
「やりたいことが見つからないと思うのであれば、もう一度広い世界に行ってみてもいいと思います。私がそうなんですが、とりあえず気になることがあったら行ってみる、やってみる。
それだけでもう新しい世界の扉って開く思うんですよね。そこには初めての経験、新しい交友関係や友人を作るきっかけがあるんですから、動くって大事だと思います」
——杉谷さんの愛読書を教えて下さい。
「昔から渡辺和子さんの本が好きで読みあさってます(笑)。とくに好きなのは『愛をこめて生きる』。大切なのは愛だけだよっていうお話なんですが、本当にそれが何より大事だと思っていて。
私はひとつの行動や発言をするとき、ただやるだけならしなくてもいいと思ってるんです。その言動にどれだけ愛情を込められるか、それで自分を取り巻く世界は大きく変わると思うんですよね」
——最後に杉谷さんが60歳、70歳になったとき。何をしていたいですか?
「そうですね、数字と向き合う経営職の仕事は次の世代にバトンタッチしてたいですね。それで循環型の社会を作れる何かを利益とかを考えずにやってみたいです」
「お婆ちゃんになっても働いていたいんですね」と言うと、「働いてるという感覚がないんだと思います」と杉谷さん。これまでキツいこと、つらいこともたくさんあったけど、それ以上に幸せや喜びの方が勝ってるから続けられると笑ったお顔が印象的でした。
(取材・文/根本聡子)
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