なぜ、市(宮崎あおい)は悲しき決断を下したのか。侍と周囲の人々が抱いたであろう「別の世に生まれていれば……」という葛藤と侍の流儀【NHK大河『豊臣兄弟!』17話】
*TOP画像/長政(中島歩) 市(宮崎あおい) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』17話(5月3日放送)より(C)NHK
戦国時代のど真ん中を舞台にした『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)の主人公は仲野太賀が演じる豊臣秀長。兄弟の絆で“天下統一”という偉業を成し遂げた豊臣兄弟の奇跡を描いた大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)の第17話が5月3日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。
武田信玄は突然死したが……
本放送回では、“甲斐の虎(かいのとら)”という異名で知られる武田信玄(髙嶋政伸)が初登場しました。

武田信玄(髙嶋政伸)ほか 大河ドラマ『豊臣兄弟!』17話(5月3日放送)より(C)NHK
信玄は徳川家康(松下洸平)と三方ヶ原(みかたがはら)で激突し、織田派に恐れを抱かせたものの、餅を食べて急逝。餅に毒が混入していたと考える者もいたものの、毒を恐れて自ら餅をつくという徹底ぶりでした。信玄の遺体を発見した家臣は仲間の家臣をその場で殺害し、信玄の死を隠蔽。そして、「すまぬ。まだ御屋形様には 生きていただかねばならぬのじゃ」と呟いていました。今後、信玄に成りすました何者かが登場するのだろうか……。ちなみに、史実では武田信玄は三方ヶ原の戦いで徳川家康を破った直後、進軍中に病に倒れて亡くなりました。病による死と一般的に考えられています。
信長は朝倉・浅井に再び立ち向かう。義景の恐ろしい決断
織田信長(小栗旬)は「待たせたのう 長政」「すぐに楽にしてやる」とうっすらと笑みを浮かべてつぶやき、朝倉・浅井攻めの総仕上げに取り掛かりました。信長は「天が 我らに味方したのじゃ」と述べていたように、今回の朝倉・浅井攻めでは信長が優勢になります。
朝倉義景(鶴見辰吾)は浅井長政(中島歩)らに先陣を攻めさせ、自分たちは信長が弱ったところを狙って参戦しようと画策。しかし、事は思惑通りには進みませんでした。大嶽砦(おおずくじょう)が落とされ、丁野砦(ようのとりで)からも火の手が上がり、味方までもが信長に寝返る最悪の事態となりました。義景は一乗谷を出るべきではなかったと深く悔やみ、撤退を決意します。斎藤龍興(濱田龍臣)が「それこそが 敵のねらい。これは罠じゃ」と忠告するものの聞き入れず、結局は竹中半兵衛(菅田将暉)の思惑通りに動き、背後から攻められました。
「わしは そこで 民や家臣たちと共に 穏やかに生きていければ それで よかったのだ…。わしは…戦など嫌いじゃ。生まれるべき世を間違えたのう」これは窮地に追い込まれた義景の言葉ですが、戦国武将の苦しみが滲み出ています。“民や家臣と共に穏やかに生きていられたらよい”という思いは、立場を問わず多くの人が抱く思い……。この思いを現実のものにするためにも戦うわけですが、戦は激化し、状況は悪化するばかり。
そんな義景が下した決断は、家臣や民が暮らす一乗谷に火を放つよう命じることでした。「信長に奪われるくらいなら この手で滅ぼしてくれる」と口にしていたように、信長の兵に慰みを与えるくらいなら、自分の手で仲間を楽にしてやるほうがましだと考えたのです。また、信長に何一つ与えたくないという強い意地もあったのでしょう。一乗谷の民は自分の行く末を自ら決めることは許されませんでした。それでも、彼らにとって主君の手で殺されるのと、敵の攻撃を受けながらも生き延びる道を模索するのとでは、どちらが幸せなのか、ふと考えてしまいました。
信長と長政の絆
長政の父・久政(榎木孝明)が自害した頃、小一郎(仲野太賀)と藤吉郎(池松壮亮)、そして家臣らは市(宮崎あおい)の救出を信長に願い出ました。小一郎と藤吉郎は長政と市を迎えに行き、「殿は お二人とお子たち 皆 お連れしてまいれと仰せです」と、二人に伝えます。小一郎が「我が殿も お分かりでございます。浅井様の寝返りは お市様をお守りするためだということを」と告げていたように、信長は長政の意図を汲み取っていたのです。長政は父や家臣に折れて、信長を裏切ったわけではなく、人質として我が妻になった市を守るために、信長を裏切ったのです。
前にも述べましたが、信長は「待たせたのう 長政」「すぐに楽にしてやる」と参戦前につぶやいていました。この言葉は長政への憎しみからすぐに殺してやると意気込んでいるのかと思いきや、長政の複雑な立場を察した愛情のこもった言葉だと思い直しました。信長が長政にしてやれるのは、彼を苦しみから解放してあげることくらいだから……。
長政は信長を裏切った理由を明かしたあともなお、亡くなった万福丸のところへ行くためにも、自分はこの世を去ると言い張ります。また、“天下が欲しい”と少しでも思った自分は義兄である信長と市を裏切ったとし、信長の好意に甘えるわけにはいかないと考えてもいました。小一郎は「何で わざわざ 自ら死なねばならんのじゃ!侍の誇りが何じゃ!そんなものは捨てて 生きたくても生きられなかった者のために 生きてくだされ!」と、長政を懸命に説得していました。戦の傷で早くに亡くなった父、幸せの絶頂期でこの世を去った直(白石聖)、戦で不本意にも命を失った仲間の兵の思いを背負って生きている小一郎だからこそ、当時の常識に反し、こうした言葉が出たのだと思います。
現代人の多くは“生きていることが何よりも大切”で、どんなに無様でも生きてさえいればよいと思うでしょう……。とはいえ、「わしと お主…。どちらが正しいか 答えなどない」と長政が認めているように、人の価値観はそれぞれであり、時代を問わず誰かが正しい答えを決められる問題ではありません。
長政は信長との相撲を思い出し、小一郎と藤吉郎が自分に勝ったら生きると決めました。そして、小一郎と藤吉郎と取っ組み合いながら、信長との相撲を思い出し、信長の存在を肌で感じていました。

長政(中島歩) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』17話(5月3日放送)より(C)NHK

小一郎(仲野太賀) 藤吉郎(池松壮亮) 長政(中島歩) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』17話(5月3日放送)より(C)NHK
長政は相撲が強くなかったはずなのに、小一郎と藤吉郎は彼を打ち負かせませんでした。長政の胸中ではすでに死の覚悟が固まっており、その勝利は彼が自ら受け入れた運命を象徴しているかのようでした。
長政を愛するゆえの、市の悲しき決断
長政は「これを 茶々たちに」と、市にお手製のお守りを渡しました。そして、「そなたのような よき姫に育ててやってくれ」と、我が子を託します。

お守り 大河ドラマ『豊臣兄弟!』17話(5月3日放送)より(C)NHK
市には「いつまでも そなたらしく 強く生きてくれ」「そんな そなたが 大好きであった」と、愛の言葉を贈りました。市は長政のもとを小一郎らとともに去りますが、長政との別れがつらく、現実を受け入れられません。そんな市を励ましたのが、小一郎と藤吉郎でした。小一郎と藤吉郎はかつて約束した話の続きをしました。話のあらましは以下になります。
「大男は湖の水を全て飲み干し、おぼれていた娘を助けた。大好きな娘を抱きしめようとしたが、膨れたお腹で抱きしめられず、「針を刺して」と頼む。娘が断ると、大男は娘を抱きしめたくて自ら針を刺した。お腹から鉄砲水のように水が噴き出し、空に昇っていった。そして月となって、その娘を優しく見守るようになった。」
市はこの話を聞き終え、「私はいつも思うておった。兄上が太陽なら…。殿は月のようじゃと」と、涙ながらに胸の内を明かしました。そして市は、小一郎から刀を借り、自死を試みたものの死にきれずにいる長政に、最後の一撃を加えました。「いつまでも あなた様をお慕いしておりまする」と想いを伝え、刀を振り上げるその場面は悲痛で、二人の運命の残酷さを痛感しました。

長政(中島歩) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』17話(5月3日放送)より(C)NHK

市(宮崎あおい) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』17話(5月3日放送)より(C)NHK
生きる道も残されていたのに、自ら死を選ばざるを得ず、愛する女性に自らを殺してもらうことになった長政。自分を守り、愛してくれた男性を自らの手で殺すことを選択した市。そして、市の決断を受け入れ、刀を貸した小一郎。
長政の勇ましい決断は侍の流儀だったとはいえ、現代人から見るとやはり悲しいもの。遠い過去の人たちの価値観のようにも思えますが、現代においても戦が起これば、こうした流儀は再び現実のものになるはずです。
本記事では、『豊臣兄弟!』17話で描かれた、長政の最期と市の決断、見守る小一郎からみる戦国時代の侍の流儀についてお伝えしました。
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