「誰かのぬくもりを求めていいですか?」アラフォー恋愛事情・40歳夏海の場合3

2016.11.15 LOVE

 

 

彼のぬくもりに、私の左手が包まれていく。

なんだかほっとして、なぜだか涙が溢れそうになった。

 

「バカだな」

つないだ手を彼が優しく前後に振る。

「もっと早く、こうしたいって、言えば良かったのに。いくらでも、つないであげたのに」

「うん……」

 

もしかしたらずっと、私はこうだったのかもしれない。

遠い昔、離れていった恋人に、行かないで、そばにいて、と言えていたら、もしかしたら、その人と今、手をつないでいられたのかも、しれないのに……。

 

スタッフがヒカリくんに近づいてきて、そっと耳打ちしている。

彼が残念そうな顔で私を上目づかいに見て、もう時間なんだって、と言う。

「このまま飲み続けることもできるよ? 別料金になるけど、どうする?」

どうする? と聞いたその瞬間、彼がぎゅっと、私の手を握る。

 

一瞬迷ったけれど、帰ることにした。

ヒカリくんは私をドアの外に送り出すと、優しくふわっとハグしてくれた。

さっき、他の女性客にしたのと、同じように。

 

また、彼に会いに行くかどうか、それは、わからない。

目の前に広がった繁華街を、私はひとりで歩き始めた。

彼の残り香が優しく私を包んでいる。

あんなに近くにいたから、香りが移ったのかもしれない。

 

寂しくなったら、行けるところがある。

ぬくもりを与えてくれる人がいる。

今の私には、もう、それで、充分だった。

きっと明日からも、頑張っていけると思う。

私ひとりで……。

 

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