小学校受験に挑んだワーママが直面した「お教室地獄」、まさか東京をタクシーで移動しつづける日々になるとは

2026.09.16 LIFE

首都圏では、いまや2月の一大イベントともいえる中学受験。首都圏模試センターによると、2026年度入試の私立・国立中学受験者数は52,050人(前年比99.5%)にのぼり、過去40年で4番目の多さとなりました。

 

国内の精密機器メーカー勤務の奈央さん(仮名:46)は、中学2年生の長男と小学5年生の長女を持つワンオペママ。目下、長女の中学受験伴走中です。

 

そして14歳の長男は、小学校受験をして伝統ある大学系列のA大学付属小学校に入学しましたが、母親である奈央さんは小学校受験の過酷さでメンタルを壊し、一時期は不眠に苦しむ事態に。

 

娘は小学校受験を選ばず公立小学校に通っていますが、中学受験でも「雰囲気が良ければ伝統も偏差値もどうでもいい、ゆる中学受験に挑戦しています」と話しています。そして「あれはかなり辛かった」という、過去の小学校受験体験について振り返ってくれました。

 

【どうする?小学校受験と中学校受験】#16

 

「中学からでよくない?」小学校受験事情を知らないママに転機が

画像:首都圏模試センター提供 クリックで拡大

 

「我が家は、夫が海外転勤の多い仕事なんです。でも長女は小さいころから体が弱く、慣れた環境で子育てをしたかったので、都内の夫の実家に隣接した土地に家を建てました。義父母はいますが高齢なので、夫の赴任中は私がほぼワンオペ状態です」

 

奈央さんの夫の直之さん(仮名:49)は外資系広告代理店に勤務しており、長男の小学校受験のころは中国、今はアメリカに赴任しているそうです。

 

「長男のNを小学校受験させるかどうかを考え始めたのは、保育園から転園して夫の出身幼稚園に入れたあたりから。地域に根ざしたキリスト教の幼稚園で、小学校受験が盛んでした。さらに、義父、夫も別の学校ですが小学校から私立に入っており、義両親もやんわり小学校受験を勧めてきたんです」

 

奈央さん自身は、中学受験で「女子教育の老舗で質実なイメージの女子校」に入り、指定校推薦でミッション系女子大学に進んだ経歴。

 

「中学受験の経験はありますが、小学校のころはそれこそ親の転勤もあり、公立でした。さらに埼玉出身なので東京の小学校受験なんてチンプンカンプン。『中学からでよくない?』と思った矢先に、夫の中国赴任が決まってしまいました」

 

夫の中国赴任が決まり「帯同か、小学校受験か」で揺れて選んだのは受験

赴任期間は「4年以上」と聞かされた奈央さん。

 

「夫は、妻から見ても仕事はできますが、生活面では天然というか抜けているところがある性格。義理の両親はそんな息子を心配して、『家族で一緒に行けばいいんじゃない。向こうにいい学校もあるんでしょ』と帯同を勧めてきました。でも、娘には食物アレルギーがあり、私も子供のころから虚弱体質。小児科の病院事情などを調べつつ、言葉にも不安があり気が進みませんでした。夫本人も『どっちでもいい。一人暮らし、したことないから来ないなら来ないでいい経験ではあるのかな』と、単独赴任もやぶさかではない本音を漏らしていました」

 

そんなときにふと思い出したのが、義両親が以前、暗に勧めてきた「5歳になる長男の小学校受験」。

 

「両天秤にかけて、いろいろ悩みました。中国に行けばラグジュアリーホテルのレジデンス住まいで、子供の外国語教育にも良さそう。夫のことだって、もちろん心配です。でも、逆に考えたら家事をしないホテル住まいだからこそ、夫は1人で安心して送り出せる。そう思って『帯同も考えましたが、Nちゃんの受験を優先しようと思いまして、じつはA大学付属小学校や、B学院小学校も考えています』と義両親に打ち明けました」

 

義両親は「それなら話は別だ!」と中国行きを勧めるのをやめ、とくにA大学付属小学校出身の義父は、金銭的な援助まで申し出てくれたそうです。

 

「育休中だし義両親もいるし」と思っていたが…入ってみないとわからなかった「移動」の量

うまくやった、と思ったのもつかの間、奈央さんには「慣れない小学校受験の洗礼」が待ち受けていました。

 

「当時は義理の祖父母も今より若かったですし私も育児休暇中。『送迎を頼んで、下の子の子育てとバランスをとればいいや』と思っていました。でも、予想とは違い、免許を返納した義理の両親にはとても丸投げできませんでした。『親子で東京を飛び回る』日々と、『援助を受けてもなお飛んでいくお金』に追われて焦る日々が到来しました」

 

いくつかの幼児教室を見学して、「私は小学校受験をよく知らない身だし、ここは王道で」と、近隣の有名幼児教室「J」を選んだ奈央さん。

 

「最初は『はいはい、ネイビーのワンピースね』みたいに、形から入って『できてるつもり』でした。育休中でしたし、長女を保育園に預けたら、義両親に送り迎えを頼む気満々で。でも、入ってみて想像以上に『教室から教室』の移動が多いことに気がついて、プチパニックになりました」

 

奈央さんは入会前にもパンフレットなどは読んだそうですが、書類関連の作業を得意とする夫が中国におり、下の子のお世話の忙しさも相まって、「大手なら大丈夫だろう。最悪キッズシッターを頼めば」と見切り発車で入会してしまったそうです。

 

「えっ、教室1つじゃ済まないの?」志望校別の対策クラスをタクシーで移動する生活に

「Jは、例えば中学受験のように『近所の教室に通って、そこで全部の学校対策をする塾』ではありませんでした。教室ごとに、それぞれ主に対策する学校が決まっているんです。

 

まず、普段通っている所属教室で、基礎となる『大学でいう教養科目』みたいなクラスを受講。さらに、年長クラス以降は志望校に特化した『学校別』のクラスを、その学校を担当する教室で受講します。さらには学校別に加えて、絵画を重視する学校向けの絵画クラス、集団行動を重視する学校向けの特訓クラスなどを組み合わせていき……」

 

所属教室が志望校の担当教室なら、すべて同じ場所で済みますが、奈央さんにはいくつか受けたい学校があり、単願ではなかったとのこと。

 

「私は大田区なので、田園調布教室だけなら義父母でも徒歩で送迎できます。でも、その教室ですべての志望校対策ができるわけではありません。例えば田園調布なら、近隣のミッションスクールなどを中心に特定の学校に特化した対策をしている。別の学校を受けたければ、別の教室にも行くことになるんです」

 

小学校受験でも中学校受験でも、複数校を受験する家庭は珍しくありません。

 

「つまり、私が『距離の近い、義父出身校』『挑戦校の夫出身校』『滑り止めの郊外の自由な学校』などを3つ受けたいと思えば、『土曜日の午前は田園調布教室、午後は目白教室、月曜日夕方は桜新町教室』に行くことになります。こういうときにドライバーとして役に立ってくれる夫は日本におらず、義理の両親は免許返納済み。歩いて行ける田園調布教室しか送迎はできません」

 

シッターに送迎を頼めば済むと思っていたのに、親も授業を参観して「伴走」を求められるとは

下の子の都合がつかない日は、義母に送迎や付き添いを頼むこともあったという奈央さん。とはいえ、ただ送り届ければ終わりではありません。Jでは親も教室の後列に着席して授業をじっと見守り、先生の話を聞き、その日できなかったことを家に持ち帰って対策することを要求されたのだそう。てっきり子どもを塾に預ければあとは勉強を進めてくれるものと思っていたため、これも誤算でした。

 

「他のお母さんがたといっしょにかたずをのんで見守る授業は、緊張感のあるものでした。でも、『あれ? この暮らしは私には厳しいかも?』と思ったときはもう、私も子供もJに慣れ、先生にも頼るようになっていました。私はペーパードライバーだったので、ペーパードライバー講習まで受けて東京を車で移動しようとしたのですが……。何度か近隣の教室に送ったときに、壁にミラーを当ててしまいました。これは子供の命がかかっていると我に返って、それからはずっとタクシーになりました」

 

かわいいさかりの下の子を保育園と義実家に預けて、小学校受験のためにタクシーで移動する日々。さらに、授業で並外れて利発な子供と平均的な我が子との差を目の当たりにしなくてはいけない状況に、メンタルが削られた奈央さん。

 

「すごく優秀なお子さんは、幼稚園にも保育園にもいました。でも幼稚園と違い、目の前で『差』が強く可視化されることが続くと、ボディーブローのように効いてきます。令和ですから先生方も『一喜一憂する必要はないです。子供は伸びしろの塊です』と言ってくれましたが、手先が不器用でリズム感のない我が子が、おどおどしながら踊る姿が不憫で不憫で」

 

恵まれていることに気が付かず、自分にないものばかりに目を向けて頭痛に悩んだ塾通いの日々

自身の決断を後悔し「中国に行きたくないというエゴによる教育虐待をしたのではないか」と追い詰め、「嫌ならやめてもいいんだよ」とN君に何度も聞いたという奈央さん。

 

「長男は調子に乗りすぎるところがありますが基本は人懐っこくJの先生も好きで、義両親も明るい前向きな人。恵まれているのに、自分にないものばかりがクローズアップされて見えました。ママ友の持つ自分にないもの……。受験に協力的で日本に住むパパ。利発で品が良くリズム感のあるスーパーキッズ。そして、育休中でもなくバリバリ働いているのに、伴走を笑顔でこなす、若く美しいママ。そんな人を横目で見て、眉間のあたりがズキズキ痛む日々でした」

 

しかし「J」の先生に懐いているN君は「しつこいよママ。やめない。やるときはやるー」と、受験中止の決定打になる言葉はくれませんでした。さらに、下の子であるYちゃんは土曜保育が増え、爪噛みもひどくなったそう。

 

「下の子が『さいきん、ゆっちゃん(下の子のあだ名)のママはばあばみたい』と無邪気に言って、私のことは『おかあさん』で、義母は『ママちゃん』と呼び始めたんです。もう、すぐにでも投げ出したい気持ちになりました。でも長男本人はもう、Jを第二の幼稚園くらいに思い始めていました。そんなタイミングで間の悪いことに夫が一時帰国して『まだやってたんだ、小学校受験』と他人事だったときは、虚しくて虚しくて、夫婦喧嘩で涙を流しまして。親の私も、できれば爪を噛みたい、唇を噛む思いでした」

 

本作は取材に基づいたストーリーですが、プライバシーの観点から、個人が特定されないよう随時事実内容に脚色を加えています。

つづき>>>小学校受験で憧れの有名伝統校に入学するも、公園で一人うずくまった息子。「外こもり」を経て中学で見つけた居場所【後編】

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