過熱する「フェムテック・ブーム」これでいいのか?展示会パイオニアが「その名を思い切って捨てた」深すぎる理由
2月8日(水)から10日(金)まで東京ビッグサイトで「健康博覧会」と併催される「ジェンダード・イノベーションEXPO」。女性ヘルスケア市場に特化したシンクタンクカンパニー「ウーマンズ」と、世界最大B2Bイベント主催企業の日本ブランチ「インフォーマ マーケッツ ジャパン」がタッグを組んで実施する展示会です。
2022年2月、2社の初タイアップとして開催された際のイベントタイトルは「フェムテックゾーン」でしたが、今年は「フェムテック」の名を「ジェンダード・イノベーション」に変更しての開催。しかし現在、フェムテック市場はバブルとも例えらるレベルで盛り上がりの真っ最中です。
なぜ敢えて、ここまでその名のメジャー化に一役買ってきた先駆者がフェムテックの名を使わず変更するのでしょう……? その背景を聞いたところ、女性の健康の未来に関わる「意外な課題」が見えてきました。
【お話】
インフォーマ マーケッツ ジャパン(株)ジェンダード・イノベーションEXPO統括責任者 白石さん/ ウーマンズ 代表 阿部さん
まず聞きたい、「2つの会社がタイアップすることになった」ブームの背景とは
――はじめに、なぜ2社がタイアップをすることになったのか、経緯をお聞かせください。
白石 世界最大規模のBtoBイベント主催会社、インフォーマ マーケッツは「健康博覧会」を40年に渡り主催しています。BtoBのヘルスケア業界では国内最大規模の展示会です。健康博覧会は国内外の最新ヘルスケアトレンドに毎年フォーカスしていますが、2021年当時のヘルスケア業界で最も関心の高まりが顕著だったトレンドの1つがフェムテックでした。
――なるほど、毎年その時その時のトレンドを扱う展示会として、既に外せないトレンドになっていたということですね。
白石 はい。ですがフェムテックは、他の多くのヘルスケアトレンドとは異なり、健康機能性だけではなく社会的な女性エンパワメントの潮流と共に急成長しており、ヘルスケア業界のトレンドとしてはかなりユニークであると言えます。複雑な女性エンパワメントの潮流を理解した上でヘルスケア業界を適切な方法でフェムテック市場をけん引すべく、女性ヘルスケア業界を専門にビジネスを展開されてきたウーマンズさんとタッグを組めればと考えました。
――潮流が複雑であるがゆえに、それを専門とする別企業の知見が必要だったという理解でOKでしょうか?
白石 そうですね、社会問題を包括したトレンドでビジネスを展開していくとなると、偏った見方をされてしまったり、「炎上」してしまったりといった傾向はありますよね。そこで、フェムテックブームの以前から弊社健康博覧会にて女性ヘルスケアをテーマに度々ご登壇いただいていたウーマンズさんに、一歩進んだ「タイアップ」をオファーさせていただきました。
――なるほど。この「組む」ということそのものが、かなり異例のことなのではと感じたのですが、いかがでしょう。
白石 その通り、展示会主催会社が異業種とタッグを組んで企画を作り込むことはかなり異例なことです。が、「共創」が重視される今の世の中で、合理的かつ非常に意義のある取り組みになっていると思います。
阿部 ウーマンズは10年以上前から女性ヘルスケア分野に特化して市場分析や企業のコンサルティングを行ってきましたが、フェムテックのブームは確かに、これまでの様々な健康トレンド、例えばダイエットやスーパーフードなどとは明らかに違う盛り上がり方を見せています。個人・社会・業界・企業を巻き込む吸引力がとてつもなく強いと、私自身も驚いています。
日本のフェムテックは「女性へのエンパワメント」と共に成長してきた市場
――ウーマンズ代表の阿部さんのお立場からご覧になって、その盛り上がりの要因は何なのでしょうか?
阿部 白石さんがおっしゃる通り、女性をエンパワメントするという理念がフェムテックのムーブメントの根底にあるため、個人もメディアもメッセージを発信しやすいことが大きいと感じています。ただ一方で、フェムテックは女性のこれまでの抑圧された悩み・課題・不便を主張することとセットで語られることが多いため、「行き過ぎたフェミ二ズムや感情論」と捉えられてしまうことも少なくないのも事実です。
――確かに、フェムテックはどちらかといえば「ちょっと気をつかう」テーマという印象もあります。
白石 そうなんです。なので、フェムテックを「一種の社会思想」のようなものではなくて「商機」として早く業界人に認識してほしいと考え、ビジネスに焦点を当てた展示会を開催したいと思いました。フェムテックをテーマにしたこのような大規模のBtoB展示会は、我々が国内で初めてでした。
――日本国内で「感情論」と捉えられてしまうことにはどんな背景があるのでしょうか?
阿部 日本のジェンダーギャップ指数は2022年も146ケ国中116位と、相変わらずの低位です。これが示すように日本は他の先進国と比べると男女格差が大きく、根強く残る性別役割分業や女性蔑視により、職場や家庭の中で我慢や不便を強いられることがまだまだ多いのが現実です。
――私たちがアンケートをとっても、やっぱりそういう声が集まります。あんまり状況は変わっていない、と。
阿部 そんな折に、これまでタブー視されてきた女性の心身にまつわるトピックをもっとオープンに話してもよいというフェムテックのブームがやってきた。そこから、女性の社会進出や働き方といった多様な視点からも女性特有の課題が表面化するようになり、女性たちが男性主導社会に声を大にしてモノ申せるようになった。
――女性からしてみればいいことずくめ、やっといろいろ言えるようになった!という感じだと思うのですが…?
阿部 そうなんです、これは私含め日本の女性にとって、世の中の価値観を変えられるチャンスですが、メッセージを発信する人によっては過去の経緯の分だけ感情的になりやすい。これが「フェムテック=感情的」というイメージも作り出してしまい、しまいには、男性陣はフェムテックのトピックを腫れ物のように扱ったり、中には「女性優遇だ、男性差別だ」という反発まで出るに至りました。
――バランスよくいろいろな人に賛同を得ていくことはつくづく難しいのだな、と再確認するお話です。
阿部 その点、男女格差が小さい国だと、感情よりもきちんとしたビジネスのイメージが先行しているため市場としても成長しやすいように思います。日本でもフェムテックの市場をもっと成長させていくには、感情や理念以上に、ある意味ドライにビジネス視点を持って社会に向けて語る必要があると思っています。
ここが日本の難しさ?「海外ではもっと多様な商品が登場している」
――フェムテックといえば膣ケア、吸水ショーツ、デリケートゾーンケアアイテムなど、膣まわりの商品のことだなという漠然としたイメージがあります。
阿部 特に業界外の人と話をしているとそういう声をよく聞きますし、業界の中にいる私たち自身も感じています。例えば吸水ショーツやデリケートゾーンケアアイテムは、AIやロボティクスといった高度なテクノロジーを必要としないので開発技術や資金面でハードルが高くないですし、ビキニ領域はフェムテックのブームが起きた当初から一番注目されてきた領域なので、企業側にとっても消費者に訴求しやすい。事業規模や業種関係なく新規参入しやすいのでフェムテックがその辺りに集中しているのだと見ています。
白石 出展企業を募る営業活動のなかでも、「フェムテックってセクシュアル系アイテムやデリケートゾーンケア製品のことですよね?」と言われることは多かったですね。業界人であっても、フェムテックを偏って捉えてしまうんだなぁということを感じています。
――正直、閉経が近い世代は吸水ショーツにそこまでは関心がない。なので、フェムテックって若い人のもので、私たちには関係ない気がしています。
阿部 そう思っちゃいますよね。それは、私たちも業界全体の課題として認識しています。報道の影響もあって日本の場合は、フェムテックが性・生理・妊娠・出産と強く結びついている上に、ローンチされる商品も若い世代に向けたものが多い。
――言われてみれば、フェムテックのお店そのものもビジュアルからして20代から30代が対象というイメージです。
阿部 そうですね。フェムテックを扱う小売側にも問題があると思ってて、「フェムテックや女性特有の健康問題=若い世代のもの」というアンコンシャス・バイアスがあるように感じます。
――アンコンシャス・バイアス、要するに無意識に私たちもそう囚われているということでしょうか。
阿部 一方で海外ではミドルエイジやシニアが対象のフェムテックも色々あって、ホットフラッシュを軽減する腕時計型のウェアラブルデバイス、女性に多い橋本病や高齢者のうつ病、摂食障害に着目したサービスなど、女性が各年代やライフステージで直面する多様な課題に対してそれぞれ多彩なソリューションが登場しています。フェムテックは本来、あらゆる女性に関係のある言葉なので、今の日本のイメージは、本来の言葉の本質からズレてしまっているように感じます。
白石 これは、今年の躍進が期待されるメンテックにも言えます。国内では、先行するフェムテックに倣い「メンテック=生殖・男性機能」というイメージが既に拡散している傾向があります。生殖領域の発展も含め、メンテック市場が多様性を持ちながら拡大していくためにも、トレンドが先行するフェムテックが、まず先に多様化を推し進めてほしいなって思います。そしてそれがヘルスケア業界全体の発展にも繋がると考えています。
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